長い三国時代を経て、最終的に中国を統一することに成功したのは、司馬懿の子孫たちでした。
三国統一に成功した「晋」は、司馬懿を「高祖」と呼び尊敬しました。
高祖という呼称で思い出される人といえば、漢王朝を起こした劉邦がダントツで有名です。しかし司馬懿も同じ呼称を子孫たちから与えられていたのですね。
見方によっては三国時代の陰の主人公とも言える司馬懿とその一族ですが、諸葛亮孔明のライバルという立場から、どうしても「悪役」「カタキ役」というイメージが付きまとっています。
しかしそのような悪玉イメージも、ここ数年でずいぶん変わってきています。
この記事の目次
ついに中国の大河ドラマが描いた、主人公が「かっこいい司馬懿」である三国時代!
中国では『軍師連盟』という壮大な大河ドラマが制作され、日本でも衛星チャンネルで放送されましたが、この主人公が司馬懿でした。
たしかに、曹操に才能を見いだされたというキャリアのスタートから、三国時代の成立をその目で見ながら大成し、英雄中の英雄である諸葛亮孔明と何度も対決し、最後には天下統一の礎石を築いて息子たちの世代につないだ人物としてみると、司馬懿の視点から三国志を描けば一通りの重大事件が描けますよね。
古今の作家たちにとってこんなに便利なはずのキャラクターがなぜこれまでなかなか主役格に取り上げられてこなかったのか?
「悪役」のイメージが強すぎたから、としか言いようがありません。
いまだに日本の三国志ファンでも、「かっこよく描かれる司馬懿」というものにはどこか違和感が残ってしまうのではないでしょうか?
よくよく考えると司馬懿は主人公クラスのヒーローでもおかしくない?!
でも振り返り見ると、この司馬懿の功績、とても華やかなものなのですよね。
諸葛亮孔明にだけは、あと一歩、及ばなかったというイメージが強いのですが、その孔明とだいたい引き分けている(長生きすることも「勝負のうち」とみるなら、むしろ寿命で勝っている!)というのはじゅうぶん、凄いことです。
ためしに、諸葛亮孔明との戦いを除外して、彼の戦績を並べてみたら、どうでしょう?
凄くかっこいい、主人公格に見えてくるのではないでしょうか?
孔明「以外」の敵と戦った記録だけを並べてみると、圧巻のかっこよさ!
さっそく、やってみましょう!「対孔明戦以外」のものだけを並べると、以下のようになります。
・孟達の裏切りを鋭敏にキャッチし、秒殺した
・遼東の地で独立した公孫淵を文字通りボコボコにした
・その際、公孫淵の籠城の仕方を「ああいうふうにやるものではない」と部下にレクチャーするという余裕を見せた
・魏で発生した権力争いを電撃クーデターで制し、権勢を誇っていたはずの曹爽一派を粛清して実権を握った
とくに公孫淵を倒す時の手際のよさは鬼気迫るものでした。
「行軍で100日、戦いで100日、休養で60日、帰りで100日をかけるので、360日すなわち一年で公孫淵をやっつけてきます」と報告してから出発し、そのスケジュール通りに公孫淵を破っています。会社のプロジェクトでも、学園祭の準備でも、「なにかと物事は計画通りに進まない」ものですが、この人は完璧に計画通りに軍事を遂行してしまったわけです。
あまりにもこの時の手際がよかったせいで、なんだか公孫淵は「ザコ」という印象になってしまった有様なのでした。
でも、孟達にせよ公孫淵にせよ曹爽にせよ、司馬懿とやりあったキャラクターはことごとく「ザコ」解釈になってしまっているというのは、ひょっとしたら司馬懿が凄すぎたからなのかもしれません!
まとめ:かっこいい司馬懿というのも、なかなか悪くない!
諸葛亮孔明のライバル、という印象をすりこまれてきた人にとっては、「司馬懿がかっこいい」などというのは最初は抵抗があるかもしれません。
しかし上記のように「孔明戦以外」の戦績が超人的であるところを見ると、司馬懿は本来ならばじゅうぶんに歴史物語の主人公の役回りをこなせる、ヒーロー級の人材だったのではないでしょうか?
これがどうして、近年になるまで、なかなか主役格に抜擢されなかったのか?孔明が善で司馬懿が悪、というすりこみの強力さもありますが、もうひとつ、大事な理由がありそうですね。
司馬懿が、最終的には(本人の生きている間ではなかったにせよ)天下を統一してしまっていることでしょう。
三国志の英雄といえば「夢にやぶれてナンボ」なところがあるのに、出世街道をしっかりとこなして、成功まで収めてしまった司馬懿は、いまいち、この時代の物語の雰囲気にあわないのかもしれません。
三国志ライター YASHIROの独り言
もっとも、肝心の「晋」王朝が、そのあと100年200年も続く大王朝になっていれば、劉邦くらいに尊敬される「高祖」になれていたのかもしれませんね。実際の晋王朝の治世が短すぎたために、そういう扱いにはなりませんでしたが。
でも、これもイメージのすりこみのせいなのかもしれませんが、「劉邦」とか「チンギスハーン」とかいったビッグネームと一緒に世界史の教科書に載っている「司馬懿」って、やっぱりイメージと違いすぎて、想像できない…。
関連記事:牛金とはどんな人?司馬懿に恐れられて間違って殺害されてしまった残念な人