日本も狙われていた?武則天の野望と反撃の狼煙のアジア情勢

2021年9月21日


 

はじめての三国志コメント機能バナー115-11_bnr1枠なし

周を建国する武則天

 

今回は、女帝・武則天(ぶそくてん)が、「唐王朝」に代わり「武周王朝(ぶしゅうおうちょう)」を打ち立てた頃、周辺のアジア各国で起きていた大きな動きを解説していきたいと思います。

 

御簾の向こうから政治を動かす武則天

 

ただ、正確に言うと、武則天が女帝として即位する前、三代皇帝高宗(こうそう)の存命中に、執政として武則天が唐帝国を動かしていた頃から、すでに事変は起きていたのです。

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


【誤植・誤字脱字の報告】 バナー 誤字脱字 報告 330 x 100



【レポート・論文で引用する場合の留意事項】 はじめての三国志レポート引用について



朝鮮半島情勢:「統一新羅(しらぎ)」の本領発揮

炎上する城b(モブ)

 

前回説明したように、三代皇帝・高宗の存命のとき、唐帝国は、朝鮮半島で、新羅と同盟し、668年に高句麗(こうくり)を滅亡させたことで、その帝国が最大版図に拡大したのですが、その後は、徐々に防戦へと転じます。

 

三国志のモブ 反乱

 

僅か2年後、670年には、新羅との間に戦争が勃発します。唐側は、朝鮮半島全体への影響力を強めようと、滅ぼした百済(くだら)と高句麗の地にそれぞれ総督府を設置していきますが、それに対して新羅が抵抗し始めたのです。

 

女帝・武則天b

 

この一連の動きに、武則天は、当時、執政の立場であった訳ですから、関わっていたのは確かでしょうし、朝鮮半島を侵略する意思もあったかもしれません。しかし、唐側は新羅との戦争に苦戦を強いられ、一進一退の攻防戦であったと言われています。

 

結果的に唐側が朝鮮半島から全面的に撤退を余儀なくされるのです。このような状況の中で、武則天には日本への侵略の意図はあったのか?と気になるところです。ただ、率直に言えば、外敵の脅威があり、それどころではなかったか?というのが本音ではないかと考えてしまいます。

 

モブ朝まで三国志

 

朝鮮半島の新羅との関係は、一時期戦争状態に入ったとは言え、戦争中もその後も、唐側が宗主国の立場を保ち続けていました。新羅側にとっては、「統一新羅」として、朝鮮半島の自立性を戦争によって確実に保持できたことになりました。

 

つまり、唐帝国の勢力が、朝鮮半島方面に南下する政策は厳しくなったということです。ということは、日本へも目を向けられなくなったということでしょう。ある意味、朝鮮半島の「統一新羅」が緩衝的な立場となってくれて、日本側が侵略される可能性はなくなったという見方もできるかもしれません。

 

 

遊牧民族勢力の脅威

万里の長城

 

ただ、唐側にとっては、新羅との戦争終結後、別の脅威のために、南方に目を向けられる余裕が全くできない事態へと発展していくのです。それは、まず北方からの脅威だったでしょう。

 

所謂、「遊牧民族」と言われ、しかも騎馬民族の勢力が、台頭してきたのです。正確に言えば、勢力を盛り返してきたと言えましょうか。

 

匈奴の劉淵

 

中国の歴史上では、古くから、北方では「匈奴(きょうど)」や「柔然(じゅうぜん)」と呼ばれた遊牧の騎馬民族が、歴代中国王朝の国々を脅かしていたのでした。この唐王朝の時代になると、北方には「突厥(とっけつ)」が台頭していたのです。トルコ系の種族で、現代のトルコ民族の祖先と言われています。

 

太宗

 

それが、二代皇帝の太宗李世民(りせいみん)の代では抑えられ、帰属の意を示していたのですが、それが、反旗を翻したのです。680年前後の頃でした。さらに北東方面では、「契丹(きったん)」と呼ばれたモンゴル系の種族や、「靺鞨(まっかつ)」と呼ばれたツングース系の種族が台頭してきたのです。

 

元々は、唐王朝や朝鮮半島の高句麗に臣従していたのが、高句麗滅亡の時期に、唐王朝に従う者がいたり、唐王朝から離反する者が、高句麗の遺臣たちともに独立し、台頭したりする勢力に分かれました。

 

