三蔵法師、孫悟空、猪八戒、沙悟浄、それに馬の玉龍、天竺へ有り難いお経を取りに向かう、おなじみの4人と一匹ですが、彼等にも前世というものがあるという事をご存じでしょうか?
ドラマでは、中々尺が取れずに語られない、彼等の前世について、はじ西では、紹介しちゃいますよ。
この記事の目次
元々は、天界の水軍提督、天蓬元帥(てんぽうげんすい) 猪八戒
猪八戒(ちょ・はっかい)と言えば、西遊記のメンバーの中では、一番の大喰らい、ナマケモノで、女好き、そのうえに、醜い豚の容貌を持つという、いじられキャラです。
しかし、そんな八戒も、下界に落される前は、天の川を管轄する天帝の水軍を指揮する、天蓬元帥という偉い提督でした。水軍提督という事は、三国志だったら周瑜(しゅうゆ)レベルです、あの豚の八戒からは、想像できないカッコいい姿ですね。
病的な女好きが災いし、下界に落され、豚に生まれ変わる
ところが、この天蓬元帥、恐ろしく女好きという困った一面がありました。この頃、元帥は広寒宮(こうかんきゅう)の嫦娥(じょうが)という月の女神に夢中でした。
蟠桃会(ばんとうえ)という聖王母の誕生日の宴の時の事、したたかに酒に酔った元帥は、宴の席ですましている嫦娥を見かけます。
元帥「あんれまぁ、、酔っているせいか、普段より一段と美しく見えるじゃないのん 嫦娥ちゅわぁぁん」
元帥は、ムラムラと湧きあがる情念を抑えきれず、強引に嫦娥に言い寄ります、びっくりした嫦娥は、悲鳴を上げて助けを求めました。この事は、ただちに天帝の耳に入り、武人にあるまじきハレンチな振舞いと怒った天帝は、元帥を鎚(つい)で二千回打ちすえます。
天帝「貴様は天上人失格じゃ、、人間からやり直せ」
こうして、元帥は身分をはく奪された上に、天上から落されたのです。ところが、元帥は、人間に生まれ変わる筈が、何の手違いか、目標を逸れて、隣の豚小屋に落ちてしまいます。そして、ちょうど妊娠していた雌豚の腹に宿り、豚の子として、生まれ変わってしまいました。
豚に生まれ変わり、人を喰う妖怪に変化する天蓬元帥
絶望した、元帥は、雌豚の腹を喰い破り誕生します。
元帥「もう、おしまいだ、人になるつもりが豚になっちまった!
天界にも戻れん、人にもなれん、ちくしょう!ちくしょう!!」
やけになった元帥は、周囲にいた豚を全て叩き殺すと、福陵山(ふくりょうさん)で人を喰う妖怪になるのです。その後、女妖怪の婿になり、一年余り暮らしますが、妻が死にます。元帥は、そのまま、妻の遺産を食いつぶし、財産を使いきると、また、山に籠り、人間を襲って食べる生活を送るのです。
こ、、怖い、、ドラマでは、かなりユーモラスな猪八戒は、本当は、こんな壮絶で残虐な妖怪だったんですね。
そんな荒んだ生活をしていた、元帥ですが、天竺へ仏典を取りに行く旅人を探していた観音菩薩(かんのんぼさつ)と、弟子の恵岸(けいがん)が福陵山を通りかかり、
「三蔵法師の供をして天竺まで行くなら、その罪は許され、来世では浄壇使者(じょうだんししゃ)として天界に住めるだろう」と言います。
天界に戻りたい元帥は、土下座して罪を詫び、二度と人間は食べないと誓います。そこで、観音菩薩は、彼に猪悟能(ちょごのう)という法名を与え、三蔵法師が来るのを待つようにと言いつけます。
元々は、天帝の側に仕えた捲簾大将 沙悟浄(さごじょう)
日本では河童の妖怪として知られる、沙悟浄、力は弱いですが、いつも冷静でクール、世の中を斜めに見るひねくれ者の彼は、元々は、天界において、天帝の側近くに仕えガードする捲簾(けんれん)大将という近衛(このえ)大将でした。
ちなみに捲簾とは、天帝の前に垂れている御簾(みす)をまくるという意味ですが、大将がまくるのではなく、ちゃんと、御簾をまくる役の役人がいます。
蟠桃会で玻璃(はる)の器を割る大失態、地上に落される
しかし、捲簾大将の運命は、蟠桃会という聖王母の誕生会で、一気に暗転してしまいます。ここで、孫悟空は、宴会に呼ばれなかった事を恨み、大暴れして、仙人しか食べられない食事や、酒を飲み喰いしますが、この時、捲簾大将は、誤って、聖王母が大事にしている玻璃の器を落して割ってしまうのです。
しまったと思った捲簾大将は、これを悟空の責任にしようとしますが、目撃者がいて、ばれてしまいます。聖王母は、天帝の母ですから、天帝の怒りは普通ではありません。
