2016年5月26日、アメリカ大統領としては史上始めて、
バラク・オバマ大統領が、広島市の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花しました。
国内の反発を考慮して、アメリカ合衆国による広島、長崎に対する原爆投下への
謝罪は一切ありませんでしたが、核廃絶の理念は継続して語られました。
オバマ大統領は、人類の進歩と調和が素晴らしい業績も
悪魔の兵器も同時に生みだしたと前置きした上で、
「核保有国は、アメリカも含め、核を持たなければ他国に攻撃されるという
恐怖の論理から逃れる勇気を持たなければいけない」等と呼びかけました。
しかし、大統領が、そのようにスピーチするアメリカ自体が、
世界有数の核保有国であり、さらに世界で唯一戦争で核を使用した国である事を考えると、
「他国に呼び掛ける前に、自国の核を率先して捨てれば?」
という違和感を拭えない人は多いでしょうね・・
春秋戦国時代の非核宣言 葵丘(ききゅう)の盟(めい)
さて、今をさかのぼる事、2700年前の中国春秋時代、、
ある画期的な誓いが、中華の諸国の間で結ばれる事になります。
紀元前651年に、最初の覇者となった斉(せい)の桓公(かんこう)が
諸侯を集めて開いた会議では、ある画期的な誓いが交わされました。
それが、「防を曲げるなし」という一文です。
防とは、堤防の事で、ここでは、中華の諸国を通る大河、
黄河の堤防を破壊して戦争に使ってはいけないという意味です。
黄河は大量の土砂を含んだ河で、堤防を決壊させると、その濁流は
家でも城でも全てを破壊して飲みこみました。
それは、2700年前の世界では核兵器に等しい凶器だったのです。
木簡だけの誓いは、2600年にわたり守られた・・
当時の盟は、非常に仰々しいもので、よく肥えた牛を引き出し、
耳を切って、その血を盟約を結ぶ諸侯がすすりあうというものでした。
この時、牛の耳を切る役目を、盟の主が受けた事から、
ある組織や団体を支配する事を牛耳るというようになります。
ところが、葵丘の盟は、そのような仰々しい儀式もせず、
ただ、木簡に、盟の内容を書いて、各々が署名をして終わりました。
しかし、たったそれだけの簡素な盟にも関わらず、
諸侯は、「防を曲げるなし」を代々にわたって履行してゆき、
ついに、1937年まで破られる事はありませんでした。
叡智の力か、報復の恐怖か、守られた盟
もちろん、2600年守られた盟を、中国人の道義を守る力の強さに
すべて還元するわけにはいきません。
つまり、もし、一つの国が他国の堤防を破壊してしまったら、
それを知った別の国々は報復として、その国を侵略するかも知れませんし
同じように、その国の堤防を破壊して都市を濁流で押し流すかも知れません。
そう考えると、いくら戦争に勝利できても報復のリスクと勝利の
利益が合わないとも言えるのです。
しかし、もう一方では、堤防決壊の衝撃は、一つ、敵国ばかりに
留まらず、それより下流にある諸国まで到達するかも知れません。
それを考えれば、たかだか一つの勝利の為に、中華文明に
多大な被害を与えるのにしのびないという考えも出来るでしょう。
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核が出来て71年、人類は葵丘の盟を更新できるか?
核爆弾が、アメリカのニューメキシコ州、アラモゴード砂漠で、
恐怖の産声を上げてから、71年、世界は核戦争の恐怖に包まれ続けています。
2700年の昔、斉の桓公が中心となり黄河の平和利用を誓ったように、
現代の人類は、残り2600年、核兵器を使わずに文明の破滅を
阻止できるでしょうか?
それが、報復の恐怖でも、文明を滅ぼすまいという高邁な決意でも
どちらでも構わないですが、どうか、再び、核兵器が罪もない人々の
頭上で炸裂するような未来だけはやってきて欲しくないですね。
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