皆さんは水滸伝についてしっていますでしょうか?
水滸伝は中国の四大奇書であり、分かりやすく言うと三国志演義と同じくくりのお話になります……と言いますか、三国志演義も同じく四大奇書です。冒頭では「お、ファンタジーかな?」と思わせますが、そこから壮大な物語が始まっていき、その世界に引き込まれていくでしょう。そんな水滸伝には様々な登場人物が出てきますが、この中で今回は「先生」の呼び名で愛される呉用について本日はお話をしたいと思います。
この記事の目次
- 呉用とはどんな人物?その生い立ちと異名の由来
- 呉用が梁山泊に加わるまでの経緯
- 呉用の性格と人間関係
- 冷静沈着な頭脳と情に厚い心のバランス
- 宋江との出会いと軍師としての登用
- 呉用の戦略と役割「梁山泊を支えた頭脳派軍師」
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 呉用のモデルとなった実在人物はいる?
- Q2. なぜ呉用は「智多星」と呼ばれる?
- Q3. 呉用の最期は史実?創作?
- 呉用の最期 ― 知将の静かな幕引き
- 宋江の死に殉じた忠義
- 呉用の最期に込められたメッセージ
- なぜ現代でも「智多星」は人気なのか?心理的・社会的考察
- 水滸伝における「義」と「智」の融合点
- 呉用が活躍する感動的なシーン
- 呉用の名場面・名セリフ集
- 呉用の人間味を感じる名セリフ
- 三国志ライター センのひとりごと
呉用とはどんな人物?その生い立ちと異名の由来
呉用は天機星の生まれ変わりで、序列第三位、綽名は智多星。元々は隠遁書生で、寺子屋の先生などをするなどして生活していましたが、とある一件からそれまでの立場が一気に変わることに。
それは梁山泊の二代目首領、晁蓋による生辰綱というお偉いさんへのプレゼントの略奪でした。これに参加して相手への酒にしびれ薬を盛っての見事な略奪大成功。
呉用が梁山泊に加わるまでの経緯
当然ながらこれで役人から追われる立場となり、梁山泊への正式加入……するには晁蓋が優れた人物過ぎて当時の初代首領にこれを拒まれたので、林冲にこれを殺害させて見事に梁山泊入りします。その後は晁蓋を首領に据えて自身は第二席につくも、この晁蓋は後の戦いで亡くなってしまいます。
その後は宋江が首領になりますが、呉用の手段に善悪を厭わぬ様々な作戦を奮うことになります。因みに智多星とは策略に優れる人、頭の良い人という意味を持ち、また嘗て先生をやっていたこともあることから、ファンからは呉用先生という呼び名でも親しまれていますね。
関連記事:「水滸伝」林冲のモデルは張飛と蜀のとある天才軍師を混ぜていた?
関連記事:髭・顔は張飛と一緒?『水滸伝』の豪傑・林冲のモデルは張飛だった?
呉用の性格と人間関係
そんな呉用ですが、簡単に説明しますと軍師タイプのキャラクターです。
しかし沈着冷静で高い頭脳を持ち数々の神算鬼謀で味方を助け……というと、言い過ぎになってしまうタイプの軍師なので、同じ中国奇書の諸葛亮を想像しているとちょっと面を喰らうかも……龐統や法正ともまた違うタイプで、三国志演義に慣れ親しんだ筆者などは、初見時、驚きを隠せませんでした。
関連記事:【初心者向け】パリピ孔明から知る諸葛亮ってどんな人?5分でわかる三国志の天才軍師のガチすご伝説とは?
関連記事:諸葛孔明とはどんな人?三国志が語らない天才軍師の人物像と三顧の礼から始まる不滅のロマン
冷静沈着な頭脳と情に厚い心のバランス
というのも、呉用はもちろん策略に関しては梁山泊でも高ランクに居るのですが、本人が驚くほどミス、失態を犯すのです。
特に宋江を救出する際に印鑑を扱い間違えるというのは作中最大のうっかりミスではないでしょうか……このために本物と見分けが付かないハイパー偽印璽を作れる人物を仲間にまでしたのに……。ややもすると失敗の場面ばかりが記憶に残ってしまうので、本地中国では「呉用」と「無用」が同じ発音なことも相まって「梁山泊の役立たず軍師」と言われることもあるとか……日本では日本で「呉用」と「誤用」が同じ発音なために「誤用先生」なんてひどい綽名を付けられてしまうことも……。
水滸伝をモチーフにした作品によっては立案する策略のために仲間たちの中でも嫌われ者になることも。しかしこれらの全ては組織のため、梁山泊のためであることは疑いようがありません。頭は良いのにうっかりもする、時に悍ましい犠牲を払いながらもその忠義は全て組織のため、この二つを併せ持ったのが呉用という人物であると言えるでしょうね。
関連記事:宋とはどんな国?簡単にざっくりと歴史を解説するよ!
