架空戦記って何?いつから存在してどこでIF戦記ブームは過ぎ去ったの?

2016年7月9日


 

曹操 呂布

 

はじさんでも、時折特集している架空戦記、ローマ帝国対漢帝国や、スパルタ対秦帝国、或いは項羽vs呂布というような時間と空間を超えた戦いは、読者の想像力を刺激してくれますよね?では、そもそも架空戦記とはいつから存在し、どのような作品があるのか皆さんはご存じでしょうか?

 

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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架空戦記の源流は歴史を盛(も)る所から・・

劉備 黒歴史

 

私達は、面白エピソードを人に話す時に少々内容を盛るという事があります。例えば、「面接に大遅刻して30秒前でギリギリ間に合った」と言っても、本当は面接自体少し時間が延びていて割とセーフだったとか・・

 

「泥酔して気がつくと、道路の真ん中で寝ていて危うくトラックに轢かれそうだった」

 

とか言っても、実際は街路樹に近い場所だったから轢かれるまではいかなかったとか・・こういう事は相手を騙そうという意識ではなく、相手を怖がらせたり面白がらせようという過剰なサービス精神から発生するものです。

 

同じような事は、古代の戦争を語る叙事詩や、日本の軍記物などにサービス過剰な盛りとして散見されます。例えば、ペルシャ戦争を書いたヘロドトスの「歴史」では、ギリシャに攻め込んだペルシャ軍は数百万というあり得ない数字になっていますが、これも

 

「こんな大勢のペルシャ軍を破ったギリシャ人は凄いんだぞ」

 

というヘロドトスの盛りなのです。日本の軍記物でも例えば太平記などでは、一人で数千の兵を討ち取るなどという豪傑が登場しますが、三国無双じゃあるまいし、明らかに話を盛った逸話が多く登場します。

 

 

 

ショック?実は内容を盛っている史記

項羽

 

中国史上、最高峰の歴史書としても名高い司馬遷(しばせん)の史記は、項羽(こうう)韓信(かんしん)荊軻(けいか)の逸話があまりにも完成しているので、司馬遷が元々の話をベースにかなり内容を盛っているという疑惑が昔から存在しています。しかし、もし、司馬遷が陳寿(ちんじゅ)の正史三国志のように、史記を史実を忠実に再現した内容にしていたなら、今日の史記の高い評価はありえないでしょう。

 

司馬遷は嘘を書いてはいませんが、話を面白くして読者を引き込むというテクニックを無意識に使っていたのです。

 

 

kawauso

 

kawausoも、より面白くはじさんを読んでもらおうと内容を少々盛る事はありますが、遥か昔に司馬遷も同じ事をしたんですね。

 

 

19世紀後半、科学と帝国主義の時代が架空戦記を産む

かあん02

 

19世紀に入ると、戦争の近代化によって仮想敵というものが生まれます。仮想敵とは、今は戦争状態ではないけど、このまま領土上の緊張が続くとゆくゆくは戦争になるのでは?というような潜在的な敵国を意味しています。こうした中で実際に戦争に従軍してリアルな戦争を書いた戦争文学とは別に今後、起きるであろう近未来の戦争をシュミレーションした架空戦記が生まれます。市民の識字率も大幅に向上した19世紀後半の世界で、このような近未来架空戦記は多くの人々に娯楽として読まれました。

 

 

日本でも流行した架空戦記・・

 

明治維新を成し遂げて西洋的な近代化を受け入れた日本でも、架空戦記は広く一般に受け入れられました。なにしろ、日本自体が、北のロシアや西の清朝と領土のせめぎ合いを経験しなくてはならないのですから、必然的に海外の戦争や、日本が戦う相手について、敏感にならざるを得なかったのです。このような架空戦記では、日本の戦う相手は、ドイツや中国、そしてロシアなどが登場していました。

 

そして、皮肉な事に、ここに挙げた3つの国と日本は現実に戦火を交える事になっていきます。

 

1930年、中国では周大荒により反三国志演義という戦記が書かれます。彼は北京の古本屋で偶然、真実の歴史を記した「三国旧記」という古本を手に入れそれをベースに物語を書いたというスタンスで、この本では蜀が魏を滅ぼして天下を統一するという架空戦記風の話になっています。

 

ただ、飽くまで周大荒は、正史三国志は王朝が都合の悪い事実を隠ぺいした偽物で、こっちが本物というスタンスなので、原作者の考えでは架空戦記ではなく、反三国志演義が正統で正史三国志が架空戦記という、難しい話になります。

 

 

少年少女向けに戦争より冒険を主題にした架空戦記も登場

 

一方で戦争に主眼を置かずに、科学技術の粋を極めた兵器に重点を置いた冒険小説も登場するようになります。その草分けは、押川春浪(おしかわ・しゅんろう)という人で、彼は後に映画化もされた海底軍艦という架空戦記を1900年に書いています。また、彼は日欧競争空中大飛行艇という空に浮かぶ飛行軍艦をイメージした架空戦記も書いていて、日本のSF戦記の草分けでもあります。スタジオジブリやFFシリーズの飛行艇も押川の影響を受けていたりします。宮崎駿は、反戦平和の人ですが、一方で戦前に流行した近未来兵器、例えば、幾つも砲塔を備えた多砲塔戦車などの絵をよく描いています。架空戦記は、現在のアニメーションにも影響を与えているのです。

 

 

戦後に大流行、歴史改変モノ

 

袁家ヒストリー01 袁術 袁紹

 

戦後になると、日本では歴史改変モノが登場するようになります。歴史改変とは、○○がもし○○だったらという歴史上のIFを取り扱うジャンルです。

 

 

袁紹 曹操

 

