実は燕はミステリアスな国で春秋時代の燕のことについてはほとんど史料が残されていません。
『戦国策』にその姿が著され、ようやく戦国時代の姿が浮かび上がってきた燕ですが、やはり他の国とは違う雰囲気。
今回はそんな燕での遊説家たちの活躍を『戦国策』燕策からいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。
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乱れている国は狙い目ですよ
ある日、周人である宮他が燕のために使者として魏に出かけました。
しかし、魏は宮他を燕の使者と聞いて数か月もの間無視し続けました。
これを哀れに思った賓客が魏王に燕の使者の話を聞かない理由を尋ねると、
「燕の国内は乱れているからね。」
との答えが。
すると賓客は次のように魏王に説きました。
このことに鑑みるに、大乱が起きている場合には地が得られ、小乱が起きている場合には宝物が得られるもの。
燕の客人は
『もし願いを聞き届けていただけたら地と宝物を出し尽くしても文句は言いません』
と言っています。
それなのに魏王さまはなぜ客人とお会いにならないのですか?」
賓客の言葉を聞いて魏王は大喜びで宮他と会ったのでした。
使者・宮他の人脈の広さに燕は救われた形となりましたね。
はたして使者の願いは聞き届けられたのでしょうか…?
まず隗より始めよ
斉によって滅亡の淵に立たされた燕。
そんな燕で王位についた昭王は優秀な人材をより多く燕に招き入れたいと考えます。
そこで、そのための知恵を教授してもらおうと郭隗先生のもとへ赴きました。
郭隗先生は
「まごころを込めてひろく国中の賢者を選び、その門を叩いてみてください。
昭王さまがわざわざ賢臣をお訪ねになる人だと天下に知れ渡れば天下の士が『我こそは』と燕に集まってくることでしょう。」
と答えました。
この言葉を聞いた昭王は更に
「まずは誰を訪れればよいでしょうか?」
と尋ねました。
すると、郭隗先生は次のように答えました。
「古の人君に千金で千里の馬を求める人がおりました。
しかし、いつまで経っても千里の馬は現れません。
そんな人君にある役人が『私が買ってきますよ』と申し出たので、人君はお金を渡して買いに出させました。
ところが、役人は五百金で死んだ千里の馬を買ってきたものだから人君は大激怒。
しかし役人は次のように話したのです。
『死んだ馬でも五百金で買うのだから、生きている馬はもっと高く買ってもらえると世間で噂になるはずです。
千里の馬は必ずやって来るでしょう。』
はたして、1年もしないうちに千里の馬が何頭も人君のもとにやってきたのです。
さて、昭王さまが心から士を招きたいのであれば、まずこの私、隗より始めてくださいませ。
私でさえ昭王さまに招かれたとあれば私より優れた者たちはなおさらのこと。
千里を遠しとせずやってくるでしょう。」
昭王は郭隗先生の言葉を受けて
まず郭隗先生のために宮殿を築いて師事しました。
すると、この噂を聞きつけて後に斉を滅亡寸前まで追い込む楽毅や五行説を唱えた天才陰陽家・鄒衍、後に燕の国教を司る法家・劇辛など
優秀な人材が燕に続々終結。
かくして燕はかつてないほど富み栄えることになったのでした。
—熱き『キングダム』の原点がココに—
私の伯楽になってください
蘇代が燕のために斉に使者として赴いた際、まず斉王と謁見するために斉の説客・淳于髠を口説こうと次のような話をしました。
「あるところに駿馬を売る者がいました。
しかし、誰も目をとめてくれません。
そこで、伯楽に会いに行き、
『私の馬の周りをぐるっとまわってご覧になり、振り返り振り返り立ち去っていただけませんか?
そうしてくだされば馬が売れたときのお金を分けてお礼にさしあげます。』
と言いました。
伯楽が言われたとおりにすると、馬は十倍の価格で売れたのだとか。
さて、私も駿馬として斉王さまにお会いしたいのですが、あなたが私の伯楽になってはくれませんか?
白璧を一対と黄金千鎰で飼料の代金にさせていただきます。」
この言葉を聞いた淳于髠は二つ返事で承諾。
かくて蘇代は斉王に気に入られ、燕の使者としての役割を果たすことができたのでした。
※白楽は馬の鑑定の名人と呼ばれた人
三国志ライターchopsticksの独り言
燕は他所から優秀な人を集めることが上手な国だったようですね。
『戦国策』は小話集のようなきらいがありますが、それぞれの国の小話を分析していくとその国の姿や性格がなんとなく見えてきます。
皆さんも『戦国策』を読んで個性豊かな戦国時代の国々の性格を分析してみてはいかがでしょうか?
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