コロナ騒動で、しばらく放送延期が続いていた、NHK大河ドラマ麒麟がくるが2020年8月30日から放送が再開されます。新たな登場人物も発表され、ますます勢いに乗る麒麟がくるですが、今回は本郷奏多さんが扮する近衛前久を取り上げます。
この近衛前久、藤原氏出自なんですが、弱々しい公家のイメージに似合わず剛毅な人でした。
この記事の目次
天文5年近衛植家の長男として誕生
近衛前久は、天文5年(1536年)近衛植家の長男として京都に誕生しました。天文9年には元服し、叔母の慶寿院の夫の室町幕府12代将軍、足利義晴から偏諱を受けて晴嗣と名乗り、天文10年には従三位に叙せられ、公卿に昇進。
以後は、天文16年に内大臣、天文22年に右大臣、天文23年に関白左大臣となり、また藤氏長者に就任して全藤原一門の頂点に立ちます。近衛家という藤原一門の筆頭ではありますが、18歳で藤氏長者とは前久の優秀さの表れかも知れません。天文24年(1555年)1月13日には、従一位に昇叙し、足利家からの偏諱を捨てて、名前を前嗣と改めます。
kawa註 藤氏長者のメリットは?
氏長者に任命されると、氏神の祭祀や氏社・氏寺の管理を担うようになります。藤原氏の場合には、春日社や興福寺などと繋がりが深いですが、興福寺長官である別当の輔任も氏長者の権限でした。それは経済的にも軍事的にも大きな勢力である興福寺を勢力下における事を意味します。
また、氏長者には、氏爵の推挙といい、正六位上の氏人から1名を従五位下に推挙する特権があり、律令下では五位以上は貴族として多くの特権が認められたことから、希望者は大金を積んで氏長者に働きかけを行いました。
このように藤氏長者は、ただ藤原一門の頂点というだけではない多くの特権を持っていたのですね。
上杉謙信とマブダチ!剛毅な公家近衛前久
永禄2年(1559年)越後の長尾景虎(上杉謙信)が上洛しますが、この時、前久は景虎と意気投合、将軍足利義輝と3人で大酒を飲み、景虎とは血書の起請文を交わして盟約を結びます。
この時、上杉謙信29歳、足利義輝23歳、近衛前久23歳、全員が20代です。それはそれは、熱く幕府の将来を語り合った事でしょう。そして、前久と謙信が交わした血の盟約とは、上杉氏が上洛し衰えた室町幕府の再興を図る事でした。
近衛前久は決して口先番長ではなく、盟約を交わしたからには、自分も上杉を応援しようと関白の職にありながら、越後に出向き、永禄4年の初夏には越山し、謙信の関東平定を助けるべく、上野、下野に赴くなど公家らしからぬ行動力を見えます。
さらに、謙信が越後に帰還しても危険を承知の上で関東の古河城に残って関東の情勢を謙信に伝えるなど、大胆かつ豪胆な行動を続けていました。
この頃、名前を前嗣から前久に改め、花押も公家形式から武家形式に改め、謙信の戦勝には逐一、お祝いの手紙を送る等、謙信に心酔している様子が見えます。
しかし、武田、上杉の二正面作戦から謙信の関東平定が立ちいかなくなると、前久の熱は急速に醒め、永禄5年8月には帰京しました。謙信は、前久を引き留めたとされますが、それを振り切っての帰京で二人の仲は険悪になったようです。
三好三人衆の将軍殺しを黙許し義昭に京を追放される
さて、ここまで正直な熱血公家のイメージの近衛前久ですが、ここから段々と玉虫色になっていきます。永禄8年(1565年)5月、永禄の政変で、将軍、足利義輝を殺害した三好三人衆は、将軍殺しの罪を恐れ揃って近衛前久の庇護を願います。
足利義輝と言えば、数年前には幕府再興の夢を語り合い、上杉謙信と共に大酒を飲んでゲベロベーした仲ですし、姉が嫁いだ義理の兄でもあります。当然、そんな事が許せるかー!になるかと思いきや、「まあ、義輝の正室の姉上を保護してくれたわけではあるし」と謝罪を認めて許してしまうのです。あらら・・
おまけに、三好三人衆が推す、足利義栄にも将軍就任の決定を出してしまい、三好三人衆の便宜を積極的に図っていきます。
近衛前久のライバル?二条晴良
しかし、三好三人衆の天下は長く続かず、永禄11年(1568年)には、織田信長が義輝の弟の足利義昭を奉じて上洛を果たし、三人衆は阿波にあわあわと逃げていきます。
さあ、こうなると前久には逆風しか吹きません。
足利義昭は、前久が兄の死に関与していると疑い、さらに先の関白の二条晴良も、前久の罪を追及、義昭は「黒」と断定し前久を朝廷から追放し、関白の地位を剥奪します。
代わりに関白になったのは、前久を調査した足利義昭のお気に入りの二条晴良でした。この人は、前久が関白になる先々代、関白だった人ですが、突如引退していました。晴良も近衛前久程ではありませんが、同じく藤原氏で22歳で藤氏長者になったエリートです。関白の地位を巡り、前久とは火花を散らしていたのでしょう。
ちなみに麒麟がくるでは、二条晴良をお笑いタレント、小藪千豊さんが演じますが、復讐に燃える陰湿な公家、二条晴良のイメージにピッタリですね、と言っては失礼ですね。
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