例えば、関ヶ原の合戦で、もし西軍が勝利したら、もし、本能寺で織田信長が死ななかったら、三国志で言えば、もし官渡の戦いで袁紹が勝利していたら等があります。歴史改変モノは歴史が古く、2000年前には、アレキサンダー大王が東ではなく西に遠征してローマと対峙していたらどうなったか?というような本を書いたローマ人がいたようです。歴史改変は、ある部分までは史実ですから、どこまでも自由に執筆できるわけではなく歴史を読み込んで不自然ではない展開をしないと読者が呆れてしまい興味を失う事になります。

 

しかし時代を選ばず、色々な歴史で使用できるので、歴史知識が広範囲な人はテーマに困らないではあります。この時代には、1961年小松左京の「地には平和を」1967年豊田有恒の「モンゴルの残光」1971年には、何度も映画化されたSF歴史改変「戦国自衛隊」が登場します。モンゴルの残光は13世紀に世界を席巻したモンゴル帝国が、没落せず、そのまま世界を支配して白人種を奴隷にしているという現実世界を反転させたような内容です。戦国自衛隊は、現代の自衛隊の一小隊が時空の狭間に迷い込み、戦国時代にタイムスリップして現代兵器で鎧武者や騎馬軍団と戦うという斬新な内容でした。

 

 

リアリティを追求した架空戦記全盛期

1980年~90年代に入ると、架空戦記業界はリアル志向になります。それまでの架空戦記は、どうストーリー展開を見せるかに主眼が置かれ実際の兵器などの描写は、おざなりでした、しかし、80年代に入ると、檜山良昭が1988年、「大逆転ミッドウェー海戦」を発表します。

 

これは、海上自衛隊の護衛艦が1942年のミッドウェー海戦の直前の世界にタイムワープするという歴史改変モノですが、タイムワープの理由などは、詳細には触れず、ただ、海上自衛隊の兵器と1942年当時の日米の兵器の性能を豊富な軍事知識と共にリアルに書いています。当時は、SF ファンタジーモノの小説が飽きられていた事もあり、檜山のリアル路線の架空戦記は、新しい架空戦記のジャンルを切り開いたとされ出版社は、どんどんリアル架空戦記路線に方向転換しました。

 

この頃、kawausoは10代でしたが、当時の本屋では新刊小説が、このようなリアル系統の架空戦記で埋め尽くされていた事を覚えています。ただ、当時のkawausoは大変にひねくれていて、

 

「どんなにもっともらしく書いても嘘は嘘だろうが!」

 

というスタンスを崩さず、一冊も読む事はありませんでした。今考えれば読んどけばよかったかな・・当時のヒットした架空戦記には、紺碧の艦隊、帝国大海戦、終戦のローレライ、機神兵団、戦国の長島巨人軍、孔明の艦隊というのがありますが、この中でも風変わりな孔明の艦隊、戦国の長島巨人軍という架空戦記は、当時、テレビタレントとして、露出が多かった志茂田景樹によるものでした。

 

 

ぶっ飛んでいる架空戦記、戦国の長島巨人軍

ちなみに孔明の艦隊とは、諸葛亮孔明の霊が連合艦隊司令長官に憑依して作戦を指揮するという、もはや、オカルトなんだか、SFなんだか架空戦記なんだか、わけがわからない話。

 

戦国の長島巨人軍に到っては、長島茂雄監督(当時)率いる巨人軍が陸上自衛隊で一日体験入隊をしている時に戦国時代にタイムスリップし織田信長の天下統一を助けるという破天荒な内容である上に、ただ、戦を手伝うだけではなく、20世紀の文化を啓蒙しようと、織田軍や徳川軍と野球をしたり桑田は巨人軍饅頭を起業して、上手くいかず負債を抱えたり、巨人軍ナインが村祭りでジュリアナダンスを披露したりと滅茶苦茶・・さらにこの作品が未完というのもカオスぶりを助長しています。どうか志茂田先生には、責任を取り最後まで長島巨人軍ナインの戦国時代での活躍ぶりを書いて欲しいものです。

 

 

21世紀から新本格ミステリーに地位を奪われる・・

曹操

 

一時は隆盛を極めた架空戦記ですが、多くの作家が売る為に、架空戦記にシフトチェンジしていった結果として、内容や質の低下、ベテラン執筆陣も、多作による粗製濫造が目立ち、次第にファンに飽きられ、2000年代の後半には、出版社が次々に撤退し架空戦記は1コーナーに縮小されました。代わりに売れ始めたのが、新書形式を取った新本格ミステリーです。今でも書店には、ミステリー小説多いですよね。

 

しかし、一度爆発的に増えた架空戦記作家は、当然の事として生き残りを掛けて、ジャンル替えをしたり、軍事知識を生かして、軍事評論家になったりして、様々な業界に散っていきました。結果として、架空戦記は一ジャンルではなく、様々な小説や漫画やアニメのジャンルに散らばっていき、より広範囲で読者の目に触れるようになったのです。

 

 

 

三国志ライターkawausoの独り言

kawauso 三国志

 

以上、ざっと架空戦記の歴史を追ってみました。当初は、帝国主義の発展による仮想敵国の出現から、近未来戦争として架空戦記が生まれたり、はたまた戦争よりも科学兵器の方に、重心が移動して海底軍艦や飛行艇のアイデア、多砲塔戦車が登場したりしてアニメ作家や漫画家に大きな影響を与えたり、、歴史改変で、様々な歴史上の出来事のIF が登場し、最後には、長島巨人軍が戦国時代でジュリアナダンスを踊るまでになるとは、架空戦記って奥が深いものなんですね・・

 

皆さんは、ここであげられた架空戦記で興味を持った本がありましたか?

 

 

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台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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