コメント機能リリース
馬超




はじめての三国志

menu

三国志の雑学

【正史と政治】張巡は歴史書で英雄に祀り上げられた

陳寿(晋)

 

 

 

三国志演義で、諸葛亮(しょかつりょう)曹操(そうそう)軍から十万本の矢を

騙し取ったという「草船借箭(草船で箭(や)を借りる)」のエピソード。

これは唐(とう)の張巡(ちょうじゅん)が実際に行ったことを、三国志演義

パクったものです。

 

この張巡という人物、安史(あんし)の乱の時に官軍の将として籠城戦を行い、

兵糧が尽きても敵に降伏せず、自分の愛妾を殺して兵士たちに食べさせたことで

知られています。

一見ひどいようにも思えるのですが、『新唐書』では英雄のように記されています。

どうしてそういう扱いになったのか。

それを考えると、「正史」と「政治」のかかわりが見えてきます。

 

はじめての三国志全記事一覧はこちら

関連記事:曹操はなぜ悪役となったか?……三国志と朱子学の関係について

関連記事:諸子百家(しょしひゃっか)ってなに?|知るともっと三国志が理解できる?

 

 

張巡の籠城戦

 

張巡が守備していた睢陽(すいよう)城は、中原(ちゅうげん)のまんまん中にある要衝です。

周囲の城市が次々と反乱軍に降伏する中、睢陽が陥落すれば長江北岸までの地域を

すべて反乱軍にとられてしまう恐れがありました。

 

このため睢陽城は徹底抗戦を決め、兵糧が尽きても敵に降伏せず、馬を殺して食べ、

雀や鼠を捕まえて食べ、木の皮をかじり、紙を煮て食べました。鎧や弩も煮て食べました。

兵士の多くが餓死し、生きている者は弓を引く力もなくなるに至り、張巡は自分の愛妾を

殺して兵士たちに食べさせました。

 

城中の女性は次々と食料になり、女性がいなくなると男性のうち年老いた者や幼い者が

食料となり、食べられた人数は二、三万にものぼったといいます。

睢陽の頑強な抵抗が功を奏し、官軍は反乱軍から洛陽(らくよう)を奪還することが

できましたが、それは睢陽落城の十日後のことでした。

六万ともいわれる人口を擁していた睢陽城は、落城した時には

たった400人を残すのみとなっていました。

 

 

『新唐書』における張巡の評価

 

睢陽城の徹底抗戦があったおかげで官軍が勝利することができたとして、

『新唐書』は張巡の功績を評価しています。

 

「節を尽くしたことは金石に刻まれ、その忠義は末永く讃えられる」と大絶賛です。

張巡が最後まで敵に屈しなかった態度を、むかし殷(いん)が滅亡した時に新王朝の

周(しゅう)の食べ物を食べることを拒んで餓死した伯夷(はくい)・叔斉(しゅくせい)に

たとえながら、「伯夷・叔斉が首陽山(しゅようざん)で餓死したことを孔子は仁と称して

いるのだから、異論をさしはさむ余地はないはずだ」と言い切って強く締めくくり、

『新唐書』を読む者に張巡をディスる余地を与えていません。

 

張巡が万単位の人命を犠牲にしたことや人肉を食したことについては、『新唐書』は

全く批判していません。(当初そのことを批判する人もいた、ということを紹介しつつ、

その批判が名士たちに封じられる過程を記しています)

 

日々の生活を工夫で楽しくする『三国志式ライフハック

 

『新唐書』での描かれ方

 

『新唐書』の張巡伝は、なんだかアヤシイんですよ……。

「本は三回も読めば終生忘れることなく、文章は下書きなしで書くことができました」とか

「兵士や住民の名前を一度聞いたら忘れませんでした」とか。

そのあと「大小四百の戦いで敵将三百、兵士十万余りを斬りました」と続くんですがね。

読んでいる時の感覚がどうも、ライトノベルで「彼の頭髪は雪のような銀髪で、右目は緑で

左目はオレンジでした」と書かれているのを読むような気分になってしまいます。

「ああそういうキャラね。ハイハイ。」みたいな。

 

