【はじめての孫子】第12回:卒を視ること嬰児の如し、故にこれと深谿に赴むくべし。

2015年11月24日


 

兵士

 

「はじめての孫子」も12回目となりました。

今回は『地形篇』です。

前回に引き続き、戦場の地形に関する考察を進めていく孫子。

同時に、軍を指揮する将軍の過失によって起こる危険について語ります。

 

前回記事:【はじめての孫子】第11回:兵は多きを益ありとするに非ざるなり。

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監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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地形篇の概要

 

・戦場となる場所の6種の地形を理解せよ

・将軍の過失によって起こる6つの危険

・兵士を子どものように慈しみ、愛情を持って接するべし

 

 

 



戦場を6種類の地形に分類

 

前回の『行軍篇』では、

主に進軍に影響を与える地形について考察した孫子ですが、この地形篇では、

実際に敵と味方が衝突する戦場となる場所について考察しています。

孫子は戦場となる場所の地形を6つに分類しています。

 

(1) 広く四方に開けている地形

敵からも味方からも侵入が容易な、広く開けた土地のことです。
このような地形では敵味方とも条件は互角となります。
そこで孫子は、まず敵軍より先により高い場所を探してその南側に布陣し、

かつ補給路を確保すれば、敵に対して優位に立つことができるとしています。

より高いところに布陣せよ、というのは前回の『行軍篇』にもありましたよね。

 

(2) 行軍が困難な難所を含む場所。

地形が険しい山の稜線のような、軍隊が進行しにくく渋滞する恐れのある地形では、

敵より先にそこを超えて橋頭堡となる地点を確保して戦わなければいけません。

もしそのような場所に敵が先んじて布陣している馬合は、

無理に難所を超えて戦っても勝てず、撤退も困難になるので攻めてはいけません。

 

(3) 脇道が分岐している土地

脇道が幾重にも分岐するような地点に布陣するのは危険です。

敵がその地点を超えて自軍を誘い込もうとしても、それに乗ってはいけません。

その地点から軍を後退させて敵を待ち受け、

敵軍の半数が進軍してきたところに攻撃すると有利になれます。

 

(4) 岩壁に挟まれ道幅がせばまっている土地

広い土地から谷あいに入りこむような、

急に狭く両側を岩壁で挟まれているような地形は守りやすい場所です。

敵より先にそのような場所を確保できたら、そこに兵を密集させておけば、

敵は容易に攻めてくることができません。
逆に、敵がそのような場所を自軍に先んじて確保し、

かつ密集隊形を取っているときは、攻めてはいけません。

 

(5) 高く険しい地形

『高いところに布陣せよ』は孫子の教えの基本(あくまで基本ですが)です。
相手よりも高い場所に布陣すれば守りやすく攻めにくくなるからです。

当然、そのような場所を敵に先んじて確保できるなら、

そこに布陣して相手を待ち構えるのがベストです。
すでに敵がそのような有利な場所に陣取っていたら、決して攻めてはいけません。

 

(6) 自陣と敵陣が遠く隔たっている場合

敵と味方が互角で、しかも双方の陣地が遠く離れている状況では、

自分から敵を攻めにいってもいたずらに兵を疲弊させるだけで不利になります。

守りを固めて敵に自軍を攻撃させるよう、策を用いるべきです。

 

将軍の過失によって起こる軍勢の6の危険

 

軍が危機的状況に陥るのは、なにも敵からの攻撃されることだけが原因ではありません。

軍を指揮する将軍(指揮官)自身の過失が、軍全体を危険に陥らせることもあります。

孫子は指揮官の責任で生じる6つの危機的状況を説いています。

 

(1) 自軍の10倍もの敵に攻撃しようとするのは自殺行為です。

兵士は恐れをなして敵と戦う前に逃亡を図るでしょう。

 

(2) 兵士が屈強でも、それを指揮する部隊長が弱気で兵士の行動を取り締まることが出来なければ、

兵士は部隊長をなめて、軍の規律は緩んでしまいます。

 

(3) 逆に、部隊長が強すぎて、必要以上に兵士を厳しく取り締まれば、

兵士たちは萎縮し、士気は落ち込んでしまうでしょう。

 

(4) 将軍配下の上級指揮官が将軍と反目してその命令に服従しないような状況に陥れば、

その指揮官は将軍の采配に従わず勝手に戦うようになり、

軍を崩壊させる危険を産んでしまいます。

 

(5) 将軍が軟弱で命令も徹底できなければ、

兵士にもしまりがなくなり、陣立てもみだれてしまいます。

 

(6) 将軍が敵軍の情勢を推し量ることもせず、

自軍の陣容も整えることなく多数の敵に少数であたるようなことをしてしまえば、敗北は必至です。

以上、6つの危機的状況はすべて将軍の責任に帰することであり、

このような事態に陥らないよう務めるのが、

将軍に課せられたSci-Fiの責務であると孫子は言っています。

 

兵士たちを赤ん坊のように愛せ

 

戦場の地形や敵味方の情勢というものは、前線で軍を指揮する者にしか把握できません。

将軍には、それらを冷静に見極めて勝算がないと判断したら、

君主から戦闘を命じられても戦ってはいけない、

逆に君主が攻撃を認めなくても、勝てると判断した場合は攻撃しなければいけません。

功名心からいたずらに敵を攻めず、必要な時には君命に背いてでも兵を退き、

罰せられることを恐れない。そのような将軍こそは国の宝であると孫子は言っています。

また孫子は、将軍が兵士たちと信頼関係を結ぶには、

兵を赤子のように労り、愛を持って接する必要があるとも説いています。

将軍が末端にも気を配っていることを兵士たちが知れば、

彼らはその将軍の指揮下で死地を戦うことも恐れなくなります。

しかし、ただ兵士を気遣い愛情を持つだけでは、

兵士たちは甘やかされたわがままな子どものようになってしまうので、

厳しく引き締めるべきときはそうしなければいけません。

戦場の地形から敵軍の情勢、さらには指揮下の兵士たちの心情まで、

そのすべてを把握し、考察し、

それに基いて行動できる将軍こそが「戦争に勝つ」者になれると、孫子は断言します。

 

三国志ライター 石川克世の次回予告

石川克世

 

次回、「はじめての孫子」第13回目は『九地篇』

孫子の地形分析はまだまだ続きます。

そして、敵地へ侵攻する際の心構えを説いています。

 

それでは、次回もお付き合いください。 再見!!

 

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はじめての孫子の兵法

 

 

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石川克世

三国志にハマったのは、高校時代に吉川英治の小説を読んだことがきっかけでした。最初のうちは蜀(特に関羽雲長)のファンでしたが、次第に曹操孟徳に入れ込むように。 三国志ばかりではなく、春秋戦国時代に興味を持って海音寺潮五郎の小説『孫子』を読んだり、 兵法書(『孫子』や『六韜』)や諸子百家(老荘の思想)などにも無節操に手を出しました。 好きな歴史人物: 曹操孟徳 織田信長 何か一言: 温故知新。 過去を知ることは、個人や国家の別なく、 現在を知り、そして未来を知ることであると思います。

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