三国志といえば、日本人にとってもたいへん馴染みの深いもの。ましてやご本家の中国では小さな子供でも当たり前に三国志演義ぐらい読んでいるに違いない。そう思いますよね!?ところがどっこい。意外や意外。中国のかたとお話ししていると、「へえ~、あなた三国志演義なんか読んでるの? すごいわねえ」と感心されることがよくあります。なんでやねん!?
三国志を知らないわけではないけれど
中国のかたが親しんできた三国志は「連環画(れんかんが)」というものなんですね。紙芝居の絵のような挿絵が1ページに二枚ぐらいずつ描いてあり、絵の下に「張飛(ちょうひ)がわーっと一声、たちまち敵将が馬から転げ落ちる」みたいな簡単な説明が二行ほど書いてある冊子です。小さい頃から何気なくそういうものをパラパラと見て、三国志ってだいたいこういうお話、と思いながら成長して、でも三国志ってちゃんと読んだことないな、と思っている人が多いという状況です。
書店には普通に三国志演義が置いてある
しかしねえ。日本人だって、漫画やゲームで知ってるけどちょっと『三国志演義』でも読んでみようかな、って人は多いわけですよ。どうして中国の人たちはその一歩を気軽に踏み出せないのか?踏み出した人を見て「すごいねえ」と驚くのか? とても不思議です。中国で書店に行ってみたら、連環画ではない三国志演義の本はゴロゴロ置いてあります。値段も普通。こいつは読まねえ理由が見当たらねえな……。不審に思いながら一冊を手に取り、ペラペラ、ペラリ。おおっ、こ、これは……!
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文面を見てびっくり!
原文じゃあねえですかい。三国志演義の原文。いえね、中国だから中国語で書いてあるのは当然ですよ。しかしそれだけじゃなくて、羅貫中(らかんちゅう)が編纂した頃の、昔の読み物の文章のまんまなんです。現代語じゃない。羅貫中といえば、日本の足利尊氏さんと同世代人ですよ!
みなさん、足利尊氏が書いた文章がそのまま活字になって出版された本があったら、それを読めますか? そうそう読めませんよね?読んでる人がいたら、私ぁすごいって言っちゃいますよ。ええ言いますとも!
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難易度、平家物語レベル
これが中国のかたが言う「あなた三国志なんか読んでるの? すごいわねえ」の「すごい」の正体です。豆粒のような字で注釈が真っ黒に付けられた古文をど根性で読んでいる、ってイメージなんですね。外国人がそんなの読んでるって思ったら、ちょっとひくぐらい、すごすぎます。
中国のかたが三国志演義をあまり読んでいないというのは、日本で言えば、例えば平家物語をちゃんと読んでないという人が大勢いるのと同じ感じです。平家物語って、小学校の図書館に現代語訳された本が置いてあったけど、あれは子供向けの読み物で、大人が「平家物語を読んだよ」って言いたくなったら、やっぱり注釈とにらめっこしながら原文を読まなきゃいけないのかなという強迫観念(?)がありますよね。
ワタシ、チュウゴクゴワカリマセン
その点、外国人は自由です。古文だろうと現代文だろうと、外国語は外国語。いずれにしても自分たちの分る言葉に翻訳してもらわないと読めないので、なんのこだわりもなく現代語訳されたものを受容することができます。こういう事情で、中国の人には敷居の高い三国志演義を、私たちは気軽に読むことができるんですね。アリガタヤ。
三国志ライター よかミカンの独り言
いま、私の頭の中では、知り合いのポケモンマニアのアメリカ人が「ギオンショージャーのベルの音、リンゴーンリンゴーン」と歌っている光景が妄想となって広がっておりますが……。もし本当にそんな変な読み方をしていても、そっと見守って自由に楽しませてあげたいと思います!
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