稀代の裏切り者といえば呂布ですが、そんな呂布に「いつ裏切るかわからない奴」と思われていた人物がいます。それは、陳宮です。
正史『三国志』の裴松之注によれば、「陳宮は自分のことを我が子のように可愛がってくれていた曹操を裏切りました。陳宮がいつ裏切るか、わかったものじゃありません。」という妻の言葉を聞いた呂布は、陳宮の策を最後まで聞き入れなかったと言います。
曹操を裏切ったことにより、結果的に破滅の道を辿った陳宮。なぜ陳宮は曹操を裏切ったのでしょうか?
曹操に理想の主君の姿を見る
陳宮は若い頃からその名を知られる存在で、高名な学者や英傑たちと交流し、切磋琢磨する日々を送っていました。
黄巾賊が各地で暴れだすと、予てより漢王朝の斜陽を感じとっていた陳宮は、現状を打破する力を持つ理想の主君を探し始めました。
こうして陳宮が出会った主君が、曹操だったのです。陳宮は若くして高いカリスマ性を持つ曹操に自分が仕えるべき理想の主君の姿を見出したのです。
曹操に兗州をもたらす
そうこうしているうちに、陳宮の故郷・兗州も黄巾賊によって襲われます。そのため、兗州刺史の劉岱が黄巾賊に立ち向かいましたが、あえなく敗北して討ち死にしてしまいました。
このことを耳にした陳宮はこれを好機と考え、曹操に次のように進言します。「覇業を成し遂げるための足掛かりとして、まずは兗州を手に入れましょう。」これを聞いた曹操は満更でもなかったようで、早速陳宮を兗州に送り出しました。
陳宮は曹操がいかに素晴らしい人物であるかを兗州の役人たちに説いて回り、兗州の役人たちも陳宮のことを良く知る者たちばかりだったため、役人たちも「陳宮が認める人物なら」と賛成。
陳宮は曹操を兗州牧として兗州に迎え入れることに成功したのでした。
曹操の人間の小ささにガッカリ!?
曹操の覇業の足掛かりを築くことに貢献した陳宮は、曹操に臣下として大変厚遇されていました。しかし、そんな陳宮はその後なぜか曹操を裏切って呂布の配下に加わってしまいます。
陳宮が曹操を裏切ったことについては、「曹操に疑いを抱いた」くらいのことしか明かされていません。なぜ疑いを抱いたのかが気になるところですよね。
これについて『三国志演義』では、次のようなエピソードが補われています。陳宮は董卓の暗殺に失敗した曹操と出会って共に逃亡しますが、その道すがら曹操の知己である呂伯奢の家に立ち寄ります。
呂伯奢は曹操と陳宮を大歓迎し、「酒買ってきます!」と言って出かけていきました。呂伯奢の家には曹操と陳宮、そして呂伯奢の家族と使用人たちだけが残されています。追われる身である曹操はソワソワと落ち着かない様子で部屋の中をうろつきます。
すると、何やら隣の部屋からヒソヒソと話し声が…。
「…研ぎ終わったか?」
「…早くしろ!」
曹操はこの会話を聞いて
使用人たちが自分を殺そうとしていると思い込み、
ドアを開けて使用人たちを皆殺しにしてしまいます。
その後陳宮と共に呂伯奢の家を出た曹操は、道端で呂伯奢に鉢合わせ。何も知らない呂伯奢は、「今酒を買ってきたところなのに、もう豚料理を食べ終えてしまったのですか?」
これを聞いて曹操は勘違いだと気づいたのですが、思うところがあったらしく「急いでいる」と言って通り過ぎるふりをして、呂伯奢を後ろから切り殺してしまいました。
これを見た陳宮は、「曹操の人間性は思ったより小さいのだな…」と疑念を抱きはじめ、
さらにその後の曹操による徐州大虐殺が決定打となり、ついには曹操を裏切るに至ったと言います。
元主君との邂逅
袂を分かった2人でしたが、最悪の形で再開を果たします。陳宮が呂布と共に捕らえられ、曹操の前に引き出されたのです。
曹操が「君は智謀に長けた人物だったのに、なぜこのようになってしまったのか」と陳宮に問うと、「呂布が私の言うことを聞かなかったからだ!」と答えました。それを聞いた曹操は鼻で笑います。
そして続けて「お前はどうするつもりなのか」と問いました。すると、陳宮は次のように答えました。「私は不忠者ですから、殺されるのは自業自得です。」これを聞いた曹操は少し襟を正し、「では家族はどうするのだ」と問います。
陳宮はこれに対し、「それは私がどうこうできることではなく、あなたが決めることです。さぁ!早く私を処刑してください!」と答えて表に走り出てしまったのでした。
曹操はこれを涙ながらに見送り、遺された陳宮の家族を生涯大切にしたと言います。
三国志ライターchopsticksの独り言
曹操は陳宮と再び相まみえてその心の内を知ったとき、陳宮を自分の臣下としてもう一度迎え入れたいと考えたのでしょう。しかし、陳宮はそれを良しとしませんでした。
呂布は最期まで陳宮を信じてくれませんでしたが、陳宮にとっては曹操を裏切ってでも選び取った呂布こそが最高の主君だったのでしょう。
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