Kawausoは、ああ、孔明(こうめい)衰えたるかな・・と思う計略が一つあります。それが他でもない、孔明が陣地に引っ込んで出てこない司馬懿(しばい)を挑発する為に、女物の衣服(晋書高祖宣帝紀では、女物の髪飾り)を送りつけて、「お前は臆病な女のようなヤツだ、やーい!仲達子ちゃーん」と罵った計略です。
もちろん、冷静な司馬懿が、そんな挑発に乗る筈なく孔明は空しく陣没します。智謀の塊のような孔明でさえ、病魔の前には焦りを隠せず成功する筈もない子供騙しの計略を行うのかと、悲しくなったものです。ところが、最近調べてみると、後世、孔明と全く同じ計略を使い大成功した将軍がいた事がわかりました。
この記事の目次
唐将、杜伏威、隋の陳稜を女物の服で誘き出す
義寧元年(617年)の事、当時、隋の右禦衞将軍の陳稜(ちんりょう)が、煬帝(ようだい)より、反隋勢力の杜伏威(と・ふくい)を討伐するように命令を受けました。そこで、杜伏威は、先手を打って軍を率いて出陣しますが、陳稜は城門を堅く閉じて戦おうとしませんでした。
そこで、杜伏威は、女物の衣服を調達して陳稜に送りつけ「陳姥(陳ばあさん)」と呼んで挑発し嘲笑いました。いやいや、まさか、こんな子供騙しの挑発に陳稜が乗るわけが・・オガッ!乗ったよコノ人、しかも烈火の如く激怒し、不用心にも全軍で城から飛び出して、あっさりと杜伏威の伏兵に引っ掛かって大敗そのまま、逃げていっちまったよ。
関連記事:大胆仮説!孔明が口ずさんだ梁父吟は芝居のセリフだった!?
恐るべし諸葛亮 女物の服プレゼント攻撃はちゃんと通用した!
こうして考えてみますと、諸葛亮(しょかつりょう)が考案したと考えられる、戦わない相手に女物の服をプレゼントして挑発し、誘き出すという計略は決して、苦し紛れの策では無く、ちゃんと成功している事が分かります。まあ、単純に、陳稜が短気な人物であるだけとも言えますが、当時の将軍も、敵に臆病者と侮辱される事は、相当なストレスだった、という事は出来ると思います。
三国志の武将に特化したデータベース「はじめての三国志メモリーズ」を開始しました
孔明の計略は本人よりも敵軍の兵士に作用する
しかし、翻って考えるに、陳稜も一軍を率いる人間なので、この程度の挑発で激怒して城を飛び出すとは、考えにくい事です。つまり、本当は陳稜も、杜伏威の挑発など馬鹿らしかったのですが、配下の兵士の侮りを恐れて、城を出る羽目になったのではないでしょうか?
というのも、この頃、杜伏威は、20歳になったばかりの青年将軍で陳稜よりは、ずっと年下でした。
「こんな小僧にバカにされて、ウチの将軍は黙っているつもりなのか?」
隋の兵士達がそんな風に考えていた可能性もありますし、その頃の隋は煬帝の暴政で、各地に反乱が起きて、滅亡寸前ですから、ここで弱気になると、兵が言う事を聞かなくなる恐れもあったでしょう。やむをえない事情が重なり、陳稜は怒った(フリ)をして出撃せざるを得なくなったのかも知れません。
関連記事:諸葛亮孔明の愛に溢れた手紙に感動!歴史に残るほどの親バカぶりに思わずホッコリ笑顔になれる!【誡子書】
関連記事:幻の必殺陣形・八卦の陣とは?三国志演義と諸葛亮孔明の八陣図
【北伐の真実に迫る】
司馬懿も、ただ無視したわけではなかった
一方の司馬懿も、孔明渾身の挑発を、ただ笑って済ませてはいません。彼は激怒してみせて、すぐにも出撃してやると息巻きますが、魏帝曹叡(そうえい)の使者として司馬懿につけられた辛毗(しんぴ)が「ダメよーダメダメ」と詔勅を盾に何度も反対して宥めると言う司馬懿の芝居に付き合って阻止しています。
晋書高祖宣帝紀では、姜維(きょうい)が「辛毗が来たので、もう司馬懿は出てきますまい」と醒めた感じで言い
孔明も、孔明で、
「司馬懿は最初から出撃するつもりはない、わざと怒ってみせて自軍の士気を鼓舞しただけだ・・大体、将軍とは戦地では君命も受けない自由裁量が認められているのに、君命だから出撃できんとは猿芝居もよい所だ」というような、達観したコメントを出しています。
ここを見ると、司馬懿は激怒する魏兵を詔勅で抑えつつ、面目を保つ方法をしっかり採用していたのであり、ただ、孔明の計略を聴き流しただけではなかったのですね。
三国志ライターkawausoの独り言
こうして考えると、陳稜は杜伏威の挑発を巧妙にかわす勅命もなく、宥めて共に芝居に付き合う部下もいなかったというのが、女物の服を送って挑発するという、子供騙しの計略をよけられなかった最大の原因だと言えないでしょうか?
逆に言えば、そのようなギミックを用意できないと、孔明の女物の衣服プレゼント攻撃は、有効だったと言えますし、杜伏威も、それを見越して孔明の計略を試し、成功したのだと思います。こうして考えると、流石孔明と言うべきかも知れませんね。
関連記事:120話:司馬懿失脚の隙を狙い孔明は北伐に踏み切る