いやはや、つまらないケンカをしてしまったものです。大人になった今だから冷静になれることですが、言われた時はムッとしたものですよ。何の話かというと、私がまだ高校生だった時の下校中。
三国志好きの友人とおしゃべりをしていたら、ふいに、「赤壁の戦いで、徐庶が龐統の『連環の計』を見破ったよな。ということは、実は徐庶のほうが龐統よりも上ってことじゃね?」と、言われた時のことです。
そんなわけねーだろ!と言い返してしまったのですが、確かに、言われてみれば、うまく反論できる根拠がない。
この記事の目次
孔明>龐統>徐庶は「もはや常識」?
実をいうと、それまでの私は、別に龐統が好きでもなんでもなかったはずなのですが。
十代の心というものは、不思議なもので。それまで好きでもなかった龐統のことを目の前でバカにされると、突然、弁護したくなってくる!どういうわけだか、「前から龐統が好きだった」ような気になってくる!という次第で、それ以降の私は、テレビゲームで劉備を選んでも、軍師には孔明をつけず、敢えて龐統をつける人となったのでした。
なぜ意固地になるほど、悔しかったのでしょうか?
おそらく、私の頭の中では、孔明 > 龐統 > 徐庶という公式が「もはや常識」とまでに組みあがっていて、その理論に挑戦されたような気になったのでしょう。思い出すだに、しょうもない話。
ですがこの話、ここでは終わりません。高校生時代の私が読んでいたのは、吉川英治の小説や、横山光輝のマンガ。
今は、羅貫中の『三国志演義』を読むようになっているのですが、このたびそちらの、演義のほうをよく読み返してみたら、突然、わかったことがあるのです。
『三国志演義』において、徐庶が龐統の策を見破ったのには、ある必然的な背景があったのです!
徐庶が龐統の策を見破った場面のおさらい
前後の状況を、おさらいしてみましょう。赤壁の戦いが、佳境に入ろうとしている頃です。
孫権と劉備の連合軍は、曹操の大船団に火計を仕掛ける準備中。ここで、ひとつ問題がありました。曹操の大船団に火をつけたところで、舟にバラバラに逃げられてしまっては、大火事にすることはできません。
大船団をなんとか一箇所に集めて、互いをつなぎあわせて動けなくさせておきたい。
そこで龐統の登場です。彼はその時点では、すでに孫権・劉備軍に肩入れをしているものの、公的にはまだフリーランスの身。その立場を利用して、いわばコンサルタントのような肩書で曹操軍を訪問します。
曹操本人から「なにか我が軍にアドバイスがあれば、ぜひお願いしたい!」と歓迎された龐統。そこで、慣れない船上生活の影響で曹操軍に病人が多発していることを指摘し、解決案として、「舟どうしを数珠つなぎにして鉄の環を打ってつなぎ止め、風にも汐のみちひきにもビクともしないようにすれば、兵士たちの健康は回復しましょう」と提案します。
これは火計の成功率を上げるための計略なのですが、曹操はまんまとその提案を受け入れてしまうのです。これで安心と、帰り道についた龐統のところに、突然、一人の男の影が。
「肝のふといやつめ。その計略で、曹操軍を一人のこらず焼き殺すつもりだろう!曹操はうまくいっぱい食わされたが、この俺はだまされんぞ!」びっくり仰天する龐統。
「さて、この男はいったい誰でありましょうか? 次回をお楽しみに!」と、この章は終わっています。
で、次の章になってから、声をかけてきた男は徐庶だった、ということがわかり、「いやいや冗談!私は騙されて曹操の部下にされてしまったのだが、龐統殿の計略を見破ったからといって、誰にも告げ口なんかしませんよ、ガハハ」「いやいや、徐庶殿も人が悪い。ガハハ」という、なごやかな雰囲気になるわけですが。
徐庶が龐統の策を見破ったのは、羅貫中の「いつもの手」の都合だった
『三国志演義』の技巧として、各章の最後でちょっとした波乱を起こし、「さあどうなりますか、次回をお楽しみに!」と期待をもたせる手法がとられております。
おそらく、寄席のような場所での読み聞かせを想定しての配慮なのですが。
ハッキリ言いましょう、この羅漢中の「いつもの手」、次章の冒頭では「なんだ、そんなことか」とがっかりするような凡庸なオチになることが大半です。
ひどい例が、第五十四章。
劉備と孫夫人の婚礼が行われた夜、劉備が夫人の寝所へ案内されると、そこには槍や刀がびっしり。さては罠か!劉備の命はいかに!
と煽っておいて、次章の冒頭で、老女が出てきて、「心配は無用です。奥様は小さいころから武術が好きで、このような部屋なのです。すぐ片づけます」となります。なんじゃそりゃ!となりますよね。もちろん、悪口ではなく、こういうどこかホノボノとした語り口も『三国志演義』の魅力なのですが。
結論:生き方上手という点では、徐庶>龐統>孔明かもしれない
もう、おわかりですね。徐庶が一瞬だけ、龐統の計略を見破った必然性。
「読者を煽って次章につなげるため」の演出だったのです!
徐庶にかぎらず、羅漢中の演出上の都合で、一瞬だけ不自然に強くなったり、一瞬だけ不自然に悪者になったりするキャラクターが他にもいそうですね。ところで、龐統の計略を見破った後、徐庶は曹操に対して、「留守にしている都が心配ではありませんか?
私に三千人ほど兵をつけてください。殿の留守を固めておきましょう」
とかなんとか、うまいことを言って、戦線からうまく離脱しています。
十代の私は「ずるいな」と思ったのですが、大人になると、徐庶のこの処世術、よく理解できるようになる。私だって火攻めを食らうとわかっていたら、同じことをします。
この辺の「オトナなズルさ」は、龐統や孔明には、ないところかもしれません。
三国志ライターYASHIROの独り言
ん、待てよ?
龐統は劉備軍に加わった最初の頃、退屈な仕事を割り与えられた際、昼間からお酒を飲んで悠々とさぼっていました。
手抜き名人の予感もあり。
もしかして「オトナなズルさ」という面からみると、
徐庶 > 龐統 > 孔明
だったりするのかも、、、!
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