読者の皆さんは、「汗血馬」という馬をご存じでしょうか?
はるか昔の漢の武帝の時代、漢の遥か西の大宛フェルガナ)で産出され、「血の汗を流し、一日千里を走る」と言われた伝説的な名馬です。武帝は汗血馬を渇望するあまり、大軍を派遣して大宛を攻め、汗血馬を手に入れたほどです。
今回は、一説ではそんな「汗血馬」の子孫とも呼ばれる、「幻の馬」ことアハルテケについてご紹介したいと思います。
アハルテケとはどんな馬?
アハルテケとは、中央アジアのトルクメニスタンを中心に生産されている馬の品種です。アハルテケは体高140cmほどと、皆さんがよく目にするサラブレッドよりはやや小ぶりな体格です。また、アハルテケは他の馬と異なる長い耳とまばらなたてがみ、強く丈夫な脚が特徴です。
とはいえ、アハルテケの最大の特徴は、その光沢をもった体毛でしょう。アハルテケの毛は光を受けて光り輝き、非常に美しいことが知られています。
特に、一部の個体の毛色はクリーム色の河原毛や月毛と呼ばれる毛色であり、こうした毛色のアハルテケはまるで全身が黄金で出来ているかのように光り輝いて見えるほどです。
そして、こうした神秘的な姿から、アハルテケは「幻の馬」「黄金の馬」として讃えられているのです。また、アハルテケは見た目ばかりでなく、乗馬としても優秀であり、中央アジアの砂漠地帯の厳しい環境に耐えられる高い耐久力を持ち、長距離を走りぬく強い足腰を持っていました。
これについては、1935年にトルクメニスタンのアシガバードからソ連の首都・モスクワまでの4000km余りを84日で走破したという驚異的な記録が残っています。
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アハルテケの歴史
美しい姿と強靭な体力を持つアハルテケですが、その先祖はよくわかっていません。アハルテケが生産されていた中央アジアはシルクロード交易の要所であり、ユーラシア大陸の東西からやってきた様々な商品が取引されていました。
その中で、世界各地の馬が商人たちによってこの地に持ち込まれた歴史があります。
そうした背景もあり、アハルテケがどのように誕生したのはよくわかっておらず、イランで飼育されていたトルクマン種と呼ばれるすでに絶滅した品種との類似性を指摘する向きはありますが、今となってはその関係も不明です。
アハルテケが世界中に広く知られるようになったのは、1881年にロシア帝国がトルクメニスタンを征服した後です。ロシア帝国は、中央アジアの遊牧民が育てていたアハルテケを保護し、トルクメニスタンを中心に各地に牧場を建設し、アハルテケの育成に乗り出しました。
その際、ロシア帝国の将軍・クロパトキンは中央アジアにあったオアシス都市であるアハルと、そこに住んでいたテケという部族の名を取り、この馬を「アハルテケ」と名付けたと言います。その後、ソ連が誕生すると、中央アジアを襲った食糧難を切り抜けるべくアハルテケをはじめとする馬が食用とされ、アハルテケの頭数は激減します。
しかし、ソ連崩壊後にこの地に誕生したトルクメニスタンは、「黄金の馬」アハルテケを国の特産物として保護し、国章にもアハルテケをあしらうなど、アハルテケの存在はトルクメニスタンにとって国の誇りとなっているのです。
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アハルテケと汗血馬
冒頭でも述べましたが、このアハルテケと漢の武帝が渇望した汗血馬は果たして同じ馬なのでしょうか?これを裏付ける根拠は残念ながらありません。「アハルテケ」が知られるようになったのは19世紀末からであり、紀元前の中央アジアにこの馬が生息していたかは不明です。
しかし、アハルテケは砂漠の景色に溶け込むためにクリーム色・栗色などの薄い毛色の個体が多く、そうした個体は寄生虫に吸血された際に滲んだ血の痕が見えやすく、これが「血の汗をかく」という汗血馬の特徴を指しているのではないかという説があります。
なお、現在の中国では、アハルテケを「汗血馬」として飼育し、観光客向けに展示する牧場が新疆ウイグル自治区などにあり、毎年多くの観光客を集めています。
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三国志ライター Alst49の独り言
いかがだったでしょうか。
「黄金の馬」と呼ばれるアハルテケは、その特徴的な姿から、あたかもファンタジーの世界から飛び出してきたかのような神秘的な印象を受けます。アハルテケは現在、トルクメニスタンからの輸出が禁止され、保護対象となっていますが、それ以前に輸出された個体の子孫が全世界で飼育されています。
日本にもアハルテケを飼育している牧場[1]があるそうですので、もし興味がありましたら、訪れてみるのはいかがでしょうか。
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