天帝「この無礼者め!貴様は首だ!地上に落ちて罰を受けよ」
こうして、捲簾大将は、鞭で八百回打たれた上で地上に落されます。そこは、砂漠のど真ん中で、喉は渇き、凍える程に寒いのです。さらに、天帝は罰として、7日に一回、天から鋭い剣を飛ばして、捲簾大将の脇腹を抉りました。
エグイ、エグ過ぎる、幾ら高価でも過失で割った器ごときで、こんな刑罰を与えるなんて、天界はブラック企業です・・
苛酷な環境で運命を呪い、捲簾大将は妖怪になる・・
捲簾大将「俺が何をしたというのだ、誤って器を割っただけで、どうして、こんなに苦しむのだ、ちくしょう!ちくしょう!」
捲簾大将は、苛酷な環境で性格が歪み、砂漠に迷い込んだ人間を喰らう妖怪に変化していきます。こうして、元は人間の姿をしていた大将は、藍色の顔になり、髪は火のように赤く、目は丸く光を放つという異形になり果てるのです。
因みに、沙悟浄を河童としているのは誤りで、彼が根城にしていた流沙河を砂漠ではなく、川と誤解した事から変化したそうです。荒んでいた彼ですが、そこに、天竺へ仏典を取りにいく旅人を探していた観世音菩薩と恵岸が通りかかり、
「天竺へ向かう三蔵法師の供をして天竺に行くなら、その罪は許され来世では金身羅漢(こんしんらかん)として天界の池に住めるだろう」と告げます。
天界に戻りたい沙悟浄は、土下座して罪を詫び、三蔵法師の供になると誓うのです。観音菩薩は、捲簾大将に沙悟浄という法名を与え、三蔵法師がやってくるのを暫く待っているように言い置いて、去っていくのです。
元は釈迦の二番弟子だった三蔵法師
非力ですが、品行方正で優しい性格に描かれる三蔵法師ですが、彼にも前世が存在しています。それが、釈迦の二番弟子だった金蝉子(こんぜんし)です。
さて、この人物、釈迦が二番弟子にしている程なのに、釈迦の説法を聞かず、その教えを貶すような事をしたようです。なんだか、仏の教えには従順な三蔵法師とは大分違いますが・・その為に釈迦の怒りに触れて、東方に転生させられてしまいます。東方とは、インドから見た中国の事で、ここで生まれ変わった三蔵法師は、心を入れ替えて、仏教に帰依(きえ)します。
そして、天竺(てんじく:インド)に行って、仏典を持ち帰ろうと一念発起して、何と、9回も転生しては、天竺を目指すという旅を繰り返しますが、毎回、流沙河に巣くう妖怪に喰われて失敗しています。
流沙河で三蔵法師を食べたのは、沙悟浄
実は、この流沙河(りゅうさが)の妖怪、沙悟浄の事なのです。沙悟浄は、僧行をしていて、首から9個の髑髏をぶら下げていますがそれは全て、三蔵法師の前世の頭蓋骨なのでした。
さて、10回目の転生、すなわち三蔵法師になった現在の三蔵は、長安で、天竺に仏典を取りにくる使者を探していた、観音菩薩に見事に選ばれます。
「天竺から仏典を持ちかえれば、以前の罪は許され、来世では、天界に上り旃檀功徳仏(せんだんくどくぶつ)として釈迦の側で仕える事が出来よう」
それを聞いた、三蔵法師は天竺行きの使命を引き受けます。こうして、五行山で孫悟空、福陵山で猪八戒をお供にした三蔵法師が流沙河に差しかかると、、再び、沙悟浄が襲いかかります。
しかし、今度は、三蔵法師が先に弟子にした猪八戒が、沙悟浄を止めて、三度も打ちあい、決着がつきません。それを見ていた孫悟空は筋斗雲に飛び乗り、観音菩薩を呼びにいきます。観音菩薩は、恵岸という弟子を派遣します。
そこで、沙悟浄は、ようやく、この一行が待ち望んでいた三蔵法師だと知って、弟子になるのです。
でも、過去の自分を9回も食べた、沙悟浄を弟子にするなんて、三蔵は怖くないのでしょうか・・・
西遊記ライターkawausoの独り言
ところで、西遊記では、妖怪達が三蔵法師を食べれば不老不死になれると言って、襲いかかってきますが、その理由は、三蔵が10回転生する間、一度も、精を漏らした事がない清浄な体だからとされています。
つまり、三蔵法師は、性交渉はおろか、オナニーも夢精すらしていない完璧な高僧なので、その肉は仏に匹敵すると考えているのです。しかし、それなら、流沙河で、三蔵の前世を9回食べている、沙悟浄は、とっくに不老不死なんじゃないか?とkawausoは疑問に思いました。さて、今日の西遊記はこれでおしまい、続きは次回のお楽しみ。カチカチカチ~
時代を超えて愛される中国四大奇書「はじめての西遊記」