関羽がそろばんの発明者というのはウソ?伝承の背景を考察してみた

2021年2月23日


 

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そろばんを叩く関羽

 

民間伝承によるとそろばんを発明したのは関羽(かんう)であると言われています。しかし、実際は関羽が生まれる以前からそろばんの原型になるものが使用されていたことから、この伝承は後世にできた作り話である可能性が高いです。

 

そろばんを打つ関羽

 

ただ、火のないところに煙は立たないということで、なぜ関羽とそろばんが関係するようになったのかそろばんと関羽信仰の歴史を探りながら、民間伝承が生まれた理由を考察していきたいと思います。

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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中国最古の計算ツール

三国志大学で勉強する劉備

 

中国最古の計算ツールと言われているのが籌算(ちゅうさん)です。「籌」という字は数を数える際に使用する竹製の棒を指し、これを布や板の上に置いて計算をしていました。後年には鉄製や玉製の籌もできるなど進化をしていきます。

 

籌算を使った計算方法は紀元前の戦国時代初期には存在していたと言われていて、四則演算はもちろん、0の概念やマイナスの計算、分数にも対応するなど汎用性の高さから元代から明代頃までメジャーな計算ツールとして活用されました。

 

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珠を使った計算ツールの誕生

春秋左氏伝を読む関羽

 

後漢時代の数学者・徐岳(じょがく)編纂(へんさん)し、北周時代の甄鸞(しんらん)が注釈を加えた書物「数術記遺(すうじゅつきい)」によると紀元前にはすでに14種類もの計算ツールがあったとされています。その中の一つに游珠算板(ゆうしゅざんばん)というものがあり、これは板の中に均等に溝を彫り、そこに珠を出し入れすることで計算をするというツールです。

 

比較的現在のそろばんとも近いものと言えるでしょう。他にも前述した籌算の籌を珠に変えて計算するなど、珠を用いた計算方法は古くから存在していました。なぜこれだけ複数の計算方法があったのかというと、ツールごとに計算できる桁数や持ち運びのしやすさが異なることから状況によって使い分けられていたようです。

 

まだ漢王朝で消耗してるの?

まだ漢王朝で消耗しているの

 

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そろばんは唐代にできた

西遊記はどうやって誕生したの

 

私たちに馴染みのあるそろばんができたのは唐代頃と考えられています。なぜなら唐代はかつてないほど商業が発展した時代であり、これまでの計算ツールでは不十分になったためです。

 

他にも北宋(ほくそう)時代の開封(かいほう)の様子を記した清明上河図(せいめいじょうがず)には、現代のそろばんに近いものが描かれているので、そろばんは唐代から北宋時代の間には存在していたと言えます。

 

宋代以降はそろばんがメジャーなツールとして広く利用されるようになり、南宋時代から元代へと時代が下るにつれて籌算は廃れていきました。ただ、完全になくなったわけではなく明代頃まで便利なツールとして利用されています。

 

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そろばんは富の象徴

宋銭 お金と紙幣

 

中国では古くからそろばんは富の象徴として考えられてきました。これは富を築いた商人が持っていることや、お金を計算する時に使用するものであることなどが理由ではないかと思われます。

 

近代では金色や鉄製のそろばんは「(そろばんを使っても)計算できないだけの富」という比喩となっていますし、支出を減らすことで新婚生活が安定するという意味で、女性の嫁入り道具の一つに数えられるようになっています。また、実用品としてではなく贈り物や金運上昇のアイテムとして家に飾れるようなデザイン性の高いオブジェクトも作られるなど、便利なツールから象徴的な物へとイメージが変化していきました。

 

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TK

TK

KOEIの「三國無双2」をきっかけに三国志にハマる。
それを機に社会科(主に歴史)の成績が向上。 もっと中国史を知ろうと中国語を学ぶために留学するが 後になって現代語と古語が違うことに気づく。


好きな歴史人物:
関羽、斎藤一、アレクサンドロス大王、鄭成功など

何か一言:
最近は正史をもとに当時の文化背景など多角的な面から 考察するのが面白いなと思ってます。 そういった記事で皆様に楽しんでもらえたら幸いです。

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