ゲーム、漫画、アニメ、小説…『三国志』がモデルの名作が数知れず。ゲームで『三国志』を知ったり、漫画から『三国志』に興味を持ったり。人によって『三国志』への入り口は違いますが、どの人も『三国志』の奥深さにどっぷりはまっていきますよね。
このように数多の『三国志』コンテンツに浸かっている日本人にとっては、中国といえば『三国志』というイメージ。そんな数多く存在する『三国志』ファンの中には、中国人留学生を見かけて、嬉しくてつい『三国志』を一方的に語ってしまったという人も多いでしょう。でも、思ったよりも反応が薄い…。実は中国の人たちはそれほど『三国志』に惹かれないそうで。正史『三国志』をとっても長い歴史のうちの1つの時代、小説『三国志演義』をとっても名作として数えられている小説のうちの1つくらいにしか思っていないそうです。
私たちが外国人に『大鏡』の良さを語られて返答に困るのと同じくらい、中国人は『三国志』のことをよく知らない…。そんな!こんなに面白いのに…!なぜ私たち日本人は、こうも『三国志』に惹かれるのか…?『三国志』のヒーロー劉備に焦点を当て、その謎を徹底検証してみました。
悲劇のヒーロー
人は喜劇よりも悲劇が好きです。それは、古代ギリシャ「アガメムノン」「オイディプス王」「メディア」をはじめとする何百、何千、もしかしたら何万という悲劇の数が、喜劇の数を圧倒していることからも推しはかることができます。
『三国志演義』も悲劇に分類されるでしょう。主人公・劉備の天下の混乱をおさめ、民を安んじたいという思いは儚くも散ってしまいます。この主人公・劉備の無念の思いに共感できない人はいないはず。そもそも、日本には「判官贔屓」という言葉があります。
源義経は、兄・頼朝のために力を尽くして平家を滅ぼしたのにもかかわらず、頼朝に謀反人の濡れ衣を着せられ、奥州平泉まで落ち延びます。しかし、そこでののんびりとした日々も続かず、ついに頼朝の追手に見つかり自害。そんな悲劇のヒーロー・義経に同情せずにいられないのが日本人の性なのです。
曹操という強大な敵に果敢にも立ち向かった劉備ですが、多くの犠牲をはらったにもかかわらず、ついに打ち破ることが叶いませんでした。その劉備に一種の「判官贔屓」にも似た情を抱くのが日本人。だからこそ日本人は『三国志』に心を寄せるのでしょう。
頼りないヒーロー
優柔不断な「でもでもだってちゃん」、しかも、頑固で人の話を聞き入れないことで有名な劉備。頼りないヒーローですが、この頼りなさこそが肝。主君の欠点をカバーする数々の魅力的な名臣たち。武の関羽、張飛、趙雲…
智の諸葛亮・龐統・法正…その他諸々、劉備のために力を尽くした臣下の数は数知れず。逆に、決断力がある上に臣下の使い方も上手な曹操は悪役扱い。やせ蛙、負けるな一茶これにありこのような気持ちになるのも日本人だからなのかもしれません。
仁徳が高いヒーロー
母親に高いお茶を買ってあげる孝行息子。どのような人にも礼儀正しく接し、二回り近く年下の諸葛亮を三顧の礼を以て迎えた劉備。その仁愛は民草にまで振りまかれる…。劉備の魅力は、人に担がれる立場にいながら、決して威張らず、常に謙虚であったところ。実るほどこうべを垂れる稲穂のごとく人々を愛する劉備の姿勢に我々日本人の心は鷲掴みにされるのです。
庶民派ヒーロー
劉備は物語のはじめに筵売りとして登場します。母親と2人だけで慎ましく暮らす筵売りの姿に、親近感がわく人も多いでしょう。そして、宿敵として現れる曹操は、劉備とは対照的に名門貴族。一般庶民である自分に庶民的な劉備を、悪徳官僚など、庶民から搾取する側の人間に奸雄・曹操を重ねて『三国志』を読む人も少なくないのではないでしょうか。
逆境に負けず、困難を打ち砕いて邁進する主人公の姿は、清貧を良しとしてきた日本人にとって爽快なものであることに違いありません。日本人の心を掴んで離さない『三国志』今回はヒーロー論にしぼって検討しましたが、人気の秘密はそれだけではないはず。その秘密を探しながら読んでみるのも面白いかもしれませんね。
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