曹操の側室の杜夫人は、最初は秦宜禄の妻でした。秦宜禄が出張先で袁術によって無理矢理ほかの女性と結婚させられてしまい、留守宅できょとんとしていた時に戦乱によって曹操の捕虜になりました。
関羽は係争地にいた杜氏にかねてから目を付けており、自分の妻にしたいと曹操にお願いしていましたが、曹操は杜氏を関羽にやるのが惜しくなり自分の側室にしてしまいました(※)。袁術も関羽も曹操も勝手すぎますね。杜氏の人生をなんだと思ってるんでしょうか。しかしこんなのはまだ序の口。三国志のお話には、もっとひどい女さらいの話があるのです!
※正史三国志明帝紀の注に引く『魏氏春秋』より
出会いがしらに嫁ゲット――張飛
正史三国志夏侯淵伝の注に引用されている『魏略』にこんな話があります。
建安五年(西暦200年)、夏侯覇のいとこで十三、四歳の女子が
地元で薪採りをしていたところ、張飛に捕まった。
張飛はその子が良家の娘であることを知り、自分の妻とした。
娘が生まれ、劉禅の皇后となった。
「張飛に捕まった」の部分、原文では「為張飛所得(張飛の得る所となる)」となっています。薪採り中の十代前半の女の子をいきなりゲットしちゃう張飛。そして良家の娘と知り、「うほっ、逆玉の輿!」とばかりに嫁にしてしまう張飛。さらに、生まれた子供を皇后にしたてて外戚におさまるなんて、張飛もなかなか隅に置けませんね。
ノリで花嫁泥棒――曹操と袁紹
『世説新語』仮譎第二十七にこんな話があります。
曹操は若い頃いつも袁紹とつるんでやんちゃをしていた。
よそで結婚式があるのを見かけ、その家の庭に侵入し、夜になるとこう叫んだ。
「どろぼうだ!」
会場にいた人々が様子を見に出てきたところで曹操は室内に入り、
刀を抜いて新婦を脅し、袁紹と一緒に新婦を連れ出した。
道を誤って荊の中に落ち、袁紹が動けなくなると、曹操は大声でこう叫んだ。
「どろぼうはここにいるぞ!」
この声にあわてた勢いで袁紹は荊を抜け出すことができ、二人とも逃げおおせた。
たまたま見かけた結婚式に忍び込んで花嫁泥棒をするなんて、どんだけ無軌道なんですか。ぷんすかぷんすか。(過去記事「世説新語に書かれている曹操と袁紹の花嫁略奪がシュールすぎ(笑)」のようにもとから新婦と面識があったという設定なら理解できますが)
美人姉妹を舟で誘拐――孫策と周瑜
北方謙三さんの小説『三国志』には、孫策と周瑜が街でたまたま見かけて気に入った大喬・小喬の姉妹を舟で誘拐して妻にする話があります。なぜそんなことになったかというと、家柄ではなく男として彼女たちに選んでもらいたかったからのようです。周瑜はこう言っています。
「俺は、孫家の当主と重臣が、姉妹を嫁に貰いに来た、などというかたちはいやだな。孫郎(孫家の若者)と言えば、靡かぬ女はいないだろうが」そして結論「攫おう」「なんだと?」と問い返す孫策に、周瑜はこう答えました。
「気持は、あとでわかって貰えばいい。とにかく、青と黄色を攫ってしまうのだ」青と黄色というのは、以前孫策たちが姉妹を見た時に姉妹が着ていた服の色です。その時孫策は「俺は、青い着物を着た方だ」と言っていました。ワイルドですね。定食屋で「俺はカツカレーだ」とでも言うような調子です。
姉妹を攫うことに決めた二人は十人のならず者を金で雇い、自分たちは川岸に付けた舟の上でスタンバイ。ならず者たちに姉妹を襲わせて、「道は危ない。舟のほうが安全です。こちらに移りなさい」と姉妹に呼びかけ、彼女たちが乗り込んだところで舟を出し、逃げ出せない状況の中で求婚しました。
こうして出来事だけを抜き出してしまうとヒャッハーな感じがしますが、小説をちゃんと読めば孫策たちのいちずさが伝わってくるエピソードであります。
三国志ライター よかミカンの独り言
北方謙三さんの『三国志』は現代の小説ですからさておき、『魏略』と『世説新語』は魏晋南北朝時代の書物ですから、三国志の時代には女さらいということは珍しくなかったのかな、と思わされますね。後漢末は流民も多かったですから、どこで誰がどんなことになっていても「ま、乱世だし」で片付けられていたのかもしれません。
なにげない日常を過ごしている女性の目の前に、ある日突然男が現われて「あんたをさらいに来た」っていうシチュエーションって、どうなんでしょうかね?日常に飽き飽きしていたら喜んでさらわれるかもしれませんが、そこそこ満足して過ごしている場合には、それを邪魔されたら迷惑なんじゃないでしょうか。また、さらいに来た男性が好みに合えばいいですが、全然好みじゃない感じの男性だったら悲劇です。
テレビで女性向け恋愛ゲームのコマーシャルなんかを見るたびに、もしもこの相手が全然好みじゃない男性だったら自分はどう感じるかな、と想像してみることは、悪趣味な私の数少ない趣味の一つです。
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