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キーワードは劉備の最期一文字に託された陳寿の思い

この記事の所要時間: 38




陳寿

 

私たちが慣れ親しんでいる『三国志演義(さんごくしえんぎ)』のベースとも言える

正史『三国志』を編んだ陳寿(ちんじゅ)

 

彼は西晋王朝に仕えている時期に正史『三国志』を編んだのですが、

元々は蜀漢(しょくかん)に仕えていました。

 

そのため、正史『三国志』には

なんだか蜀びいきだな…

と感じられる表現がたくさんあります。

 

陳寿は言葉を細かく使い分け、

その文字に自分の主張を託しているのではないでしょうか?

 

その例を挙げながら、

『三国志』に託された陳寿の思いを探っていきましょう。

 

はじめての三国志:全記事一覧はこちら

関連記事:三国志の著者・陳寿のミステリー 前編:蜀滅亡

関連記事:三国志の著者・陳寿のミステリー 後編:三国志はどうやって完成したの?

 

 

『三国志』というネーミング

曹操と劉備と孫権の酒飲み

 

正史とされる二十四史の中でも、

『三国志』は一際異彩を放っている存在と言えます。

 

正史の筆頭である『史記』などの複数の王朝について描かれた通史を除けば、

一王朝の顛末を描いた断代史は『漢書』のように王朝の名を冠しています。

 

しかし、『三国志』は王朝の名を冠していません。

もともと、唐代頃までは

『魏国志』・『蜀国志』・『呉国志』の3つの書物として

独立して存在していたらしく、

後の人がそれらの書を合体させ、

『三国志』と称するようになったのだとか。

陳寿は三国の中でも魏を正統な王朝として

扱っていたのではないかと言われています。

 

 

でも本音では…?

陳寿

 

しかし、それらの3冊の中でも『魏国志』にだけ

王朝の皇帝を主人公とする「本紀」が立てられているため、

やはり3冊で1セットであり、

 

陳寿は魏の君主を「帝」と称し、

呉や蜀の君主が即位した際にも、

魏の年号を使ってその年を記しています。

 

一方、呉や蜀は諸侯扱いで本紀を立ててもらえていません。

 

そういうわけで、体裁上はどう見ても

魏こそが正統な王朝であると受け取ることができるのですが、

実は陳寿、文字を巧みに使い分け、

その本音をチラチラと読者に見せつけているのです…。

 

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蜀は呉よりも格上?

劉備にキレる孫権

 

たとえば、陳寿は劉備(りゅうび)のことを記す際、

「先主」という尊称を用いて表現するのに対し、

孫権(そんけん)については「孫権」と呼び捨てであることが多いのです。

 

これは、呉の君主よりも蜀の君主の方が

格上だと暗に示していると言えるでしょう。

 

しかし、これだけではありません。

陳寿は蜀の君主が魏の君主、つまり皇帝にも匹敵する存在であることを

ある文字を使って示しているのです。

 

先主「殂」す?

亡くなる劉備を見守る孔明と趙雲

 

「蜀書」先主伝において、劉備の死は次のように記されています。

 

先主于永安宮、時年六十三。

(先主永安宮に殂す、時に年六十三。)

 

この()という字、

単純に死のことを表現する言葉ではありません。

 

実は死の表現は身分によって様々。

それは経書に則って使い分けられているのです。

 

身分によって異なる死の表現

亡くなる曹操

 

五経にも数えられる『礼記』には、

次のような記述が見えます。

 

天子死曰崩、諸侯曰薨、大夫曰卒、士曰不禄、庶人曰死。

(天子の死を「(ほう)」と()い、

諸侯を「(こう)」と曰い、

大夫を「(そつ)」と曰い

士を「不禄(ふろく)」と曰い、

庶人を「()」と曰う。)

 

このように、

古来より身分によって死の表現が使い分けられている中国。

その使い分けは『史記』や『漢書』にも見られ、

当然それを踏襲(とうしゅう)している『三国志』でも見受けられます。

 

「殂」が用いられるのはどんな人?

堯帝

(画像:堯帝Wikipedia)

 

しかし、『礼記(らいき)』には

劉備の死について用いられている「殂」について

言及されていませんね。

 

この「殂」とは何か。

 

調べてみると、

五経に数えられる『書経(しょきょう)』の中にその文字が見えました。

 

二十有八載、帝乃殂落。

(二十有八載、帝乃ち殂落す。)

 

ここに見える「殂落」という語はやはり死を意味するもの。

そしてこの「帝」というのは

あの伝説上の優れた主君である堯帝(ぎょうてい)のことなのです。

 

そんな堯帝の死にも用いられた

「殂」の字が用いられている劉備。

 

陳寿は劉備を真の皇帝であると言いたかったと

考えることもできるのではないでしょうか?

 

陳寿が堂々と蜀を正統と主張できなかった理由

陳寿

 

他にも細々とした表現を駆使して

蜀漢の正統性を訴えている陳寿。

 

いっそ堂々と蜀が正統だと主張してよかったのは?

と思う人も少なくないでしょう。

 

しかし、それができなかったのには

深いわけがあったのです。

 

実は、陳寿が蜀の次に仕えた西晋王朝は

魏から禅譲(ぜんじょう)によって帝位をおくられた王朝。

 

その魏が正統ではないと陳寿が大々的に主張すると、

西晋王朝の根本を揺るがす事態になってしまいかねないのです。

 

三国志ライターchopsticksの独り言

三国志ライターchopsticksの独り言

 

そういうわけで、

陳寿は形式上だけでも魏を正統とせざるを得なかった…。

 

そこで、細かい文字に陳寿は自分の主張を託したのです。

自分の並べた文字を一字一句丁寧に読んでくれる人に向けて。

 

はじめての三国志:全記事一覧はこちら

関連記事:「危うく抹殺されそうになりました、陳寿さんのおかげです」卑弥呼より

関連記事:【衝撃の事実!!】正史三国志の作者・陳寿は孫権が打ち立てた孫呉を皇帝として認めていなかった!?

 

■中国を代表する物語「水滸伝」を分かりやすく解説■はじめての水滸伝

 

 

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銭大昕の史学考証が専門。
片田舎で隠者さながらの晴耕雨読の日々を満喫中。

好きな歴史人物:
諸葛亮、陶淵明、銭大昕

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