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三国志演義、最適な翻訳版はこれだ![読者ガイド完全版]

2024年4月30日


袁術

 

漫画やゲームをきっかけに三国志に興味を持つようになった。三国志演義(さんごくしえんぎ)を読んでみようと思うけど、たくさんの翻訳本(ほんやくぼん)があってどれがいいのか分からない!そんなあなたのために、主な翻訳本6種類を比較してみました。ぜひお好みに合うものを選んで下さい!

 

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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井波律子さんの翻訳(2002年頃)

書籍

 

ちくま文庫の正史三国志の翻訳でおなじみの井波律子(いなみりつこ)さんの翻訳。原文の講談調の息づかいを大切にしながらリズミカルに訳されています。張飛が劉備を呼ぶ時の「哥哥(コーコー)」という言葉を「兄貴」と訳している本が多いですが、井波さんは「哥哥(兄貴)」としています。

 

文語調の三国志演義の中で張飛のせりふだけ目立って口語調なのですが、その雰囲気を活かしたくて「哥哥(兄貴)」と訳されたのだと思います。劉備(りゅうび)賄賂(わいろ)を要求する悪徳監察官に張飛(ちょうひ)が腹を立てる場面を下に抜き出してみます。

 

 

さて、張飛はヤケ酒を数杯ひっかけると、馬に乗って督郵(とくゆう)の宿舎の前を通りかかった。見ると五、六十人の老人が門の前でオイオイ声をあげて泣いている。張飛がわけを聞くと、老人たちは答えた。

 

「督郵さまは県の役人に無理強いして、劉公(りゅうこう)(劉備)に罪を着せようとしております。わしらはお願いにまいりましたが、中へ入れてくれず、反対に門番に叩き出されました」。張飛は激怒して、ドングリ(まなこ)をカッと見ひらき、バリバリ歯ぎしりして、転がるように鞍からおりると、ただちに宿舎に押し入った。

 

(『三国志演義(一)』講談社 2014年9月10日)

 

 

 

渡辺精一さんの翻訳(2000年頃)

張飛

 

講談社(こうだんしゃ)の『三国志人物事典』でおなじみの渡辺精一(わたなべせいいち)さんの翻訳。現代の日本語として違和感のないような訳し方を意識されているようです。軍事用語などがとても現代的です。固守持久作戦、指令本部、夜警(やけい)、など。「プライド」なんていう外来語のカタカナ言葉も使われています。先ほど井波さんの訳を引用したのと同じ箇所を抜き出してみます。

 

 

 

さて、張飛は気がむしゃくしゃしてしかたないので、酒をあびるように飲み、馬に乗って監察官の泊まっている宿舎の前を通りかかった。ふと見ると、五、六十人の老人が宿舎の門前で泣きわめいている。

 

どうしたわけだと問うと、老人たちは、「監察官が県の役人に迫って、無理やり劉県尉(りゅうけんい)を告発し、ひどい目にあわせようとしておいでです。わたくしどもは及ばずながら、嘆願(たんがん)をしにまいったのですが、門番に棒で叩き出されてしまいました」と答えた。

 

それを聞いて怒った張飛は、ただでさえ大きなグリグリ(まなこ)をさらに大きく見ひらき、鋼鉄(はがね)のような歯をバリバリと噛みならして鞍から飛びおりると、ものすごい勢いで宿舎にはいっていった。

 

(『新訳 三国志 天の巻』講談社 2000年10月12日)

 

 

 

小川環樹さん/金田純一郎さんの翻訳(1988年頃)

張飛

 

1973年までに岩波文庫から出版された旧訳を1988年に改訂したものです。この翻訳本の最大の特徴は、現在のメジャーな三国志演義(毛宗崗本(もうそうこうぼん))でカットされてしまった古い三国志演義にあった逸話が巻末の訳注のところで読める点です。(諸葛亮(しょかつりょう)魏延(ぎえん)を焼き殺そうとした話や、曹操(そうそう)関羽(かんう)寿亭侯(じゅていこう)という役職を与えようとしたら関羽は辞退したが、役職名の頭に「漢」の一文字を加えると受けたという話)

 

巻末の訳注で語句などが詳しく説明されているので、詳しくなりたい人にはオススメです。文体としては、ちょっと文語調の講談調です。歴史物は現代っぽい口調じゃないほうがいい!という方にオススメ。

 

 

さて張飛は腹立ちまぎれのやけ酒をあおり、騎馬で宿舎の前を通り過ぎたとき、五、六十人の老人らが、門前で大声をあげて泣いているのが目にはいった。

 

張飛がそのわけをたずねると、老人らは答えて「督郵さまが県の吏員を無理強いして、玄徳さまに罪をきせようとしておりますので、わたくしどもが愁訴(しゅうそ)にまいりましたところ、中に入ることもかなわず、門番に打ちすえられて追い出されたのでございます」。

 

これを聞くなり、張飛は大いに立腹し、まるい眼を見ひらき、くろがねの牙をかみ砕かんばかり歯ぎしりして、ころげるように馬から下りると、ずかずかと宿舎に入り込んだ。

 

