その昔、新大陸を発見したヨーロッパの人々は自由を夢見てアメリカ大陸に渡っていきました。しかし、荒れ放題の土地の開拓や、自分たちの村を守ろうと奮起するインディアンとの戦いは想像以上に過酷なものでした。それでも、自由と富を手に入れたいと辺境の開拓に邁進した人々の精神を称え、彼らの強い意志はフロンティアスピリットと呼ばれています。
そんなフロンティアスピリットは、明治時代に北海道の開拓に当たった屯田兵たちにも受け継がれていたようです。
しかし、アメリカよりももっと早く、ずっと昔にフロンティアスピリットを持って荒地の開拓に当たった人たちが中国にいたのです。そして、その舵を取った人物こそ、魏の曹操、その人だったのでした。
常識にとらわれない柔軟性
曹操といえば『三国志演義』の悪役。そのため、彼の人気はそれほど高くはありません。しかし、彼の悪役としてのキャラが立っている所以は、彼の憎らしいほどの完璧さにあると言っても過言ではないでしょう。武に優れ、智謀に長け、さらには詩文にも秀でたという曹操。曹操は劉備とは違って、裕福な家庭で育ったお坊ちゃま。人の才を見抜く力があり、よく部下の言葉に耳を傾けます。
そんな完全無欠とも言える彼の能力の中で、最も評価されるべきものは、彼が常識にとらわれない自由な発想を持っていたという点でしょう。儒教を重んじ、伝統を重んじ、身分を重んじる当時の人々が考えつかない突飛でありながら合理的な策を次々と打ち出し、魏を三国の中でも最強と言わしめる大国に仕立て上げた曹操。そんな彼の最も大きな功績といえば、「屯田制」の導入が挙げられるのではないでしょうか。
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魚がいないなら、魚を養殖すればいいじゃない
戦をすればどんな軍も貧乏になるのは世の常。大きな戦をすればするほど、食料の確保という課題は大きくなっていきます。当時の将たちは、食料がなくなったなら、その辺の農民からかっぱらえばいいじゃないくらいにしか考えていませんでした。
そんな彼らは、次はあそこの家、次はあそこの家と周辺の民家を荒らしまわり、ついにはその一帯の食料全てを奪い去り、次の食い扶持を探そうと遊牧民よろしく移動していく始末でした。こうしてすべてを奪いつくされた民草も、泣く泣く家を捨てて食料を探してさ迷うことになります。そうすると、兵が荒らしまわった村は無人になり、ただ荒れた土地だけが残ることになってしまいます。
しかし、狩場も限られているわけで。食料がある豊かな村が少なくなってくると、今度はその数少ない豊かな村の奪い合いが始まります。その村も食いつぶしてしまえば、兵も民草も全て共倒れになってしまうのです。老子は「飢えた者には魚ではなく、魚の釣り方を教えよ」という言葉を残していますが、その釣る魚すらいなくなってしまったら釣り方を知ったところでもうどうしようもありません。
しかし、このような状況を見た曹操は、釣る魚がいないのなら、魚を養殖すればいいじゃないと考えたのでした。
韓浩・棗祗の提言を採用
実際に屯田制の導入を曹操に提言したのは、韓浩・棗祗の2人でした。曹操は屯田制というまだ見ぬ制度に多少不安を抱きながらも、2人を信じてみることにします。戦乱で荒れ果てた土地を農民や兵に耕させ、それだけでなく、農地に護衛もつけさせました。
はじめのうちはうまくいかないこともあったものの、軌道に乗るとあっという間に農作物の生産量が拡大。曹操軍が食うに事欠くようなことは無くなったのでした。その結果、屯田制は魏の国内全域で導入され、魏の国力はますます高まっていったそうです。
フロンティアスピリットの源泉はその出自にあり
曹操が常識にとらわれることなく、臣下の声によく耳を傾け、才人を愛したのは何故なのでしょう。曹操はその辺にいたボンボンとはちょっと事情が違ったのでした。曹操の祖父に当たる曹騰が宦官だったのです。優秀な宦官であった曹騰は特別に養子をとることを許され、曹操の父・曹嵩を息子として迎え入れたのでした。
それを知る周囲の人からは出自のことでよく馬鹿にされていた曹操。この迫害を幼少期から受けてきた曹操は、「出自など関係ない。真に才能を持つ者こそ立派な人物だ。」と考えるようになったのでしょう。
そんな曹操は、自分が征伐した青州の黄巾賊を自らの精鋭部隊として召し上げています。斉州兵は邪教を信じる賊徒として忌み嫌われていましたが、曹操はそのすべてを受け入れた上で、彼らを抱き込んだのでした。彼の覇業の根本にあったフロンティアスピリットの源泉は、その出自にあったのでしょうね。
※この記事は、はじめての三国志に投稿された記事を再構成したものです。
元記事:曹操が行った大改革って何?|パイを奪うより自分で焼け!
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