中華人民共和国建国の中心人物、毛沢東。彼は1976年9月10日に北京で83歳で大往生しました。そして毛沢東の遺体は、本人の意思に反する形で防腐処理を施し毛主席紀念堂に安置され、見物に来た大勢の中国人の好奇と尊敬の眼差しにさらされる事になりました。
毛沢東とは?
毛沢東は、中国共産党の理論的かつ実践的指導者であり、国民党との激しい内戦や、日本軍との戦いを経て、1949年社会主義国、中華人民共和国を建国した人物です。彼の統治は大躍進政策の失敗による数千万人の餓死者や、文化大革命による徹底した文化財破壊など、現在中国に悪影響を及ぼすものがありますが、中国を植民地支配から解放し土地を持たない貧しい小作人が大半だった中国人に土地を与えた事で、現在でも中国人には絶大な人気を得ています。
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毛沢東の遺体はどうしてエンバーミングされた?
そんな毛沢東ですが、マルクス主義の唯物論者らしく死後に自身が崇拝される事を強く警戒し、生前から遺体は焼いて海に撒き、魚の餌にせよと遺言していました。
しかし、毛沢東の遺言は守られませんでした。文化大革命の後遺症が長引く中、毛沢東死後に中国を率いる指導者たちは毛沢東の遺体に中華人民共和国の象徴と権威を見出し、国が続く限り永遠に生前の姿で残す事にしました。
こうして、毛沢東の遺体はエンバーミング(遺体衛生保全)が施され、北京の毛主席紀念堂に安置。連日、大勢の中国人の好奇や畏敬の視線に曝され続ける事になります。
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エンバーミングとは?
エンバーミングとは、遺体を防腐処理する技術の事です。人間の遺体は放置しておくとあっというまに腐敗が進むので、動脈から防腐剤を注入しつつ、静脈から血液を抜き取り、脳や内臓のような防腐処理が出来ないものは体内から取り出すなどの処置を施します。こうする事で遺体は腐敗しなくなり、同時に細菌やウィルスも死滅して、安全に遺体を扱う事が出来るのです。
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毛沢東の遺体を覆う水晶
毛沢東の棺は水晶で覆われています。水晶は中の物質を冷却して腐敗を防ぐからです。しかし、水晶で棺を造るには、長さ2m、幅1mの一枚板の水晶が必要でした。自然界にはそこまで大きな水晶はないので、結局は小さな水晶を一枚、一枚、溶接して大きな板を造る事になります。
しかし、水晶の融点は1700度以上で、しかも溶けた瞬間に水晶同士をつなぎ合わせないといけません。この灼熱地獄に耐える為に技術者は分厚い防護服を着用して暑さを防ぎ、足は水の中に入れて作業しました。出来上がった水晶の濃度は99.9999%で、低温、遮光、遮断の3つの条件を完全に満たすものでした。
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外国人でも見る事が可能
毛沢東の遺体は外国人でも毛主席紀念堂に予約を申し込めば見る事が出来ます。ただし、平日でも毛主席紀念堂は長蛇の列であるうえ、少しでも立ち止まると警備をしている中華人民共和国の兵士に怒鳴りつけられます。当然、動画はおろか写真撮影も厳禁です。
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毛沢東の遺体の都市伝説
あまりにも有名な毛沢東の遺体には都市伝説があります。それは水晶の棺に安置された遺体は蝋人形の偽物で、本当の遺体は紀念堂の地下にあり、現在でも国家指導者のような限られた人にしか公開されていないというものです。これは中国でも有名で、北京の観光ガイドさんまで、その都市伝説を口にするほどですが真偽は不明です。
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エンバーミングの歴史
エンバーミングの歴史は古く古代エジプトのミイラ作りまで遡ります。
近代的なエンバーミングが発展した切っ掛けはアメリカの南北戦争です。この戦争でアメリカは南北合わせて60万人以上の空前の死者を出した結果、遺体を故郷に送り返すのが間に合わず、遺体の腐敗を防ぐ目的でエンバーミングが急速に発展しました。
アメリカは宗教上の理由から土葬で、どうしても遺体をそのまま故郷に送り返して墓地に埋葬する必要があったからです。また爆発などで顔が変形した遺体を遺族に見せて精神的なショックを与えないために変形した顔を整える技術も発達します。
このようにエンバーミングは土葬を習慣とするキリスト教圏で発達しましたが、日本でも長い闘病や事故などで変わり果てた故人の姿を遺族に見せないために、エンバーミングを施してから火葬するケースも徐々に増えています。
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kawausoの独り言
今回は毛沢東の遺体について解説しました。指導者をエンバーミングするのは資本主義国よりも社会主義国が多いようです。本来、共産主義は唯物論で科学で説明できない霊や神のような存在は信じないのですが、一党独裁の国なので人民の求心力が落ちないように建国の父を形で残しておく必要があるのかも知れませんね。
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