「麒麟がくる」で明智光秀が魅了された火縄銃。西暦1543年に九州種子島に伝来したと言われる火縄銃は、実は戦国時代に日本の事情にあうようにカスタマイズされガラケー化していました。では、西洋の火縄銃と日本の火縄銃ではどこが変化したのでしょうか?
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銃床を持たない日本の火縄銃
西洋の火縄銃と日本の火縄銃の大きな違いは、日本の火縄銃が銃床を持たない事です。銃床とは、小銃の銃身を支える木製の部分の事ですが、日本の火縄銃は銃床が極端に短く台尻と呼ばれています。
元々、銃床は火縄銃を肩に当てて固定して命中精度を高め、発射の衝撃を緩和する目的で付けられていました。しかし、16世紀には軽装の銃士が主流になった西洋と違い、日本では侍大将から足軽までかなり重量がある鎧を着ていたので、銃床を持つ火縄銃を肩に押し付けるのは難しく普及しなかったと考えられています。
もうひとつの理由としては、日本の和弓を引き絞った形が、ちょうど頬のあたりに右手が来て、火縄銃の引金の位置と同じくらいになるという特徴があります。慣れ親しんだ和弓の持ち方と火縄銃の持ち方が大体同じになるので、馴染みやすかったという理由があるようです。
バネの使い方の違い
日本の火縄銃は、引金を引く事でロックを解除しバネの反発力で瞬時に火皿の火薬に火縄が着火する瞬発式火縄銃という形式になっています。ところが、欧州やイスラム、中国の火縄銃は逆にバネの力で常に火縄を押し戻す力が掛かっている緩発式火縄銃でした。
瞬発式の火縄銃の利点は、引金を引くのと弾丸の発射がほぼ同時でタイムラグがないので狙撃に向いています。ただし意図せずに引金が動いてもすぐに暴発する危険性がありました。逆に緩発式火縄銃は、引金が常に元の位置に戻ろうとするので、暴発の危険性は少ないですが、引金を引いてから弾丸が出るまでにタイムラグがあり狙撃には不向きです。このようにバネの使い方でも日本とそれ以外の地域で火縄銃の性能が異なっていました。
鉄砲隊の使い方の違い
では、どうして日本では瞬発式火縄銃が、西洋やイスラム、中国では緩発式火縄銃が採用されたのでしょうか?これは鉄砲の運用に大きな違いがあったからです。欧州では、火縄銃は、ある程度人数をまとめて密集陣形で運用されました。戦法の中にも一斉に鉄砲を発射する事で、周囲に煙幕を張る効果があり、必ずしも命中率を重視したものではありません。
逆に日本では、長篠や関ヶ原のように大量の鉄砲兵を動員する事もありましたが、鉄砲足軽自体は少人数編成に留まり、命中率が重視される事になりました。また欧州の場合には、鉄砲兵が敵兵を打ち倒しても、それを誰が倒したかカウントする事はありませんでしたが、日本ではそれがあったので、鉄砲足軽は名狙撃手である必要が高まったのです。
260年の泰平が火縄銃を固定した
江戸時代に入り、実際の戦場が遠ざかると、火縄銃の運用には多くの流派が登場して、スポーツ化していき、その目安として増々命中精度に拘るようになります。一方で民間でも、火縄銃は狩猟に利用され、やはりタイムラグがある緩発式火縄銃の需要が生まれる余地はありませんでした。
どこまでも命中率を求める日本のガラパゴス姿勢は、その後に西洋で開発されたホイールロック式銃やフリントロック式銃のような瞬発式火縄銃と同系譜のばねによる撃発機構を持つ銃にも及びました。つまりは、ホイールロック式銃やフリントロック式銃は、威力もあり扱いも簡単でしたが、バネが強すぎて撃発時の振動が大きく銃身がぶれたり、火花が飛んでから火薬に点火するまでにタイムラグがあり命中精度が低下するので、すでに戦国時代には技術そのものは輸入されていたのに定着しませんでした。
また、火縄銃と違い、雨の日でも問題なく使えるというメリットも、すでに戦争が起こらなくなった江戸日本では、あまり重視されなくなっていました。日本人は火縄銃を、あまりにも日本の習慣に合うようにカスタマイズしてしまった結果、もっとも手に馴染む武器にまで高めてしまい、それが新しく便利な技術であっても、使いにくいとして新式銃を排除するという方向に進んでしまったのです。
ガラパゴス化の元祖火縄銃
火縄銃には、日本的ガラパゴス化の全てが詰まっているような気がします。例えば、世界的には姿を消しているガラケーが日本では生き残っている等がそうですが、日本人は手に馴染んだ道具に強い愛着を示し、スマホが増えていく世界潮流そっちのけで、その道具の利便性を極限まで高めてしまっていました。
日本人は日本だけで、着メロ、着うた、ワンセグ、Edy等、新しい機能を次々につけていき、スマホのような新しい道具を必要ないからと拒絶してしまうのです。ガラケーも消えるかと思えば携帯なのに、Webとも繋がる第二世代ガラケーが出来るなど、実はまだまだしぶとく生き残っています。ただ、ガラパゴス化は悪い事ばかりでもありません。日本の火縄銃は世界で最も命中精度に特化した優秀な銃器として前装式銃器の射撃大会では、外国人選手でも日本の火縄銃を選ぶほどに愛好されているのです。
戦国時代ライターkawausoの独り言
銃床を持たない瞬発式火縄銃は、日本の合戦シーンや生活、習慣にあまりにもマッチしたので、どんどん日本化を続けていき、ついにはメイドインジャパンな性能を持つ、命中率を極限まで追求した武器になったのですね。
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