世界史の授業で習う産業革命、授業ではそれがイギリスで起きた事や蒸気機関が原動力になった事、イギリスが世界の工場と呼ばれるようになる事は習いますが、そもそもどうして産業革命がイギリスで起きたかについては覚えていないのではないでしょうか?
今回のまるっと世界史では、産業革命がどうして起きたのかを解説します。
この記事の目次
イギリスを熱狂させた木綿
イギリスで産業革命が起きた背景にはインドが影響していました。18世紀のインドは、世界一の綿織物の生産地であり膨大な人口と熟練の織物工が格安の綿織物を生産、それがイギリスに大量に入り込んでいたのです。
当時のイギリスでは一般的な衣類と言えば毛皮や麻、金持ちだとそれに絹が加わる程度でした。そこにインドから軽くて肌ざわりと通気性がよく、どんな色にもよく染まる木綿が入り込んできたのです。イギリス人は毛皮のようにゴワゴワせず麻よりも鮮やかに発色する木綿に夢中になり、イギリスの主要産業だった毛織物の消費が激減しました。
怒った毛織物業者は団結して政府に圧力を掛け政府は法律を制定しインドからの木綿輸入を禁止します。
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蒸気機関と新大陸
現金な毛織物業者は、木綿がイギリスの消費者に受けると自分達でも綿織物を生産しようとしますが、そこには大きな壁がありました。インドと異なりイギリスは労働者が少なく賃金が高いのでインドのように職人に頼って織物を生産すると値段が高くなってしまうのです。
しかし、意外な所から解決策が登場します。当時、イギリスでは石炭が主要なエネルギーになっていましたがイギリスの石炭は地下深く掘らないと採掘できないので、必ず地下水の問題にぶつかりました。
地下水は当初、手押しポンプで汲みだしていましたが、地下10mを越えると大気圧に押しつぶされて排水が出来なくなってしまうのです。ここで登場したのが鉱山技師のニューコメンで、彼は蒸気を急激に冷やした時に発生する負圧を利用し、梃子の上下運動で地下水を組みだす蒸気機関を実用化しました。
次にジェームズ・ワットがニューコメンの蒸気機関を改良し、上下運動を円運動に転換。車輪を動かす事で動力を生み出す原動機を開発します。
この技術は紡績機、力織機として応用され、熟練した職人の数倍の速さで24時間休みなく綿織物を生産する事が可能になり、綿織物の値段が劇的に下がり品質も向上しました。
また、綿織物に必要な木綿は新大陸のアメリカ植民地から安く仕入れる事が可能であり、蒸気機関に必要な燃料である石炭は国内で豊富に採掘できました。イギリスはこうしてインドの綿織物を駆逐し世界中に綿製品を売り出す事に成功します。
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労働力を生み出した農業革命
産業革命が起きていたのと同じ頃、イギリスでは農業革命が起きていました。18世紀を通じてイギリスでは農場主が農場を囲い込んで大規模農業を開始します。
これにより農業生産量が飛躍的に増えイギリスでは、1696年に550万人だった人口が、1801年には832万人、1881年には2591万人と200年で人口が5倍に増加しました。こうして増えた人口は労働者として都市に吸収され、高かった労働者の賃金は低下、それにより綿織物の値段も低下しますます国際競争力をつけていきます。
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世界で初めてラッシュアワーが誕生
都市では工場が大型化し、数千名の労働者が1つの工場で働く事も珍しくなくなります。しかし、そうなると近場では労働力が足りなくなり、周辺の農村からも労働者を集めねばならなくなりました。
ここで登場したのが蒸気機関の円運動を車輪の回転に使用したスティーブンソンの蒸気機関車でした。1825年に実用化した蒸気機関車は、38両の貨車に600人の乗客を乗せて、時速18キロで都市と都市を結び、人間や石炭や織物を休みなく運びだすようになります。
蒸気機関車の登場で、それまで毎日都市に通うのが不可能だった人々も通勤が可能になり、人口が集中した都市では世界初のラッシュアワーが誕生しました。
ロンドンの観光名所であるビックベンは1859年に建設されましたが、この時計塔はラッシュアワーで毎日人でごった返すロンドン子に正確な時間を教える為に建設されたのです。
植民地からの搾取が産業革命を産んだ
イギリスで逸早く産業革命が起きた理由には、イギリスが北米大陸を植民地として保有していた事に大きな原因があります。
イギリスはリバプールやブリストルから綿製品を満載した船をアフリカに送り綿製品を売りさばいた後で、黒人奴隷を購入して西インド諸島や北米大陸で売り、最後に綿花や砂糖を購入してイギリスに帰還する大西洋三角貿易を繰り返し、資本家が莫大な富を蓄積していました。
イギリスの資本家はこの富で産業革命により発明された高価な蒸気機関を大量購入し、また大きな工場を建築して大勢の労働者を雇用し効率を追求して生産力を最大にする事に成功します。このようにイギリスは広大な植民地を持つ事で資本を蓄積し産業革命を成功させる事が出来ました。
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