関連記事:水滸伝は創作だった?実在した?元ネタから考察する水滸伝の秘密
宋江との出会いと軍師としての登用
さて呉用を実際に梁山泊の軍師として登用したのは二代目首領である晁蓋ということになります。この晁蓋の義兄弟が宋江でした。
このため略奪事件の際に役人をしていて、義に篤かった宋江の注進によっていち早く晁蓋は逃れられることになるのですが、この頃から宋江と呉用との奇妙な縁は始まっていました。この後、処刑されそうになる宋江を助けるために呉用は頭脳をフル活用、スカウトしてきましたは他人の字を真似るのが大得意な蕭譲、そして印鑑職人であった金大堅、彼らの特技を最大限に生かして公文書を見事に偽装。
これで宋江を救出できる……となった所で呉用自身のミスで偽造発覚、梁山泊の殴り込みの処刑場破りでの宋江を救出することになります。こう書くと「やはり誤用先生か」と思われるかと思いますが、個人的にはこの場面、梁山泊の序盤の最大の盛り上がりシーンだと言えますので、寧ろこの呉用のミスこそが「最高のエンターテイメント」と言っても過言ではありません。
関連記事:林冲の性格は三国志演義の張飛にそっくり!林冲の性格を分かりやすく解説
呉用の戦略と役割「梁山泊を支えた頭脳派軍師」
例えば、三国志演義における「知恵者」とは頭脳明晰にして欠点なし、摩訶不思議な幻術まで使用するような時として「超常存在」でした。しかし水滸伝では今までにない知恵者の存在、つまり何らかの「シーンフック」を起こす存在として呉用の存在が描かれていると思います。これはある意味、水滸伝における「知恵の進化」、物語に影響を与える存在としてのキャラクターが求められたと言えるのではないでしょうか。
ある意味舞台装置と言っても良いような存在として、呉用は描かれていると思います。もちろん知恵の星に込められた象徴性として、頭脳も求められる、しかし同時に、三国志演義における諸葛亮のような「人ではない」存在ではなく、もっと親しみやすく、読者よりも少しばかり攘夷の頭脳を持った存在、そういう一面が時代に求められていたのではないか?と思いますね。
よくある質問(FAQ)
さあ長々と呉用先生についてどういう存在か語ってしまいましたので、ここらで少し休憩という名の質問タイムです。水滸伝はまだまだ初心者、という人への回答をいくつか行っていきましょう。
Q1. 呉用のモデルとなった実在人物はいる?
呉用のモデルとなったのではないか、と言われる人物は、北宋の宰相・趙普です。彼は「学究」とあだ名されており、これは呉用の字と一致します。また趙普は下級役人上がりなため学がなく、看板の額に誤字を書くなどの失敗がありました。これも呉用の失敗の多さと関連付けられたのではないでしょうか。しかし趙普は義侠心に富み、学問を進められて勉学に励むなど、単なる額の無い人間にとどまらず、向上心と義侠心を持ち合わせた好漢です。
Q2. なぜ呉用は「智多星」と呼ばれる?
こちらは前述したように、呉用が知恵者であること、水滸伝の梁山泊における軍師の立ち位置であることからと思われます。ただ三国志演義における諸葛亮のような幻術の類は、もう一人の知恵者である公孫勝の立ち位置となっており、より人間味を感じる存在として味付けされていると言えるでしょう。
【中国を代表する物語「水滸伝」を分かりやすく解説】
Q3. 呉用の最期は史実?創作?
