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辰砂(しんしゃ)別名:賢者の石
どうでしょう?
これだと、なんか薬っぽくみえなくもないですよね?
この辰砂は、水銀が硫黄と結びついた硫化水銀という物質です。この硫化水銀には、とても面白い性質が存在しています。赤い鉱石である硫化水銀は、酸素中で熱してある温度に達すると硫黄と分離し、液体金属である銀色の水銀となります。
しかし、この状態の水銀を350度まで加熱すると今度は酸素と結合する酸化を起こし、再び赤黒い砂状の物質に変化します。この状態の物質は赤降汞(せきこうこう)と呼ばれます。粒子の大きさによって黄色い黄降汞(おうこうこう)にもなります。
この赤降汞をさらに加熱していくと、400度で黒色化し、500度になると酸素と分離して再び水銀に戻ります。つまり、硫化水銀という物質は加熱していくと赤い固体(辰砂)→銀色の液体(水銀)→赤い固体(赤降汞)→銀色の液体(水銀)と、その姿を循環させつつ変化していく、ということですね。
不老不死を実現するための技、煉丹術
始皇帝の時代以前から、中国には“不老不死”の思想がありました。諸子百家のひとつ、道家の思想から派生した宗教である道教には、神仙=仙人となって不老不死を得ることが究極の理想であるとする考え方がありました。そこから派生した長生術が煉丹術(れんたんじゅつ)です。
煉丹術は、はじめ不老不死の秘薬を作るとこから始まりました。これを『外丹術(がいたんじゅつ)』と呼びます。
『外丹術』において、薬の基本材料とされたのが辰砂です。辰砂は別名を丹砂(たんしゃ)と呼ばれ、この辰砂を用いて作られる薬は『丹薬』と呼ばれました。もちろん、主原料が辰砂=水銀ですから、そこから作られた丹薬が不老不死の秘薬であるわけがありません。はっきり言って毒薬です。
実際、唐の時代にはこの丹薬を服用して死んだ皇帝が何人もいたことが、史書に記されています。
結局、不老不死の秘薬を生み出そうとする試みは失敗に終わりましたが、錬丹術はその後、『外丹術』の思想を応用し、自らの身体機能を呼吸法や房中術で高めて不老長寿に至ろうとする思想に変化していきました。この思想を『内丹術(ないたんじゅつ)』と呼びます。ちなみに、曹操(そうそう)が行った健康法はこの『内丹術』の教えに基いています。
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錬金術と錬丹術の類似点
(イラストはホムンクルスを作り出す錬金術師)
中国の煉丹術と西洋の錬金術にはいくつかの類似性を見出すことができます。まず、その主目的は失敗に終わっていること。煉丹術は不老不死の妙薬を創りだすことが目的でしたが、錬金術は貴金属(金)を他の金属(卑金属)から生み出そうとするのが最初の目的でした。
多くの副産物を生み出したことも類似点と言えるでしょう。例えば火薬は錬丹術の副産物であったと言われています。錬金術も、やがて科学の母体となり、そこから無数の成果物が作り出されたことは、説明不要ですよね。
そしてもう一点、水銀と硫黄を主要な物質としていた点も類似しています。(正確には、錬金術においては『水銀』『硫黄』『塩』の三種類の物質があらゆる物質の基本であるとされましら)
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