日本刀が活躍した最後の時代である戦国時代。武将たちは好んで、古刀、銘刀の部類を集めていました。
最も天下に近づいた織田信長などは、よく知られる不動国行、実休光忠、圧切長谷部等、十三振の銘刀をはじめ、数十本の刀を集めていました。でも、どうして戦国武将は競うように名刀を集めたのでしょうか?
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武士の時代にあこがれ鎌倉・南北朝の刀を集めた
戦国時代にも、刀は随分生産されました。値段はピンキリで包丁レベルの三百文の粗雑な刀から、百貫以上の名刀まであります。日本刀は盛んに輸出もされ、中国から東南アジアまで、何十万振という刀が渡っていきました。しかし、銘刀コレクターの大名達は、戦国時代の刀ばかりではなく、鎌倉や南北朝のヴィンテージの古刀も集めていました。その理由には、もちろん骨董品の価値もありますが、それ以上に鎌倉や南北朝に対する戦国武士の憧れがありました。
鎌倉に幕府があり、武士が天下を治めていたという事実が、戦乱の時代に生きる武士には、強い武士の時代の遺物を身に着けて、その武威にあやかるというステータスだったのです。刀でなくても、例えば室町時代の当世具足は、鎌倉時代の大鎧をモデルに造られました。大鎧は、式正(正統)の鎧と考えられていたのです。
俺も先人のように、弓馬の道で天下に号令したいものだ・・。戦国武将は、ヴィンテージ刀をしげしげと眺めて野望を滾らせたのです。
容赦なく古刀をカスタマイズする戦国武将
鎌倉や南北朝の古刀を集めたと言っても、戦国武将は現在のコレクターとは違います。実戦を考えて扱いにくい刀は、容赦なく磨り直しをして使いやすいようにカスタマイズしました。
特に、古刀は太刀というジャンルに入り、馬上から振り回す前提であり重く長い武器でした。しかし、室町後期から足軽が急増した結果、合戦は騎兵戦から歩兵戦に移行、武士は地上で戦うので主要な武器も槍に変化し、刀も短く、腰帯に差す打刀に変化しました。
そこで、太刀は邪魔になり刀鍛冶に命じて、再度磨りあげて打刀にカスタマイズしたものもあります。今からの感覚では、勿体ないという話ですが、戦の場を生きる武士は実用最優先なのでした。
贈答品や助命の切り札
質が高く由緒がある古刀は、実戦で使うだけではなく、贈答品としても使えました。ひとかどの武士なら、古刀の一振りを所望するものであり、例えば、主君が部下に下賜したり、家臣が主君に献上したり、場合によっては敗戦後の助命措置として、敵に与える事で死を免れる事が出来ました。
例えば、姫鶴一文字は、関東管領上杉氏の重宝でしたが、上杉家の守護代、長尾為景の次男として生まれた上杉謙信が上杉家の家督を継いだ時に姫鶴一文字も共に受け継いでいます。
領地より、金銭より人の心を動かす古刀は、持っておいて損のない切り札でもあったのです。その為、古刀は、何百年もの間所有者を変え続け、現代にまで伝わっているモノも少なくないのです。
刀は武士の最期の武器
戦国時代、武士の主要な武器は槍になっていました。大勢が入り乱れる戦場では、長距離兵器の槍を振り回して敵をよせつけないのが有効な戦闘手段になったからです。そして、槍も使えなくなった接近戦で登場する最後の護身武器が刀になったのです。一番最後に残る頼みの綱が刀なので、武士は刀を自身の守り神とするようになります。
これは、守り刀という習慣になり、戦場ではなくても病に倒れた武士が枕元に刀を置いて、凶事から身を守ろうとしました。織田信長が保有していた名刀、義元左文字は、元々今川義元の持つ愛刀でしたが、桶狭間で義元が討たれた際に奪い取られたものです。この刀身には、織田信長の命で、永禄三年五月十九日義元討捕刻彼所持刀/織田尾張守信長と刻まれています。
もしかすると、義元が抜刀し最後に奮っていたのが、この義元左文字だったのかも知れません。
オーダーメイドした現代刀
もっとも、鎌倉や南北朝の古刀だけではなく、戦国武将は自分に合うオーダーメイドの現代刀を造らせていました。例えば、槍でも有名な加藤清正は、山城国堀川で活躍していた刀鍛冶の国広に刀を打たせ、後に加藤国広と呼ばれるようになります。現代刀には、伝統的な価値はありませんが、自分の使い勝手に合わせて自由に使えるので扱いやすいものでした。
戦国時代の刀は装飾より質実剛健で機能美重視なので、鎌倉や南北朝の刀に比較して、美術的な価値は低いようです。ここにも、まず使えないと無意味という戦国の武士の考え方の一端が見えてきます。
戦国時代ライターkawausoの独り言
戦国の武士にとって、鎌倉・南北朝期の古刀は、武士が天下を取っていた時代の栄光の品として羨望の的であり、それを保有する事で先人の武威にあやかれる効果を持ちました。しかし、同時に、実践重視の戦国武士は、使いにくい古刀は、実際の合戦に合わせて、カスタマイズするもの当たり前でした。ただのマニア癖ではなく、古刀と言えど使い倒す所に、戦国武士の考え方の一端がうかがえて興味深いですね。
参考文献:歴史探訪vol9戦国時代の刀