みなさんに一番なじみのある三国志は何でしょうか。
真・三國無双、三国志大戦、蒼天航路、などなど。
女子化しようが妖怪になろうがモビルスーツになろうが三国志は三国志。
じつに懐が深いですね。
ところで、三国志好きの人と好きな武将談義を始めると、必ず
魏延(ぎえん)を熱烈に支持する人が一定数いますよね。
確かに魏延は働き者で親分肌、魅力的な人物ではありますが、なにも
そこまで……? と傍目にいぶかってしまうほど熱烈な支持者が、
必ずいるはずです。
これはきっと、吉川英治さんのせいですね。
三国志演義成立の過程で毛宗崗(もうそうこう)がせっかく削った、
魏延が可哀相すぎるあの迷シーンを、吉川さんが復活させちゃったせいに違いない!
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吉川英治(よしかわ えいじ)さんって?
三国志ってなんとなく知ってはいるけど読んだことないな、という人が、
三国志を読んでみた、と言いたくなったら、吉川英治さんの小説の三国志か
横山光輝さんの漫画の三国志を手に取るのが一般的なのではないでしょうか。
横山さんの漫画は吉川さんの小説をもとにして描いておられるので、
三国志のお話ってこういうものかな、と多くの人がイメージするのは
吉川英治さんの小説がもとになっていることと思います。
魏延との因縁は?
吉川さんの三国志は三国志演義を膨らませて書かれたものですが、
三国志演義は劉備(りゅうび)陣営びいきで書かれているので、
劉備さん超いい人、劉備を困らせるのはみんな悪人。孔明(こうめい)さん超天才、
孔明を困らせるのはみんな悪人、というスタンスになっています。
北伐の終盤で孔明さんの言うことを素直に聞かず困らせていた魏延さんは
もちろん悪人扱いです。
名将黄忠(こうちゅう)を助けて長沙(ちょうさ)を劉備に差し出したお手柄の魏延に、
孔明は「この者には反骨の相があります」なんて嫌なことを言っており、
ふつうに考えれば魏延かわいそう、ってなりますよね。
しかしこれは魏延が後々謀反をすることをこの時点から予見していた
ことで孔明の聡明さを際立たせるための演義流の演出です。
(現代人の感覚からすると、そこで冷たい仕打ちをされたから恨みに
思って後の謀反の種になったんじゃないの、って思いますが……)
これもひどいですが、「あの迷シーン」とは、第五次北伐の、
秋風五丈原(ごじょうげん)の頃の話です。
丞相病篤かりき、魏延怒り深かりき
第五次北伐で、孔明が司馬懿(しばい)を谷におびき寄せて閉じ込めて
火計で倒そうとするシーンがあります。
その時、三国志演義の古い系統の本では、孔明が魏延も一緒に閉じ込めて
司馬懿もろとも焼き殺そうとしたことになっています。
後々謀反することが分っているからという理由で。
……なんで決めつけるんですか孔明さん。あんまりです。
そして、火計が失敗して、魏延が謀略に気付き激怒する、なんていう
なりゆきになっています。これじゃあ謀反するのも当然だよ……
これではあまりにも孔明さんがひどすぎるので、毛宗崗が編纂したと
言われる新しい系統の三国志演義では、魏延謀殺未遂の経緯はバッサリ
カットされています。
ナイス毛宗崗。さすがにあのシーンはひいきの引き倒しですからね……
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三国志ライター よかミカンの独り言
その、毛宗崗がせっかく削った迷シーンが、吉川英治さんの三国志には
入っているんですよ。
そうこられちゃうと、やっぱり情として、魏延はそんなに悪くないんじゃ
ないの? って思いますよね……
その結果として熱烈な魏延ファンが大勢生まれている今日の状況。
いち三国志ファンとしては、正直、とっても面白いです!
吉川さん、ありがとう。
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