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【はじめての孫子】第11回:兵は多きを益ありとするに非ざるなり。




蜀軍のテント

 

「はじめての孫子」第11回目『行軍篇』です。
軍隊が進軍するのにもっとも重要な影響を与える地形や地勢について、
そして、進軍する敵軍の様子について、孫子の鋭い観察眼が光ります。

 

はじめての三国志全記事一覧はこちら

前回記事:【はじめての孫子】第10回:九変の利に通ずる者は、兵を用うることを知る

関連記事:三国志を楽しむならキングダムや春秋戦国時代のことも知っておくべき!

 

 

『行軍篇』の概要

 

●4種類の地形(山、川、沼沢、平地)を利用するためのポイント

●敵を良く観察して、その内情を見抜け。

 

 

進軍するのにあたって、押さえておきたい4つのポイント

 

地形や地勢というものは、時に軍隊の進軍を阻む障害となりますが、

逆にそれを上手く利用すれば敵より有利に戦うことが可能となります。
孫子は軍隊の進む地形を4種類にわけ、それぞれの地形で注意すべきこと、

その地形を有効活用して有利に戦うためのポイントを挙げています。

 

(1) 山岳地帯

山岳地帯を進行する場合、まず谷沿いに進みます。
行軍を止めて休息をとる場合は高所に布陣し、

敵に襲撃された場合は高所から反撃できるようにします。

逆に、自軍より高い位置に布陣する敵軍を攻めてはいけません。

 

(2) 河川流域

川を渡るときは注意が必要です。
河川を渡る軍隊は重い装備を身に着けながら水の流れに逆らって動くわけですから、

その行動は著しく制限されることになります。

川を渡るときはできるだけ迅速に渡りきり、

そして川を渡ったら急いで川から離れなければなりません。

川岸でもたもたしていたらそこで敵に攻撃され、川に追い込まれることになってしまいます。

敵が川を渡ってくるところを攻撃するなら、敵が川の中にいるところではなく、

半数が川を渡りきったところで攻撃するのがベストです。

こうすることで、自軍をできるだけ川に近づけずに戦えますし、

また、敵の後ろ半分は川の中にいてまともに戦えませんから、

実質敵の数を半数に減らすことにもなります。

 

項羽と劉邦

 

漢の劉邦(りゅうほう)項羽(こうう)の楚が覇権を争った楚漢戦争の最中、

劉邦配下の将軍であった韓信率いる漢軍は敵である趙軍に対し、

川岸で川を背に布陣し、勝利を得ています。
川岸に、それも川を背に布陣するなど、

孫子を始めとする数多の兵書が揃って戒める愚策でしたが、

韓信はその状況で見事趙の軍勢を破ってます。

この時、趙軍は漢軍に対し圧倒的多数でした。

韓信は自軍をあえて不利な状況に追い込み、

兵士を奮起させることで敵を打ち破ったのです。孫子のみごとな応用と言えるでしょう。

 

参考記事:【史上最高の天才将軍 韓信(かんしん)は性格にかなり問題あり?

 

(3) 沼沢地

沼沢地も、河川と同じく軍隊の行動の障害となる厄介な地形です。
当然、そのような場所で布陣するのは愚策ですが、

もし沼沢地で敵軍と相対する必要が生じた場合は、

飲料水や馬の飼料となる馬草の確保できる場所を選んで敵の障害となる森を背後に布陣しろと、

孫子は説いています。

 

(4) 平地

なだらかな平地は最も軍勢が行動しやすい地形ですが、それは敵軍も同じです。
平地で戦う場合には、できるだけ足場の良いところに布陣し、

丘陵などの高所を背後にして後方からの襲撃に備えるのが良いでしょう。

 

兵士の健康に気を使う、結構優しい孫武?

 

地形に関する留意点の他、孫子はこんなことも言っています。
『日当たりの良いところに布陣すること。

日当たりが悪くて湿気の多いところに布陣してはいけない』

『兵士の健康に気を使い、飲水や馬の餌となる草が豊富にあるところに布陣しろ』

人間である以上、水や食糧が底をついたり、

不衛生な環境に置かれれば兵士だって病気にかかってしまいます。

そうなったらもう、戦争どころではありません。

赤壁の戦いにおいて曹操が敗北した要因のひとつとして、

疫病があったとされています。
長年の戦いに軍勢が疲弊していた上に、湿度の高い不慣れな水軍での戦いで、

曹操軍に伝染病が蔓延したと言われています。

 

【参考記事:曹操「赤壁で負けてなんていないんだからねっ」

 

名探偵顔負けの観察力を発揮する孫武

 

軍隊はその行軍にあたって、必ず地形の影響を受けます。
また、自軍がそうするのと同じく、敵軍もまた、その地形を利用することを考えています。
孫子は偵察した敵の様子を観察し、敵の内情や策略を見抜くことができると言います。
その観察眼の鋭さは、まるでシャーロック・ホームズか杉下右京かのようです。

