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【マニアック読解】諸葛亮が倒れた場所は床かベッドか

2018年8月21日


 

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孔明

 

私はいつも岩波文庫の三国志演義(さんごくしえんぎ)(※)を読んでいるのですが、読むたびに悩む箇所がありました。

第一百四回の冒頭、延命の祈祷(きとう)が失敗に終わった諸葛亮(しょかつりょう)が倒れ込んでいる場面です。

「床に伏しつつ魏延(ぎえん)に言った」とあるのですが、この「床」というのは、

お部屋のなかの足で踏んづけて歩いている部分のことなのか、それともお布団のことなのか??

 

※岩波文庫(赤)『完訳 三国志』小川環樹 金田純一郎 訳 1988年7月7日

その題名から正史三国志の完訳本だと思って手に取ったマニアが演義の完訳本だと知って

がっかりするという事故続出の伝説の三国志演義完訳本です。

 

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監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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「床」という文字

体力を消耗している孔明

 

「床」は、「ゆか」と読めば部屋のなかの足で踏んづけて歩いてる部分のこと、

「とこ」と読めばお布団のことになりますよね。

さて、問題の「床に伏しつつ魏延に言った」。

 

延命の祈祷を行っていた現場に魏延が入って来て祈祷の灯明が消えてしまい

諸葛亮が倒れ込んだのですが、それは足元に倒れたということなのか、

それとも祈祷を行っている部屋の端っこにベッドが置いてあって

“あっ、まずい!具合悪くなりそう!”と思ってあわててそこに横になったのか。

それによって情景がずいぶん変わってくると思うのですが、

「床」にふりがながついていないからどっちだか分かりません。

 

原語でどう書いてあるか調べてみた

体調不良の孔明

 

三国志演義の版本はたくさんありまして、中国で一番流行したのが毛宗崗(もうそうこう)本です。

問題の箇所を見ると、「臥倒床上」とあります。

ううむ、これでも足元に倒れ込んだのかベッドの上に倒れ込んだのか分かりません。

しかしその七十五文字後から始まるシーンにヒントがありました。

(とばり)の中で横になっている諸葛亮を姜維が見舞う場面です。

 

姜維入帳、直至孔明榻前問安(姜維帳に入り、直に孔明の榻前(とうぜん)に至り安を問う)

 

「榻前」って書いてあります。

(とう)」の意味を『漢語林』で調べると、「こしかけ。ながいす。寝台。細長い寝台」とあります。

なるほど、寝る場所は「榻」ですね!

「榻」と「床」、二つの言葉を使い分けてもらえれば、その指す場所の違いが分かります。

最初に倒れた「床」は「ゆか」だったんですね(※)。

 

岩波文庫の三国志演義をよくよく見たら、姜維のお見舞いのシーンでは「寝床」って書いてありました。

「床」と「寝床」ではちょっと、ぱっと見で意味の違いに気付くことができませんでした……。

※実はこれは早とちりで、「床」も寝る場所を指しているようです。

そのことを下に書きますので続きをどうぞ……

 

時代を超えて愛される中国四大奇書「はじめての西遊記はじめての西遊記

 

「榻」で横にならずに座っていた?

横になれず座っていた孔明

 

先ほど上の段落で「帳の中で横になっている諸葛亮を姜維が見舞う場面」と書きましたが、

実はこのとき諸葛亮は横になっていなかったかもしれません。

この場面で、諸葛亮は姜維(きょうい)に自らの著書二十四編、連弩の法、蜀の防衛の注意点を伝え、

馬岱(ばたい)楊儀(ようぎ)を呼び魏延粛清(しゅくせい)の手順を伝えたあと気を失うのですが、

その部分が「便昏然而倒(すなわち昏然として倒る)」と表現されています。

昏然として倒れた、つまり目がくらんで倒れたという意味ですが、

「倒」と表現するからには、横になってはいないはずです。

ベッドの「榻」の上に腰掛けていたのでしょう。

 

「床」も「榻」も寝る場所……

 

ここで一つの疑問が浮かびました。

「床」も「榻」も寝具であって、形状が違うだけなのではないか、と。

「榻」はある程度高さのある寝台で、上に乗っかって横になることもできるし、

足を下に垂らして座ることもできるもの。

「床」は古代人が寝る時に使っていたような、

地べたにすのこを敷いたような寝床なのではないでしょうか。

 

後漢の許慎が作った漢字字典『説文解』によれば、「床」の正字である「牀」には、

几(正座して使うようなローテーブル)に隠れてしまう程度の高さで足を垂らすことのできない

座具兼寝具という意味がありました。

 

同じく『説文解字』で「榻」を見ると、装飾のついた牀である、

というような説明があるんですけれども……。

えっと、結局おんなじものなんでしょうか。…………。

 

三国志ライター よかミカンの独り言

三国志ライター よかミカンの独り言

 

三国志演義毛宗崗本の中の用例を調べてみたところ、

榻と床は完全に同義で使われていました。

床榻(しょうとう)なんていう語彙(ごい)も使われているほどです。

いずれも、横になって眠る時にも使えるし、

お友達と仲良く並んで座って歓談することもできるものです。

「床」は地べたではありません。

 

人が足元に倒れ込む場合には、「昏倒于地(地に昏倒す)」というように、

「地」という文字が使われています。

ということで、結論、延命祈祷が失敗した時に

諸葛亮が倒れ込んだ場所は、お布団の上でした!

地べたじゃなかったんですね。よかった。ほっ。

 

※三国志演義毛宗崗本のテキストは下記を参照しました。

①『三国志演義』羅貫中 著 毛綸 毛宗崗 評改 山東文芸出版社 1991年12月

②「维基文库 – 自由的图书馆」の三国演义(インターネット)

 

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呉の武将

 

 

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よかミカン

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三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。 個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。 三国志小説『ショッケンひにほゆ』 【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】 何か一言: 皆様にたくさん三国志を読んで頂きたいという思いから わざとうさんくさい記事ばかりを書いています。 妄想は妄想、偏見は偏見、とはっきり分かるように書くことが私の良心です。 読んで下さった方が こんなわけないだろうと思ってつい三国志を読み返してしまうような記事を書きたいです!

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