大人気春秋戦国時代漫画キングダム。戦いは、いよいよ因縁の信・羌瘣vs龐煖に雪崩れ込んでいこうとしています。
漫画では、スーパーエキセントリックで知られる龐煖ですが、彼と秦王政には多くの共通点がある事をご存知でしょうか?
今回は始皇帝に影響を与え続けた龐煖と道家思想について解説します。
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この記事の目次
自らを宇宙と同化する道家
龐煖は史実と漫画では、随分異なるように見えますが、実は共通点があります。
それは、どちらも道家を信奉している点です。
では、龐煖が求道している道家とは一体なんでしょうか?
春秋戦国時代には、諸子百家と呼ばれる無数の思想が生まれました。
しかし、これらの思想は、ほとんど現世をいかに治めていくか?そのテクニックを伝授する思想でした。
医学に例えると対処療法とでも言えるでしょうか?
悪い部分を観察して適切な投薬をして、十分な休養を与えれば病気は癒えるように乱世についても、彼らのノウハウを実践すれば世の中が治まると説いたのです。
ところがその中で道家は異質でした。老子を開祖とする道家が説いたのは宇宙論であり、道を究めれば万物の根源のエネルギーである宇宙と一体になれると主張しました。
医学で例えると自然治癒でしょうか、宇宙と一体化すれば病は消えてしまい薬入らずで不老長寿になれるというようなものです。
キングダムの龐煖は実際には人間ですが、体内に武神を下ろす事によって武と一体化できるという考えに立っています。
龐煖と武は不可分であり、同時に武と同一化した龐煖より強い人間など存在しません。
だから自分の脅威になりそうな強者を求め、それを殺す事で自身が武そのものであると毎回のように確認しているのです。
皇帝権力を正当化すべく道家を利用した法家
そんな道家の思想に親和性のある思想が法家です。
一見すると、まるで接点がないように見える道家と法家ですが、法家は法という目に見えないものを絶対化する為に、法の執行者である皇帝を唯一無二の絶対の存在にする必要がありました。
そこで、道家の思想である修行すれば、人間は宇宙と一体になれるという思想を取り込む事にしたのです。
法家にとっての皇帝は宇宙と一体であり万物の根源そのものでした。
皇帝は唯一無二の絶対者であるので、無限の権力を持ち奮う事が正当化できるとしたのです。
ここで、龐煖を思い出して下さい。武という宇宙と一体化した龐煖にとっては、他の人間はゴミクズに過ぎません。
だから、何の躊躇もなく殺戮する事が出来ますし、罪どころかそれが正しいのです。
この道家の思想の危険にして、強力な宇宙と皇帝を同一の存在と見做す思想は、中華を一つの法でまとめるという法家思想に絶対必要でした。
皇帝の称号に道家の影響が
法家が道家の影響を受けている理由としては、李斯が秦王政に王ではなく、新しい称号を使うように求めた時に特に強く出ています。
それによれば、李斯は、神話的な支配者である天皇、地皇、泰皇の3つの中で泰皇を選びましたが、この泰皇とは、原始道家の概念で宇宙を支配する唯一神の事でした。
しかし、始皇帝は泰皇の称号をそのまま使わず、泰を外して帝を加えました。さらにこれに始まりの意味で始をつける事で始皇帝としたのです。
ちなみに秦王政が選んだ帝も上帝といい、こちらも宇宙万物の支配者という意味でした。
そうです、始皇帝も龐煖も宇宙と一体化したという意味では、まったく同じ志向を示し万物を超越する宇宙を自称したのです。
始皇帝が不老不死を求めた哀しい理由
ところが龐煖にせよ始皇帝にせよ、いかに人間を超越した宇宙の真理と同化しても永遠に生きる事は不可能です。龐煖は何代も世代を超えて武神を維持しているのであり、始皇帝にしても宇宙の真理に由来する絶大な権力を奮いながらも、寿命というどうにもならない壁を越える事が出来ませんでした。
何としても不老不死を得たいと願う始皇帝の行動は悲痛を通り越して滑稽でもありますが、始皇帝は単純に死にたくないというだけではなく、自分が死んでしまえば、宇宙と同化した唯一無二の存在が消えてしまい、万能の法が力を失うのを恐れたのです。
しかし、いくら頑張ろうと神ならぬ人の寿命には定まりがあり、始皇帝も50年という生涯を伸ばす事は出来ませんでした。
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