戦国の七雄、韓・魏・趙・燕・斉・楚・秦のうち最弱と言われている韓。
韓は秦や楚といった強国に囲まれており、いつもビクビクしていたと言われています。
しかし、たしかに最弱でビクビクしていたかもしれませんが、韓にも様々な遊説家たちが集まっていました。
今回は韓での遊説家たちのエピソードを『戦国策』韓策よりご紹介します。
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私は嘘つきだと思われているから
ある日、韓の相・公仲に周の臣である顔率が会いに来ました。
ところが、公仲は顔率と会おうとしません。
そこで顔率は取次役に次のように話しました。
「公仲殿は私のことを嘘つきだと思っているからお会いしてくれないのでしょう。
公仲殿は婦人を好みますが、私は公仲殿のことを立派な士がお好きな人だと言ってきましたし、
公仲殿は度を過ぎた倹約家ですが、私は公仲殿のことを太っ腹な人だと言ってきましたし、
公仲殿は平気で道に外れたことをする人ですが、私は公仲殿のことを義を好む人だと言ってきました。
これからは正直にありのままに話すことにしようかな。」
さて、取次役が公仲に顔率の言葉を伝えると、公仲はそそくさと立ち上がって顔率に会いに行ったのでした。
これは韓ではなく、周の臣・顔率のお手柄話ですね。
それにしても顔率の言葉に動揺するあたり、公仲はかなり困った人みたいですね…。
秦を軽んじてはいけない
ある人が韓の相・公叔の外交の姿勢について次のように諫言しました。
「舟に乗り、舟が漏るのを塞がないで放っておけば舟はいずれ沈んでしまいます。
しかし、漏る舟を塞いでも、大波を軽んじていれば舟はひっくり返されてしまいます。
今、公叔さまは斉の相・薛公と同盟を組むことばかりに気をとられ秦を軽んじてしまっています。
まさに漏る舟を塞いで大波を軽んじている状態です。
なにとぞご推察くださいますように。」
ある人というのは韓の臣、もしくは韓の将来を真剣に思う遊説家でしょう。
韓の最高位に就く人物に巧みな比喩を用いて諫言する姿勢は大変立派なものですね。
—熱き『キングダム』の原点がココに—
カササギをカラスと言うことは…
韓の臣・史疾が使者として楚に出かけました。
楚王は史疾と会うと次のように尋ねました。
「あなたはどのような道に従い、何を貴ばれていらっしゃるのかな?」
史疾は
「列子の教えを修め、正しいということを貴びます。」
と答えました。
すると楚王は
「正しいということで国が治められるかな?
楚の国には賊が多いが、正しいということだけで賊が防げますかな?」
と尋ねました。
これに対し、
「できます。」
と答える史疾。
本当かよと思った楚王は訝し気。
そんな楚王に
今度は史疾から次のように質問をしました。
「楚の人は、あの鳥を何と呼んでいますか?」
楚王は
「カササギと呼んでいる」
と答えました。
史疾は更に
「あれをカラスと呼ぶのはいかがですか?」
と畳みかけます。
「それは正しくない」
と答える楚王。
この楚王の返事を聞いた史疾は楚王を次のように諭しました。
「楚王さまのお国には柱国・令尹・司馬・典令といった官職があり、これらを任じるにあたっては
『廉潔にして任にたえる』とおっしゃるでしょう。
しかし、今では盗賊が横行していてしかもそれらを取り締まることができない。
これはカラスがカラスでなく、カササギがカササギではなくなってしまっているということです。」
史疾は楚王が重要な官職に就ける人物選びを間違っているから国を脅かす賊を取り締まることができていないとバッサリ言い切っています。
韓の使者としてナメられないように軽くジャブを入れてやったつもりなのでしょうがなかなか強烈ですね。
その後、韓と楚の交渉がどのように進んだか気になるところです。
秦に美人と黄金を贈ったら…
外交上手かに思える韓ですが、こんな失敗エピソードも。
韓は秦が目障りで仕方がありません。
大国・秦は存在しているだけで脅威ですからね。
しかし、ある時韓は秦によしみを通じようと考えます。
そのためにはやはり金が必要だと考えた韓は美人を売りに出して金を稼ぐことにしました。
しかし、その美人を買ったのは秦。
その上、韓は美人を売った金をそのまま秦に献上するという珍プレーを見せます。
これで秦の信頼を得られたのであれば、まぁ良い買い物をしたくらいのものだったのかもしれませんが、なんと売られた美人が
「韓が秦が大っ嫌いなんですのよ」
なんて喋りまくっていたために韓は結局秦の信頼を得ることができず、
かえって不信感を抱かれることになってしまったのでした。
三国志ライターchopsticksの独り言
優秀な人も多かったようですが、どこか抜けた人も多かったらしい韓。
七雄の中で最弱と言われた所以は悪い意味での人材の豊かさにあったのかもしれませんね…。
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