「博覧強記」属性を記すことは、人物の有能さを表現する時の常套手段です。

のっけから張巡をスーパーマンにしてしまいたい『新唐書』の魂胆が見え見えです。

張巡は実際にそうだったのかもしれませんが、この他にも、奇策を用いて数々の会戦に

勝利してきた華々しい戦歴が列挙されていたり、カッチョイイせりふがあったり、

ヤン・ウェンリーか!」とツッコミを入れたくなるほど、ドラマチックにかっこよく描かれ過ぎです。

 

通常の市民感覚とのずれ

 

通常の市民感覚からすると、張巡は異常な判断をして多くの人命を損なった残念な人です。

張巡が籠城していた時、まわりの城は続々と反乱軍に降伏していましたが、

まわりの城の人たちのほうが常識人です。

 

旧来の儒者官僚の感覚からしますと、国家なんて命懸けで守るものではありません。

儒教には「易姓革命(えきせいかくめい)」の考え方がありますから、天子が徳を失ったり

天命が尽きたりすれば国家は転覆してもいいのです。

 

なので、反乱軍に城を囲まれたら、無理せずさっさと降伏して城の市民生活を守る

ことのほうが大切です。全ての城が反乱軍に降伏して国号が変わっても、市民生活さえ

保たれていれば天下泰平めでたしめでたしです。

この感覚は、張巡の徹底抗戦を大絶賛した『新唐書』の主張とはずれがあります。

 

『新唐書』の政治的意図

 

『新唐書』は、国家が中央集権体制の強化に躍起になっていた宋(そう)の時代に

書かれたものです。中央集権体制を強化しようと思った場合、先ほどの段落で述べた

ような「国家は転覆してもいい」「国号が変わっても、市民生活さえ保たれていれば

天下泰平めでたしめでたし」という市民感覚は絶対に矯正しなければならないものです。

 

市民感覚に反して徹底抗戦を選びいかなる犠牲を払ってでも国家転覆の危機と

戦い抜いた張巡のことを「忠義」として大絶賛することで、『新唐書』は市民感覚の

矯正をはかっているのです。

 

三国志ライター よかミカンの独り言

 

中国の「正史」は、歴史的事実を記録するという目的の他に、

過去の出来事に仮託して現代的な主張を述べるためにも利用されています。

「正史」には、それが編纂された時代の政治的なフィルターがかかっているのです。

 

はじめての三国志全記事一覧はこちら

関連記事:【出身州別】三国志キャラの性格診断 第三回:青州(せいしゅう)、涼州(りょうしゅう)、并州(へいしゅう)編

関連記事:劉備の人肉食は何故美談になったのか?よかミカンが考察

 

【はじさん編集部】編集長kawausoの奮闘日記も絶賛公開中!

 

よかミカン

よかミカン

投稿者の記事一覧

三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。

個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。

三国志小説『ショッケンひにほゆ』

【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】

何か一言:
皆様にたくさん三国志を読んで頂きたいという思いから わざとうさんくさい記事ばかりを書いています。

妄想は妄想、偏見は偏見、とはっきり分かるように書くことが私の良心です。

読んで下さった方が こんなわけないだろうと思ってつい三国志を読み返してしまうような記事を書きたいです!

関連記事

  1. 董卓はどうしてデブになったの?真面目に考察してみた
  2. 述志の令をもとに曹操の若かりし頃の夢を考察してみる
  3. もうやってられない! 三国志の時代ではどのような理由で主を変えて…
  4. 夏侯覇の妻は誰? 夏侯覇の生涯は充実していた!三国志演義での扱いが酷すぎるが史実は…
  5. キレる劉備になだめる黄権 馬謖はもしかしたら劉備に嫌われていた【黒田レンの推測】
  6. 京劇の楽しみ方、ルーツとは?元々は安徽省の劇だった?覇王別姫で知…
  7. 羅貫中と関羽 関平の実の親って誰!?関羽?関定?
  8. 三国志の主人公・劉備 何で日本人は三国志が好きなの?

