もし賈詡が孫権や劉備に仕えていたら？天下の奇才を使いこなせていたのは誰？

曹操そうそうの名だたる参謀の一人、賈詡かく。とつぜんですが、この賈詡かくという人物について、どのような印象をお持ちでしょうか？

官渡の戦いにて、烏巣への奇襲を提案したり、潼関の戦いにて、馬超ばちょう・韓遂の仲を裂く離間の計を献策し曹操そうそう側勝利のきっかけを作ったりと、曹操そうそうのキャリアにおける要所要所で重要な貢献をした人物であることは確かです。

ですがこの人物は、そもそもは董卓や李傕の帷幕にて、さんざん彼らの悪行に対しても参謀として協力していた人物。さらにその後、主君を変えて張繡の配下になっていた時には、曹操そうそうに対する反乱を献策し、曹昂と典韋の死亡の原因を作っています。

董卓や李傕の懐刀という過去をもち、曹操そうそうの重臣を死に追いやっておきながら、曹操そうそうのところで堂々と出世していた人物。
どことなく、気味悪さを感じさせないでしょうか？

監修者

kawauso 編集長（石原 昌光）

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ（田畑 雄貴）

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。

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同時代からもその策士としての才能が警戒されていた？

もちろん、賈詡かくのことが「いかがわしく」見えるのは現代人の基準から見たときであって、戦乱の時代である当時の状況下ではこういう人物はたくさんいたのだ、という意見はあるでしょう。

また曹操そうそうの部下になっていたことも、どちらかといえば、このような者も公平に重用していた曹操そうそうが偉いのだ、という言い方もできます。ただ、『正史三国志せいしさんごくし』を見るかぎり、賈詡かくの生き様に不安を抱くのは、何も現代人だけではないようです。彼は同時代人からも強く警戒されていた人物でした。

• 李傕りこうは賈詡かくを重用しつつも、人間的には「煙たがっていた」とされている

• 曹操そうそうの帷幕にいた時も、自分の智謀が警戒されすぎて身を亡ぼすことにならないよう、賈詡かくは普段は自宅の門を閉ざし、できるだけ人に会わないようにしていた（うっかり交友を広めすぎると、あらぬ嫌疑をかけられかねないくらい、曹操そうそう帷幕中で睨まれていた？）

お世辞にも、温かい人間関係の中で生きられるタイプの人物ではなかったようですし、本人のそのことを理解していたようです。このような人物を手なずけて使いこなしていた曹操そうそうが、やはり偉いのだ、ということになりそうです。ですが、ここでもう少し考えてみましょう。

曹操そうそう以外の、孫権そんけんや劉備りゅうびであれば、賈詡かくを使いこなせたのでしょうか？それとも、三国志の英雄たちの中でも、賈詡を使いこなせたのは曹操ただ一人だったのでしょうか？

もし賈詡が孫権の帷幕にいたら？

たとえば孫権そんけんの帷幕に入っていたら、どのようなことになっていたでしょう？

賈詡かくのことですから、赤壁せきへきの戦いにおいて、彼もまた孔明や周瑜と一緒に「逆転劇」を狙って工作を担当していたことでしょう。いや、むしろ、このような工作においては孔明や周瑜以上の才能を発揮したかもしれません。あの手この手で曹操そうそう軍に内部攪乱をしかけ、赤壁せきへきの勝利に貢献し、活き活きとしていたことでしょう。

ただし、周瑜や呂蒙りょもう、さらには陸遜のようなきまじめな人材が主導権を握る孫呉そんごでは、赤壁せきへきの戦いが終わったあと、相当に煙たがられたことでしょう。いやそもそも、肝心の孫権そんけんとソリが合わなかったのではないでしょうか。

というのも正史において孫権そんけんはある時、 「賈詡かくのような人物をあんなに出世させているのはよくないことだ。自分なら絶対、あの男をあんなに厚遇しない」という意味のことを言っているのです。肝心の孫権そんけんから睨まれる運命にある賈詡かく。呉では一時的な活躍はできても安定した出世はできそうにありません。

もし賈詡が劉備の帷幕にいたら？

それでは、劉備りゅうびのところにいたら？

劉備りゅうびのところにいたとしても、途中までの展開は孫堅のところにいるのと似ています。きっと赤壁せきへきの戦いで、水を得た魚のように大活躍することでしょう。その後の蜀攻めの際にも、さまざまな奇略を巡らせ、劉璋りゅうしょう軍を弱体化させる貢献をしたかもしれません。

ただし、賈詡かくにとっては残念なことですが、「きまじめ」な雰囲気である点では、蜀は呉よりも更に厳しい環境です。関羽がおり、諸葛亮がおり。この環境で、生粋の陰謀家気質、賈詡かくが自由に仕事をさせてもらえるとは思えません。

いやそもそも、孫権そんけん以上に、劉備りゅうびとソリが合うはずもありません。ただし、「問題を抱えているためなかなか使われないが、たまの大事な時に呼ばれる」者どうしとして、法正と仲良く生きる道を選べたかもしれませんが。

まとめ：曹操のもとにいるかそれともフリーランス軍師として悠々生きるのか？

こうしてみると、賈詡かくを使いこなせるのは、やはり曹操だけ。他の者は、賈詡かくの才能は認めつつも、けっきょく重用することはなく、日陰に追いやってしまったように思います。かつて重臣である典韋を殺したことすら水に流して、賈詡かくをフル活用し、見返りとして出世もさせてやった曹操は、やっぱり偉い人だったのです！

ただし、曹操の帷幕以外に、賈詡かくが生きる道がなかったかといえば、そうとも限りません。なにせ、そもそも董卓・李傕・張繡というクセのある主君の下を渡り歩いてきた男です。もともとは、一人の主君にずっと仕える気もなく、その時その時で好待遇をしてくれる主君に仕える、フリーランス気質の人物なのかもしれません。

三国志ライターYASHIROの独り言

そう考えると、彼には、もうひとつ生きる道があります。曹操・孫権そんけん・劉備りゅうび「以外」の、それぞれの時代の中小主君の下を渡り歩き、それぞれの場で好き放題にその陰謀家の才能を発揮し、ヤバくなったらまた主君を乗り換えてしまうという、悠々自適なプロのフリーランス人生です。

たとえば、馬超・劉璋・張魯あたりの面々を食い物にしていくわけです。この時代、野心家はいっぱいいるので、魏呉蜀の三国が成立した後でも、反乱や小君主の独立が発生したらそこに馳せ参じる、という生き方ができたでしょう。

これは見方によっては辛い人生ですが、しかし、賈詡かくのような才気が尖っている人物としては、本人にとっては楽しい人生になったかもしれず、むしろ正史通りの曹操の下に「飼われて」いた人生よりも、大活躍をしていた可能性すらあると思いますが、いかがでしょうか？

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