妻に見切りをつけられ離婚されてしまいました。
しかし、周に仕えて名を轟かせるようになると噂を聞いた元妻が復縁を迫ってきます。
これに対し太公望は水を入れた盆を持ち上げたかと思えば水を床にぶちまけて
「この水を元通り盆に戻すことができたら復縁しよう」
と言いました。
女は必死に水をかき集めようとしますが、当然水を元通り盆の中に満たすことはできません。
このエピソードから「覆水盆に返らず」という言葉が生まれたのですが、
実は似たようなエピソードが『漢書』にも記されています。
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朱買臣、歌を歌い続けた挙句離縁される
前漢の御代、会稽郡に貧乏なくせに農耕などは一切せず、
本ばかり読んで薪を売って暮らす朱買臣という男がいました。
この出だしだけでダメダメな雰囲気の彼ですが、一応妻を娶ることはできたみたいです。
ある日、朱買臣と妻はいつものように薪を拾いに出かけたのですが、
朱買臣がおもむろに道端で大きな声で歌い始めます。
「恥ずかしいから歌わないでください」
と眉をひそめて止める妻。
しかし朱買臣は歌うのを止めるどころか
ますます声高らかに歌い始めるではありませんか。
まるでいうことをわざと聞かない小学生のようですよね。
すると妻は顔を真っ赤にしてブチギレ。
「もうあなたとは離婚よ!」
これに対して朱買臣は
「俺、50歳になったら富貴な身分になるんだよ?
今40過ぎだからあとちょっとだよ? 偉くなったら恩返ししようと思ってるのに。」
と妻に対し説得を試みます。
しかし妻は
「そんな夢物語があるわけないでしょ!
このままあんたと一緒にいても野垂れ死ぬだけよ!」
とますます怒り狂い、結局朱買臣は離婚されてしまったのでした。
朱買臣、再婚した妻と再会し飯をもらう
その後も相変わらず薪を拾って歩いた朱買臣ですが、
やはり食うにこと欠くことがしばしばあったようです。
すっかりやつれた朱買臣が墓場で薪を拾っていると、
なんとそこに元妻とその再婚相手が現れます。
元妻は元夫のみすぼらしい姿を哀れに思って朱買臣に食事をめぐんでやりました。
普通の人なら恥ずかしすぎて死にたくなってしまいそうですが、
朱買臣はむしろ「頑張らなくては」と思った様子。
とりあえず一兵卒に志願して偉い人と一緒に長安に行き、
なんと武帝に「自分を雇ってください」と上書します。
しかし、武帝がどこの馬の骨とも知れない朱買臣に
わざわざ返事を書いてくれるわけもなく、
返事を待っているうちに金が無くなった朱買臣は
仲間にご飯をもらって暮らすようになってしまったのでした。
朱買臣、元妻に飯を恵む
しかし、そんな朱買臣にもようやく転機が訪れます。
なんと幼馴染の荘助が朱買臣を武帝に推薦してくれたのです。
朱買臣はその聡明さを武帝に大変気に入られて侍中となりました。
そしてその後は紆余曲折を経たものの、
見事会稽太守となって故郷に錦を飾るまでになったのでした。
朱買臣が会稽郡に着任する際、
民草たちは役人から命じられて朱買臣のために道の清掃をしていました。
朱買臣がその様子を何気なく眺めていたところ、
見たことのある人が目に入ります。
元妻とその再婚相手です。
朱買臣は自分が受けた恩を思い出し、
2人を太守の館に招いておもてなし。
「あなたがたのおかげでここまで出世することができた」
と感謝の言葉を述べたそうです。
ところが、朱買臣の感謝の心は
かえって妻のプライドをひどく傷つけたらしく、
妻はその後自殺してしまいました。
これを聞いた朱買臣は
再婚相手に申し訳ないことをしてしまったということで
元妻の葬式の費用を負担したそうです。
三国志ライターchopsticksの独り言
太守にまでのぼりつめた朱買臣ですが、
もしも妻と離婚していなかったら、
妻にご飯を恵んでもらえなかったら、
そこまで出世することはできなかったかもしれません。
2人の男女の間には夫婦というものとはまた違った不思議な絆があったのでしょう。
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