中でも、靺鞨の種族たちと高句麗の遺臣たちによって創設された「渤海(ぼっかい)」【698年に建国とされる】が、中国北東部に、高句麗を継承する存在として登場し、武則天の武周王朝を脅かしたのでした。

 

さらには、西の中央アジアでは「吐蕃(とはん)」と呼ばれる勢力が台頭していました。669年には、唐帝国軍の侵攻に対して撃退していたのでした。このように、東西北方面で、幾つもの民族が、独立や領土拡大の姿勢を見せて、唐王朝を脅かしていました。

 

関連記事:【渤海国の謎に迫る】なぜ渤海国は謎の王国になってしまったのか?

関連記事:渤海国とはどんな国?謎の王国・渤海国の建国までを分かりやすく解説

 

北宋・南宋

 

北宋・南宋

 

 

日本は蚊帳の外だった?

五重塔(仏塔)仏教

 

これまで見てきたように、内憂外患の状況の武則天の「武周王朝」でしたので、海を渡った、東の日本列島まで、侵攻しようなどの意識は持っていなかったのではないでしょうか。

 

海を隔てて遠い距離があったため、日本は見逃されたと言ってよいでしょうか。あるいは眼中にはなかったということでしょうか。むしろ、仲間になって助けてほしいと思っていたかもしれません。その証拠になるかどうか分かりませんが、以下のようなエピソードを紹介します。

 

702年に、日本からの30年ぶりの遣唐使が派遣されたとき(以前の「白村江(はくすきのえ)の戦い」により断絶した国交回復が目的でした)、中国の政権は、武則天の武周王朝であったので、正確には、「遣周使(けんしゅうし)」と言えるかもしれません。

 

女帝・武則天a(女性)

 

ただ、そのとき、派遣された使節団は、現地に到着して初めて、女帝・武則天が即位していたことを知ったというのが、通説です。しかし、周囲を敵ばかりに囲まれていた武則天にとっては、久々の友好的な姿勢で訪問してきた使節団に対して、気持ちが和らいだのか、当時の都(「洛陽(らくよう)」が「神都(しんと)」と改名されていました)にて歓待したとのことです。

 

このとき、日本の大和朝廷は、持統上皇(じとうじょうこう)が晩年の頃でしたが、日本の使節団が、武則天に面会した頃は、年も改まり、703年になり、持統上皇は死去していたようです。

 

東アジアの二人の女帝は、お互いを知らぬ状況でした。武則天の方は、その後数年、少しだけ長生きしたので、まだ見ぬ日本の女帝に対して、共鳴の気持ちになったかもしれません。

 

中国史ライター コーノの独り言

コーノヒロさん(はじめての三国志ライター)

 

このように、適度な距離感があったおかげで、日本は救われたようですし、さらには、日本側には、その後の大和朝廷の政治に、良い影響を与えていったようです。次回は、その武則天が日本に与えた良い影響について見ていきたいと思います。お楽しみに。

 

【参考文献】

  • 『則天武后』(外山軍治とやまぐんじ 著・中公新書 )
  • 『則天武后 』(氣賀澤保規けがさわやすのり 著・講談社学術文庫 )
  • 『隋唐帝国』(布目潮風ぬのめちょうふう 著/ 栗原益男くりはらますお 著 ・講談社学術文庫)
  • 『古代遊牧帝国 』(護雅夫もりまさお 著 ・ 中公新書)
  • 『女帝の古代日本』(吉村武彦よしむらたけひこ 著 ・ 岩波新書)

 

関連記事:日本古代史上最大規模の帝都「藤原京」の謎。なぜ十六年の寿命だったの?

関連記事:中国三大悪女に名を連ねた劉邦の妻・呂雉(りょち)とはどんな人?とても怖い実話

 

武則天

 

 

 

  • この記事を書いた人
  • 最新記事
コーノ・ヒロ

コーノ・ヒロ

歴史好きのライターです。 福祉関係の仕事をしつつ、物書きの仕事も色々としています。 小説や詩なども、ときどき書いています。 よろしくお願いします。 好きな歴史人物 墨子、孫子、達磨、千利休、良寛、正岡子規、 モーツァルト、ドストエフスキー など 何か一言 歴史は、不動の物でなく、 時代の潮流に流される物であると思っています。 それと共に、多くの物語が生まれ、楽しませてくれます。

-
-