2020年5月14日現在、新型コロナウィルスの新しい感染者数は40名を切る日も出てきて、収束の兆しが出てきています。一方で長期の営業自粛により、観光や飲食店、観光業や商業スポーツ、アーティストは、営業の自粛を強いられ経済損失が問題になっています。
しかし、奈良時代に日本を襲った天平の大疫病を見てみると、疫病の終結後に社会が変容し庶民が豊かになっていった事実が見られるのです。今回は天平の大疫病後からアフターコロナと経済を考えてみましょう。
700万人から150万人が死んだ天平の大疫病
天平の大疫病とは、奈良時代の西暦735年から737年まで猛威を振るった感染症で、天然痘と考えられています。天然痘は、当時、日本と国交があった唐や新羅から遣唐使や遣新羅使を通して広まったとも考えられているようです。今回のコロナウィルスも中国武漢発ですから、グローバル経済は国を豊かにもしますが疫病も運んでくるんですね。
この時の天然痘の猛威は凄くて、全国で100万人から150万人が亡くなったそうです。当時の日本の人口は700万人らしいので総人口の20%。今で言えば2400万人が死ぬ計算になります。めちゃめちゃですね。当時は疫病だけではなく旱魃、飢饉、大地震など天変地異が相次ぎ、天然痘はそれに追い打ちを掛けました。
政界でも、政治の中枢にいた藤原武智麻呂、房前、宇合、麻呂が相次いで天然痘に罹患して死去、740年には藤原広嗣が大宰府で反乱を起こすなど政治も停滞し、社会は天然痘のダメージから立ち直れずにいました。
奈良の大仏を民衆の心の支えに
聖武天皇は、天変地異と疫病で荒んだ人心を癒し勇気づけようと743年に大仏造立の詔を出します。その2年前の741年には全国に国分寺と国分尼寺を建立する詔を出していて、天皇が仏教の力で国を治めて行こうと思考した事が分かります。もちろん、これらの作業には多額のお金と労働力が必要とされました。
国費だけでは足りず、全国からも寄付が求められ行基というお坊さんが全国を行脚して勧進をしていきますし、山口県からは銅、宮城県からは金が大仏建立に供出されます。当時の庶民からすれば、こんな大変な時に莫大な金と労力が必要な大仏なんか造営して何になるという不満も上がったでしょう。しかし、聖武天皇の狙いは日常を取り戻す事にありました。
何年も掛かるプロジェクトに従事していれば、庶民にも自然と日常のリズムが戻ります。焼け野原の復興と同じで動き続ければ人は希望を取り戻すものなのです。奈良の大仏は大仏殿も合わせ造営に8年、今のお金で4657億円も資金を掛け751年に完成。大仏開眼供養には1万数千人が参加しました。
大仏は、その後、源平合戦や戦国時代の戦乱で焼失しましたが、その度に再建されて今に至っています。この大プロジェクトで庶民の心にも仏教が根付いたのです。
天平の大疫病アフター
国分寺、国分尼寺の建立と奈良の大仏の造営は、大和朝廷の財政を圧迫します。さらに人口の減少は税収を落ち込ませ、国家財政は危機的状況でした。この状況下では、生き残った人民のやる気を引き出し、生産力をあげるしかないのです。
ここで出されたのが西暦743年の墾田永年私財法でした。それまでは土地は国のもので、人民は孫の世代には土地を返還していたのが自分の私有になったのです。人民は豊かになろうと、一生懸命に田畑を耕し、荒れ野まで開墾して農地化しました。それで、農作物が多く獲れるようになり税収は増えていきます。
また当時は、寺院や高級役人の土地は無税でしたから、彼らは農民から土地を買い開墾に精を出します。農民も自立するよりは土地を、売却したり寄進して労働力を売り生活する方が、凶作、豊作の影響が小さいと気づきます。
こうして、日本では荘園が発達していきます。大和朝廷は税収が減り弱体化しますが、一方で鎌倉時代にかけて人口は1000万人にまで増加。庶民は、奈良時代よりは豊かで暮らしやすい社会になったのです。まさに天平の大疫病が産んだ社会変革でした。
アフターコロナ
日本での新型コロナの死者は、海外に比較しても非常に少なく留まっています。しかし、2020年4月7日の政府による非常事態宣言の発令以後、1カ月以上、日本社会は自粛ムードであり企業の倒産、従業員の解雇など経済不況が深刻化しています。
この事は税収に大打撃を与える事は間違いなく、これ以上の失業者を抑える為に政府は、これまで続けてきた緊縮財政の見直しを迫られるでしょう。国民一人当たり、10万円を支給する特別定額給付金はよく知られていますが、それでも12兆円で景気刺激策としては足りません。
また、コロナは全滅したわけではなく、インフルエンザと共に、今年の冬に流行が予想され相乗効果で今回以上の感染者が予想されます。
日本政府は、医療費抑制の方針で病床を削減してきたわけですが、感染症もグローバルに入ってくると分った以上、医療費の増額と命の危機に瀕する医療従事者の待遇改善を早急に進めねばなりません。拍手だけでは頑張りにも限界があるからです。政府は大切な命を守ると言ったのですから、大胆な財政出動で経済の回復と医療の再生を図り、国民生活をコロナ以前の水準に戻し、生活苦を減らす為に全力を尽くす義務があります。天平の大疫病のアフターケアに学び、国民が消費し経済を回せるようにバックアップするのが肝要でしょう。
kawausoの独り言
感染症は最悪死に至る病なので、その流行期間には様々なものが見えます。人間の愚かさ、弱さ、醜さ、身勝手さ、一方で、大きな困難を前にして一致団結しようとする連帯、他人への思いやりと忍耐力。どちらも人間ではありますが、ここからはポジティブな面に目を向けて、アフターコロナという日常を生きていきたいですね。
参考文献:感染症対人類の世界史 ポプラ新書
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