後継者問題は三国志でも非常に重要かつデリケートな問題で、魏の曹家では曹操の跡をめぐって曹丕(そうひ)と曹植(そうしょく)が激しくぶつかり合い、曹家は一時的にですが後継者を巡った問題で沸騰したことがありました。
戦国時代でも家督相続は重要な問題で、この問題でこじれれば家が真っ二つに割れてしまうことがあります。今回紹介する武将は家督相続の問題ではないですが、ある大名家を揺るがす大事件を起こした人物です。
その名を武田義信(たけだよしのぶ)と言います。戦国最強と言われた武田家を揺るがす大事件を起こしたこの人物がどのような人物であったのかご紹介したいと思います。
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信玄の嫡男として生まれる
信玄と京都の公家の娘との間で生まれたのが嫡男・武田義信です。彼は信玄に大切に育てられていき、13歳になったとき武田軍の筆頭重臣である飫富虎昌(おぶとらまさ)を教育係として付けられることになります。
義信が15歳の時には甲斐(かい)武田家・駿河(するが)今川家・相模(さがみ)北条家との戦国時代最強と言われる三国同盟が締結されます。この時信玄は今川家から今川義元の娘を義信のお嫁さんとしてもらっております。義信と今川義元の娘は非常に仲が良かったそうですが、これが後に武田家を揺るがす大事件の原因につながる事になります。
足利将軍から名前をもらう
信玄はゴールドラッシュで湧いていた甲斐の金を幕府に献上してご機嫌を取っておりました。そして彼は義信の為に時の将軍であった足利義輝(あしかがよしてる)に「我が嫡男の名前を決めたいと思っているのですが、将軍様の名前の一字を頂戴したいと思っております。いかがでしょうか。」と要請します。
信玄の要請を聞いた義輝は「よかろう」と言って自分の名前の「義」の字を義信に与えます。信玄の嫡男である義信の名前の由来は足利幕府の将軍様からもらており、当時としては非常に名誉なことでした。
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武田家次期当主として期待を持たれる
義信は父である信玄と共に信濃攻略戦に従軍。この信濃攻略戦で彼はいくつもの武功を挙げていき、父信玄から褒められています。また重臣達からも義信の武略を褒めており、父信玄の後継として武田家を背負う次世代の若き君主として大いに期待されることになります。
義父の死と外交転換
義信は信濃平定戦で忙しく駆け回っている頃、桶狭間の戦いで義信の義父である今川義元が織田信長の奇襲攻撃によって討ち取られてしまいます。このことを聞いた信玄は駿河の様子を探らせます。
そして義元の跡を継いだ今川氏真(いまがわうじざね)は未だ若く、父義元に到底及ばないとの報告を受けます。この報告を聞いた信玄は駿河侵攻作戦を行うべく重臣達を読んで会議を開きます。この会議には武田家を背負う次世代当主である義信も呼ばれております。この会議の内容を知った義信は会議の席で「武田家と婚姻関係がある今川へ攻め入ることは断固反対である。」と父信玄に食い下がります。
信玄も嫡男がこんなにも反対するとは全く思っていなかったため、驚きを隠せませんでした。しかし彼は駿河攻略作戦を行うべく今川との同盟を破棄するとの決定を下します。
このことを知った義信は信玄に大いに落胆するとともに、父との関係がギクシャクしてしまいます。また信玄との溝を決定的に修復不可能な状態にしたのは織田信長と婚姻を結んだことでした。義信の弟・四郎勝頼(しろうかつより)の嫁に信長の血縁である遠山氏の娘を貰い受けてたことです。
このことを知った義信は「なぜ父は義父を殺した信長と同盟を結ぶのか意味がわからない」と教育係の虎昌に尋ねるほどでした。こうして信玄と義信の関係は悪化していくことになります。
父を追放しよう!!
義信は祖父信虎を追放した信玄を真似て、現当主である父信玄を追放したいと虎昌に訴えます。虎昌は何度も義信を止めますが、義信は我慢できずに実行する幾度も言い放ちます。
その為虎昌も義信説得を諦めて謀反に加担することになります。こうして信玄追放の準備を行っていた最中、この計画が信玄にバレてしまいます。
信玄は義信謀反の知らせを聞いてまず教育係であった虎昌を自害させ、義信を甲斐の寺に幽閉します。義信は父に命じられたとおり、幽閉先へ移りこの地で二年間ひとりぼっちで過ごしておりました。そして彼は父信玄に命じられて自害して果てることになるのです。
戦国史ライター黒田レンの独り言
義信は計画がバレて幽閉されて亡くなってしまいます。もし彼が駿河攻略戦に反対せずに生きて武田家の当主に収まっていれば、武田滅亡はなかったかもしれません。このように考えると嫡男を殺害したことが惜しまれてなりません。
参考文献 信玄の戦略 柴辻俊六著など
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