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


google検索フォーム

過去記事を検索できます

ピックアップ記事

  1. 袁術と孫策
  2. 曹仁
  3. はじめての三国志
  4. 劉禅
  5. 黒田官兵衛
  6. 三国志の英雄(魏 呉 蜀)
  7. 山頂に陣を敷いた馬謖
  8. 李牧
  9. 曹操を殴る孫権
  10. 燕青(水滸伝)

おすすめ記事

  1. もし龐統が落鳳坡で亡くならなければ蜀はどうなった? 龐統と的盧
  2. 趙嚴(ちょうげん)ってどんな人?人材豊富な魏の武将達を取りまとめた影の功労者 魏の武将をまとめた趙嚴(ちょうげん)
  3. 新事実!悪逆非道の代名詞・董卓は実は、かなりいい人だった 異民族に好かれる董卓
  4. 劉備暗殺計画|甘露寺の婚儀と錦嚢の計 その2 劉備 結婚
  5. 龐統はどんな性格をしていたの?希代の怠け者であり曹操を騙した軍師 龐統
  6. 【横山光輝三国志】イリュージョンで世を去る諸葛亮 夜の五丈原で悲しそうにしている孔明

三國志雑学

  1. 劉備
  2. 陳羣
  3. 陸遜
  4. 魏曹操と魏軍と呉軍


“はじめての三国志コメント機能" “はじめての三国志150万PV" “はじめての三国志Youtubeチャンネル" “広告募集" “誤字・脱字・誤植などの報告フォーム"

はじめての三国志 書籍情報


著:kawauso 価格480円
※Kindle読み放題対応

ピックアップ記事

  1. 龐統
  2. アハルテケ
  3. 関羽千里行 ゆるキャラ
  4. 始皇帝(キングダム)
  5. 東京五輪でテロ対策をしている警察や警察犬 いだてん
  6. 呂玲綺

おすすめ記事

スサノオノミコト(日本神話) 古代出雲王国の躍進、元祖「国盗り物語」?荒ぶる神スサノオ 魏の韓宣(かんせん)は口喧嘩が強い 韓宣(かんせん)とはどんな人?曹植が口喧嘩して勝つことのできなかった人物 【週間まとめ】はじめての三国志ニュース33記事【4/24〜4/30】 新選組の土方歳三 土方歳三、新選組副長の刀はどんなモノ? ホウ徳(龐徳) 龐徳の子や孫は一体どんな人なの!? 魏冄(ぎぜん)とはどんな人?政治・軍事両方で大活躍した秦の名宰相 【週間まとめ】はじめての三国志ニュース17記事【9/11〜9/17】 【週間まとめ】はじめての三国志ニュース36記事【4/2〜4/9】

はじさん企画

“if三国志" 英雄の死因 “三国志とお金" “はじめての漢王朝" “はじめての列子" “はじめての諸子百家" “龍の少年" “読者の声" 袁術祭り
李傕祭り
帝政ローマ
広告募集
まだ漢王朝で消耗してるの?
HMR
ライフハック
君主論

ビジネス三国志
春秋戦国時代
日常生活
曹操vs信長
架空戦記
ライセンシー
北伐
呂布vs項羽
英雄の武器 編集長日記
はじめての三国志TV
“曹操孟徳" “黄巾賊" “赤壁の戦い" “THE一騎打ち" “夷陵の戦い" “kawausoのぼやき記事" “よかミカンのブラック三国志" 英雄の墓特集 誤字・脱字・誤植などの報告フォーム はじめての三国志コメント機能
“水滸伝"

“三国志人物事典"

“はじめての三国志コメント機能"
PAGE TOP