・敵軍が自軍の近くで布陣しているにも関わらず、

平然と落ち着き払っている場合、それは敵が険しい地形に頼っている証拠である。

・遠方の敵軍が自軍を誘って戦いに引きこもうとするのは、

敵が有利な兵士に布陣しているからである。

・森林地帯の木立が不自然にざわめいていたら注意が必要。

それは敵が森林を越えて進軍してきている証拠である。

・草原で草束を結んで重ねて置いてあったら、

それは敵が自軍に伏兵の存在を疑わせようとしている証拠である。

・草むらから鳥が一斉に飛び立ったら注意。伏兵が潜んでいるサイン。

・森から獣が駈け出してきたら、その森には敵軍が潜んでいて奇襲攻撃を狙っている。

・砂塵が巻き上がって近づいてくるのが見えたら、敵軍が接近しているサインである。

・砂塵があちこちに分散しているのは敵が薪を集めているサインである。

・砂塵が収まってきたら、それは敵が野営の準備を始めたサインである。

 

細かいところが気になってしまう、孫武の悪いクセ。

 

孫子の観察眼は、敵軍からの使者や兵士の行動にも向けられます。

・敵が守りを固めているなか、その使者の口上がへりくだっている様子を見せたら、

それは敵が侵攻作戦を準備している証拠である。

・敵の前衛部隊が攻撃をしかけてくる様子を見せているなか、

敵の使者が強硬な態度をみせたら、それは敵が撤退する準備を進めているサインである。

・特に追い詰められているわけでもないのに、

敵が使者を送ってきて和睦を申し込んできたら注意すべし。

それは自軍を油断させようとする策略である。

・敵軍の伝令が走り回し、兵士が整列し始めたら要注意。敵は決戦を挑む準備をしている。

・敵軍の一部が、全体と足並みを揃えず中途半端に進軍してくるのが見えたら、

それは敵が自軍を釣ろうとする罠である。

 

最後にもうひとつ。(ひとつだけとは言っていない)

 

・敵兵が杖をついて立っているのが見えたら、それは敵軍が衰弱している証拠。

・敵軍の兵士が水汲みに行って、

水を汲む前にまず自分が水を飲んでいたら、敵は飲料水の確保に困っている。

・有利な状況にあるにも関わらず敵が進軍して来なかったら、敵が衰弱している証拠

・鳥が木々に群れて止まっていたら、そこには敵軍はいない。

・敵陣から夜間に叫び声が聞こえてきたら、敵は臆病になっている。

・敵陣がいつも騒がしければ、敵の将軍が兵士から甘く見られている。

・風もないのに敵の旗印が揺れ動いているのは、敵の備えが乱れているサイン。

・馬に兵士の兵糧米を食べさせる、兵士に馬を食べさせる、

煮炊きする鍋釜を打ち壊しているのは、敵軍が追い込まれ崩壊寸前の状態になっているサイン。

・将軍が兵士にへりくだった態度を取っていたら、その将軍は兵士の忠誠を得られていない。

・将軍がやたらと兵士に賞を与えていたら、それは敵軍の士気が下がっている証拠。

 

人間観察を用兵に活かす孫子の慧眼

 

軍隊はただ数が多ければ強いというわけではありません。
指揮するものが軍勢を掌握し、兵士の忠誠を得られてこそ、その実力を発揮できます。

兵士に対し法令を徹底し、順守させること。
懲罰を多用しすぎたり、逆に的確に懲罰を用いないと、兵士は指揮官の命令を聞きません。
軍勢が、その数以上の働きをするためにも、

どれだけ指揮官が兵士を掌握しているか、それこそが重要であると孫子は唱えています。

 

三国志ライター 石川克世の独り言と次回予告

石川克世

 

『軍はできるだけ高いところに布陣すること』

これを読んで筆者はおやっ? と思いました。
気づいた方も多いのではないでしょうか? そう、山登り大好きこと、馬謖のことです。
街亭の戦いにおいて、馬謖は孫子の教えに従い高所に布陣しましたが、

そのことが原因で敗れ去ってしまいます。

なんだ、孫子の言ってることと違うじゃん? 孫子って実は大したことがない?

いえいえ、そうではありません。
孫子はこうも言っているではありませんか。

「布陣する場所は水や馬草が十分確保できる場所にすること」、と。

馬謖は孫子の読み込みが足らなかったのかもしれません。

兵法を知り抜いてその逆を行く応用を見せた韓信と、

半端な知識で兵法を見誤ってしまった馬謖。なかなか面白い対比と言えるかもしれません。

さて、次回『はじめての孫子』は「地形篇」
地形の利用について、更に深く追求していきます。

それでは、次回もお付き合いください。 再見!!

 

はじめての三国志全記事一覧はこちら

次回記事:【はじめての孫子】第12回:卒を視ること嬰児の如し、故にこれと深谿に赴むくべし。

 

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石川克世

石川克世

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三国志にハマったのは、高校時代に吉川英治の小説を読んだことがきっかけでした。最初のうちは蜀(特に関羽雲長)のファンでしたが、次第に曹操孟徳に入れ込むように。三国志ばかりではなく、春秋戦国時代に興味を持って海音寺潮五郎の小説『孫子』を読んだり、
兵法書(『孫子』や『六韜』)や諸子百家(老荘の思想)などにも無節操に手を出しました。

好きな歴史人物:

曹操孟徳
織田信長

何か一言:

温故知新。
過去を知ることは、個人や国家の別なく、
現在を知り、そして未来を知ることであると思います。

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