週刊ヤングジャンプに掲載され、二度も映画化されているキングダム。古代中国春秋戦国時代末期を舞台に中華統一を目指す秦王嬴政と、それを阻止しようとする戦国六国の熾烈な戦いが繰り広げられます。
このキングダムの主人公が李信なのですが、彼は実在の人物なのでしょうか?
実在するも謎が多い李信
キングダムの主人公李信は司馬遷が書いた史記の白起・王翦列伝や刺客列伝に記載がある実在の人物です。ただ記載があると言っても、年が若く勇壮であった事や幾つかの戦争で勝利した事と敗北した事が記載されているだけで多くの情報が不明です。
しかし、謎だらけなので漫画の主人公としては都合がよく、キングダムでは戦争孤児として金持ちの家の下僕として引き取られ、天下の大将軍を目指して剣の腕を磨き、幼馴染の死を切っ掛けに秦王嬴政と知り合い、戦乱の中に身を投じていく筋書きになっています。
キングダムは身分の底辺にいた李信が、仲間たちと多くの苦難を乗り越えて始皇帝の中華統一事業を助け、天下の大将軍になるというサクセスストーリーですが、実際の記録には李信が下僕の身分だったと記載された箇所はありません。
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興味深い人物・李信
李信に限らず史記には詳細が分からない人物は大勢います。
例えば、騰という将軍は内史という地位にあり、紀元前230年に戦国七雄の一国、韓を滅ぼす大手柄を立てていますが、以後は歴史から忽然と姿を消しています。しかし、李信については、それら史記の登場人物でも珍しい事が記載されています。
それは李信が戦国七雄の1つ、楚を滅ぼすために同僚の蒙恬と20万の大軍を率いて出撃し、楚の大将軍、項燕の追撃にあって大敗したのに、特に処罰されず、次には燕を攻めて、手柄を立てているからです。
これがどうして珍しいかというと、当時、戦争に大敗した将軍は処罰を恐れて敵国に亡命するか、戻ってきて処刑されるかの二者択一が多かったのです。
例えば、キングダムで李信より先に大将軍になった桓騎は、紀元前233年に趙を攻めて、李牧に敗れ、殺されたとも逃げたとも伝えられます。当時は、それが当たり前だったのですが、李信はお咎めなしで、さらに数年後に燕を攻める軍を任されている事から始皇帝に特別信頼されていたのではないかと考えられています。
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李信の実働期間8年
キングダムにおける李信の活躍は、紀元前247年、秦王嬴政が秦王の地位に就くために、異母弟と争う所から始まっています。現在の漫画では紀元前233年の趙攻めの最中なので漫画においては、14年間働いている事になります。
ちなみにキングダムは2006年の連載開始から16年継続しているので、漫画の経過時間よりも2年間長くなっています。しかし、史実の李信は紀元前233年の段階では影も形もありません。史実の李信の登場は紀元前229年、王翦の別動隊として趙に出征したのが最初です。
ここから李信は紀元前226年始皇帝暗殺未遂事件の報復として、北の燕に攻め込んで燕王を遼東半島に追いやる手柄を挙げ、紀元前225年には老齢で引退を願い出た王翦に代わり、同僚の蒙恬と楚の後略に向かい大敗。
それから4年間出て来ず、紀元前222年に、自らが遼東半島に追いやった燕王を再び攻めて滅ぼし、紀元前221年には王賁や蒙恬と戦国七雄、最後の一国、斉を滅ぼして中華を統一します。
めでたい事ですが、これを最後に李信の名前は登場しなくなるので史実の李信は実働期間8年間で歴史から姿を消す事になっています。同じく斉を滅ぼした王賁については、統一後の事績が追えますが李信は追えず、何が起きたのかは不明です。
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—熱き『キングダム』の原点がココに—
皇帝の先祖になった李信
このように謎が多い李信ですが、唐を建国した李淵が同じ李氏という理由で李信を先祖とし、系図を粉飾した事で死後800年以上が経過した後、履歴が創作される事になります。
それによると、李信の先祖は老子として知られる李耳であり、李信の祖父の李崇は秦の隴西郡守、南鄭公となり李信の父、李瑤は秦の南郡太守、狄道侯となったとして李信が秦の名門という事になっています。
さらに李信も秦の大将軍、隴西侯となり、李信の子の李超は漢の大将軍、漁陽太守となります。
その後も、李信の家系からは漢の前将軍で弓の名手李広が出たとされ、李広以下の記録は4世紀の五胡十六国時代の西涼の李暠に繋がり、唐を建国した李淵に連結されます。
この中で本当かも知れないのは、漢の前将軍李広の先祖が李信であるという事だけで、残りは、ほぼ全て創作であるようです。
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世界史ライターkawausoの独り言
今回はキングダムの主人公、李信が実在の人物であるかどうかについて述べてみました。実在する人物である李信ですが、実働8年間で歴史から姿を消し、その先祖は不明、子孫についても、前漢の李広が子孫らしいという事以外は不明でした。
しかし、謎だらけでありながら楚を相手に大敗しても許されるなど残忍で猜疑心が強い始皇帝に信頼されていた様子が見え、その事が漫画の主人公として創作意欲を搔き立てる元になったようです。
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