(『完訳 三国志(一)』岩波文庫1988年7月7日)

 

 

 

村上知行さんの翻訳(1968年頃)

張飛

 

村上知行(むらかみともゆき)さんは1899年生まれですが、世代を感じさせないみずみずしい翻訳です。この方は中国文学者ではなく、中国文学翻訳家、中国評論家です。語句の細かい意味よりも日本語としての流暢(りゅうちょう)さを追求した素敵な訳です。

 

こちらでは張飛がむかっ腹に何杯かひっかけ、馬で宿舎の前をとおりかかった。見ると老人が五、六十人、門の前にあつまって泣いている。どうしたい? と聞いてみると、「督郵さまが役所の吏員をお責めです。劉県尉を罪人にしようってんで……。わしら、それで、そんなこたあおやめなすって、とお願いにあがりやしたが、お目にかかれるどころか、門番がたにひっぱたかれやしてね……」張飛がまっ黒焦げだ。大目玉をくるくる。歯をバリバリ。やにわに馬をおり、宿舎に駆けこんだ。

 

(『三国志(一)竜戦虎争の巻』 グーテンベルク21 2011/10発売

↑これは電子書籍ですが、他の出版社から紙の書籍も出ています)

 

 

 

立間祥介さんの翻訳(1958年頃)

張飛

 

この方は1928年生まれの中国文学者です。文体はちょっぴり文語調の講談調です。

 

さて張飛はやけ酒を何杯もあおり、馬に乗って督郵の宿舎の前を通りかかると、年寄連中が五、六十人、門前でわあわあ泣いている。わけを尋ねると、年寄たちが口々に訴えた。

 

「督郵が県のお役人を責めたて、劉さまにあらぬ罪を着せようとしているのでございます。わたくしどもがこうしてお許しを願いに上がったところ、中に入れてくれないばかりか、反対に門番に殴りちらされたのでございます」

 

張飛は大いに怒り、まるい顔をはりさけんばかりにむき、(はがね)のような歯をばりばりと噛みならして馬からまろび下りるや、宿舎に突き進み(以下略)

 

(『中国古典文学大系 第26巻 三国志演義(上)』平凡社 1968年1月6日)

 

 

湖南文山さんの翻訳(江戸時代。元禄2~5年(1689~1692)刊)

江戸時代。元禄2~5年

 

三国志演義の初めての日本語完訳本です。『通俗三国志(つうぞくさんごくし)』という題名になっています。これまで挙げた翻訳本がすべて三国志演義の毛宗崗本という版本を底本にしているのに対し、この『通俗三国志』はそれより古い李卓吾本(りたくごぼん)という版本の翻訳本です。

 

吉川英治(よしかわえいじ)さんの小説『三国志』はこれを参照しながら書かれているので、毛宗崗本にはない魏延焼殺作戦や漢寿亭侯のエピソードが入っています。

 

 

張飛は酒を飲て後只一人馬に打のり館門の前を過けるに年老たる百姓共五六十人泣居たりければ如何なる故ぞと問に答て曰督郵(まいない)を取ん為に県吏を召て訴状を書せ天子に奏して罪なきに玄徳を害せんとす

 

我等ここに来り其事を告て玄徳の恩徳を(あらわ)さんとすれば門より内に入こと能ず却て散々に打出されたり張飛これを聞て大に怒り牙を(かみ)て馬より飛おり直ちに館門に走り入(以下略)

 

(『通俗三国志』 信濃出版 明治17-18 国立国会図書館デジタルコレクションから抜粋。

原本のカタカナをひらがなに書き換え、適宜濁点を加えました)

 

引用した信濃出版のものは活字でしたが、google検索で出てきた広島大学図書室の蔵書『絵本通俗三国志』の画像では天保年間の版本を見ることができました。ちょっぴり和風の挿絵や、変体仮名(学校で習うのと違う異体仮名)が使用されている文面が面白いです。

 

 

三国志ライター よかミカンの独り言

三国志ライター よかミカンの独り言

 

私のイチオシは 小川環樹さん/金田純一郎さんの岩波文庫です。注釈が充実しているところ、吉川英治三国志に通じる古い版本の内容について知ることができるところがオススメポイントです。あと、個人的には、文体が現代っぽくないところが格調高くていいかな、と思っています。立間祥介さんも文語っぽいのですが、わずかな差でちょっとしっくりこない時があります。こういう感覚はごく個人的なものですね。

 

それぞれ個性的な翻訳本、ぜひお好みに合うものを選んで下さい!

 

 

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よかミカン

よかミカン

三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。 個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。 三国志小説『ショッケンひにほゆ』 【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】 何か一言: 皆様にたくさん三国志を読んで頂きたいという思いから わざとうさんくさい記事ばかりを書いています。 妄想は妄想、偏見は偏見、とはっきり分かるように書くことが私の良心です。 読んで下さった方が こんなわけないだろうと思ってつい三国志を読み返してしまうような記事を書きたいです!

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