こちらは後で詳しく説明しますが、創作です。ただ殉死であること、ここではそれだけを覚えておいてください。
呉用の最期 ― 知将の静かな幕引き
そんな呉用の最期をお話ししましょう。
水滸伝では、首領の宋江は毒殺されます。その宋江が夢枕に立ち、毒殺されたことと墓参りについて話したことで、花栄と呉用は墓参りをした後に、首領・宋江に殉死を選び、首をつって最期を迎えます。
宋江の死に殉じた忠義
宋江の死と共に全てが終わっていく、確かにそこには忠義があり、想いがあり、そして人の生きる上でのままならなさを感じずにはいられません。しかしそれで尚、帝が手ずから彼らの忠心を称えて廟を立て、末永く祀られるというわずかながらも救いのある最後となっているのです。どこかに救いは確かにある、そんな作者のメッセージを感じますね。
呉用の最期に込められたメッセージ
ただ、ここで少しだけ紹介したいのが、北方謙三水滸伝で描かれる呉用像。詳しく書くとネタバレですが、この水滸伝は原典の水滸伝とはまた最期が違います。彼らが生きてきた思いも、歴史も、受け継ぐものが確かにあることを伝えてくれる話となっているのですが、そこでキーになってくるのが呉用です。いやー、本当に嫌な性格というか、損な性格をしているんですね、北方呉用。
たぶん、初見だとめちゃくちゃいやなやつぅーという感想を抱くでしょう。しかしその内に秘められている仲間たちへの熱い思い、死んでほしくないという未練にも似た感情、そうして時代の受け継がれる様を見届けていく姿、ある意味、誰よりもキーとして描かれているのではないでしょうか。ぜひ皆様も北方水滸伝を見て、呉用の全てを見届けて下さい。
なぜ現代でも「智多星」は人気なのか?心理的・社会的考察
さて個人的な判断となりますが、水滸伝、かなりコアな魅力を持っていると思います。まず、分かりやすい正義と悪という話ではありません。時として味方の方が悪描写がきついです……まあ、これは元々が悪星の生まれ変わりなので仕方がないのですが。そうしてよく言われますが主人公である宋江がどうにも主人公らしくない、これらの点で、どうにも脱落をしてしまう人が出るのですね。しかしこれらを踏まえて色々な視点から見ると、この物語、やはり奇書とされるべき面白さがあり、様々な媒体、書き手によって多種多様な水滸伝が読めるというのは、やはり水滸伝自身の持った魅力です。
水滸伝における「義」と「智」の融合点
そんな中での智多星、呉用。まず神がかり的な知恵者ではないものの、そこには確かに義があり、彼の成す謀略は基本的にはその忠を捧げる相手、組織へのものです。決して私利私欲で失態を犯したり、相手を軽んじて手を抜いている訳ではありません。寧ろ呉用は、公私の「私」部分を滅してまで組織への義を果たす人物として描かれていることも分かります。超人としての「智」ではないものの、そこに潜んだ「義」は間違いなく一級品、それは呉用の現代における魅力ではないでしょうか。
因みに「それはそれとしてハイパー優秀な呉用先生がみたいの!」という方は絵巻水滸伝を見ましょう。ずっと格が高い知恵者智多星が見れます!!ぜひ!おすすめです!!
呉用が活躍する感動的なシーン
最後に原典、後の作品を問わず、いくつかの呉用の活躍シーン、個人的な名セリフをどうにかネタバレにならない程度にご紹介したいと思います。やはり呉用の大活躍としましては、原典の印鑑うっかりシーン。これは前述したように、水滸伝での大きな盛り上がりシーンである宋江救出作戦に繋がるからです。
この場面がなくては水滸伝はやはり盛り上がらない、だからこそここでは敢えて、敢えてミスをして下さい先生!というか先生でもこんなミスはしないだろ!確認するだろ!という訳でここはたぶんストーリーご都合ミスです!……と、本音を漏らしてしまいましたが、誤用先生とまで言われる呉用ですが、ここばっかりは寧ろスッキリするうっかりだと思いますので、名シーンとして挙げさせて頂きました。
呉用の名場面・名セリフ集
そして名言でぜひ挙げたいのが北方の「しまった、というのが昔の私の口癖であったほどだ」です。ここでそのセリフ出てきてしまうか~!と膝を叩かずにはいられない、正に北方名セリフ、いやね、これが出る直前のセリフも含蓄あって大変良いのですが、やはりこれあってこその呉用ですので、ぜひこちらを。
呉用の人間味を感じる名セリフ
パッションが高すぎてまとめきれてはいませんが、呉用、水滸伝の中でも、完全無欠ではなくとも、本当に良いキャラクターです。どうぞ皆様も、様々な媒体で呉用をご確認のほど、お願いします。
関連記事:人助けをしただけでお尋ね者に?水滸伝、花和尚・魯智深のお話(前編)
三国志ライター センのひとりごと
此処まで言ってなんですが筆者の水滸伝の推しは林冲と李逵です。この二人が最期至るまでがホントままならなくてすごく好きで……好きで。しかし水滸伝を見直してみると、呉用先生もまた語りたくなる魅力が多く、何よりも三国志演義の諸葛亮と比較されて誤用先生とか言われていると、どうにも言葉を尽くして擁護したくなる、そんな魅力があるキャラクター造形をしていると思います。
また違うストーリーせいではありますが、水滸伝、おススメですのでどうぞよろしくお願いいたします。湖のほとりで、どぼーん。
参考:蜀書諸葛亮伝 魏略
大人が読みたい水滸伝 完全保存版 (サンエイムック 時空旅人別冊)
関連記事:本当は怖い『水滸伝』実は残酷でメンタルやられる四大奇書
関連記事:水滸伝と何ぞや?水滸伝のあらすじ(かなりざっくり化編)





















