大人気春秋戦国時代漫画キングダム。最近は主人公信が冥界に行くの?行かないの?というようなスピリチャル展開がありますが、そのベースは飽くまで史実に準拠しています。
しかし、その史実とは従来広く信じられた秦始皇本紀にある「有能だが残忍で猜疑心が強い始皇帝」ではなく、2009年に北京大学に寄贈された趙正書に拠る記述にあるようです。
今回は史記のイメージとは180度違う趙正書にある「善い人秦王政」に迫ります。
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この記事の目次
キングダム630話ネタバレ予想vol2「延命の為に巡幸に出る始皇帝」
趙正書では、冒頭、最後の巡幸に出た始皇帝の描写から始まります。
しかし、史記とは違いこの巡幸では、始皇帝が重い病に罹り、自分の命が五十年で尽きる事を知ったので、天命を変える為に寿命を延ばす事が出来る縁起の善い土地である白泉を目指すという事になっています。
始皇帝は自分の事業は半ばであり、今死ぬわけにはいかないとし自分の病を郡臣に隠して白泉に向かってひたすら進みます。史記の始皇帝と同じく、寿命に執着してはいますが、それは王業を遂げようという意志からであり、ただ一秒でも長く生きていたいという私欲ではない所に違いがあります。
キングダム630話ネタバレ予想vol2「末っ子の胡亥を後継者に選ぶ」
白泉を目指す始皇帝ですが、すでに病は深く、どうやら助からないと悟ります。
すると始皇帝は、丞相の李斯を呼び出して告げます。
「私の寿命は覇業を果たすには十分であった。しかし、末っ子の胡亥の行く末をなんともできない。私がこのまま死ねば、きっと咸陽では動揺が走り、熾烈な権力争いが起きるだろう。私はこのように聞く、牛と馬が争えば、虻や蚊はその下敷きになり死ぬ。
大臣どもの争いにより胡亥に危害が及び、私の人民に危害が及ぶのでは死んでも死にきれない。丞相よ、どうか、最悪の事態を回避する策を立てよ」
趙正書の始皇帝は、自分の寿命を受け入れただけではなく、その後に起きる咸陽での権力闘争を心配しています。そして、その巻き添えで死ぬかも知れない、末っ子の胡亥や、人民の事を考えると死んでも死にきれないと李斯に訴え、何か策はないか?と問いただします。自分勝手ではない慈愛の精神を持つ始皇帝像で、キングダムの秦王政に近いでしょう。
キングダム630話ネタバレ予想vol2「李斯、胡亥を二代皇帝に勧める」
それに対して、李斯は深々と頭を下げて、
「気弱な事を仰いますな、まだ陛下の天寿は尽きておりません。
そもそも私は外国人でしたが、秦に参りました折には、親に仕える気持ちで陛下に仕えました。私には重臣の後ろ盾があるわけでもなく陛下のみが心の支えであります。ゴミクズのような我が身を引き立てて頂き、お陰を持ちまして、微力を尽くして国家に奉公でき、法律を定めて国を富ませ、鋭利な武器を与えて強力な兵を組織し、次々と六国を平らげて、天下を一つにし、民に正教を教え、群臣に十分な報酬を与えてまとめる事が出来、陛下をして天子の位を極めるお手伝いが出来ました。これまで幸福であったと感謝の気持ちで一杯です。
また私は、このように聞いております。仁者は己を全うする為に、全ての財産を尽くし、勇者は勇を全うする為に死を厭わぬと、
現在、私はこの言葉に照らし、なんら恥じる所なきを喜びとするものです。
もし、陛下が私めをして、陛下の死後に権力を争い胡亥様を害し、人民を苦しめる賊とお考えであれば、今、この場で死を賜りとうございます」
李斯らしい理路整然とした言葉がならび、これまでの感謝を述べると共に、自身には謀反を企む気など微塵もなく、そう思われるなら、この場で討ち果たしてくださいと結びます。
これに対し始皇帝は涙を流し、
「私は、汝を疑った事はない、汝こそ誠の忠臣である。だから頼んでいるのだ、私の死後を誰に託すべきか遠慮なく申せ」
李斯は、御史大夫馮去疾を伴ってひざまづき
「現在は旅先であり、咸陽は遠く離れています。陛下の後継者を咸陽で決めるとなれば、大臣は策動して動乱となりましょう。
従って、今回の巡幸に唯一同道している胡亥様を二世皇帝に命じて頂きたい」
これに対し、始皇帝は、それでよいと許可を出しました。
キングダム630話ネタバレ予想vol2「遺言改竄もなく李斯も善い人」
趙正書では、史記に出てくるドラマチックな李斯と趙高による遺言書の改竄がありません。
それ以前に、趙高はこの時点ではどこにも出てきていませんし、後継者を胡亥とするという提言は、李斯と馮去疾が行い始皇帝はそれを承認しています。
始皇帝が胡亥を後継者にしたのは、旅先で自分が後継者を決めずに死ねば、必ず咸陽で大臣たちが策動して、それぞれ後継者を立てて争う事を懸念した為であり、それにより人民に迷惑がかかるのを回避する為だと説明しています。
もしかすると、始皇帝としては蒙恬と共にいる長子の扶蘇に二世皇帝を継がせたかったかも知れませんが、それよりも国家の安定を最優先し、末子の胡亥を選んだとも言えます。
己の身びいきより人民第一、いかにも蕞で人民の先頭に立った秦王政を彷彿とさせますね。
※注:蕞の戦いは史実ですが、秦王政がその援軍に入ったとはキングダムの脚色
遺言の改竄もなく、李斯も始皇帝を裏切らず、情に厚い頭脳明晰な皇帝のまま始皇帝は死んでいく事になります。最後には、李斯と趙高の食い物にされた史記の哀れな始皇帝とは大分印象が違いますね。
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