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劉備の巧妙な演出!正史三国志の[裏話]

2024年9月1日


 

 

三国志って、いろいろありすぎてよく分りません。いったい何を読んだらお友達に「三国志を読んだよー!」って言えるんでしょうか。歴史書の正史三国志は読まなくても、三国志を読んだ!って言えそうです。

 

北方謙三 三国志を読む桃園三兄弟 劉備、関羽、張飛

 

でも、人気漫画の蒼天航路(そうてんこうろ)北方謙三(きたかたけんぞう)さんの小説の三国志を読んでも、それだけで三国志を読んだとは言えない気が。(ひとの三国志談義の内容が分らない時がありそうです)吉川英治(よしかわえいじ)さんの小説の三国志や、横山光輝(よこやまみつてる)さんの漫画の三国志なら、三国志を読んだことになりそうですね。吉川英治さんや横山光輝さんの三国志の元ネタは中国の白話(はくわ)小説の三国志通俗演義(さんごくしつうぞくえんぎ))(以下、三国志演義と呼びます)ですが、そこでは劉備(りゅうび)ばっかりえこひいきされています。

 

悪役の曹操、正義の味方の劉備

 

それは三国志演義が成立した頃に(かん)民族が北方の異民族の圧力を受けていたから北の曹操(そうそう)を悪者にして南の劉備をひいきしたんだよ、ってよく言われますが、それ本当かな。劉備さんは大元ネタの正史三国志の頃からえこひいきされていませんかね。

 

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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少女向けアニメの王子様のような劉備

劉備王子様

 

正史三国志の劉備の伝(先主(せんしゅ)伝)の冒頭を見てみましょう。

 

先主は姓を劉、(いみな)を備、(あざな)玄徳(げんとく)といい、

琢郡琢県(たくぐんたくけん)の人で、前漢(ぜんかん)(景帝(けいてい)の子、

中山靖王劉勝(ちゅうざんせいおう・りゅうしょう)の後裔である。

(中略)祖父は劉雄(りゅうゆう)、父は劉弘(りゅうこう)といい、代々州郡につかえた。

劉雄は孝廉(こうれん)に推挙され、官位は東郡(とうぐん)(はん)の令にまでなった。

先主は幼くして父を失ったが、母とともにわらじを売ったりむしろを編んだりして、生計をたてた。

 

なんだか、少女向けアニメの王子様のようですね。今は貧しい暮らしをしているけれど、実は王様の血をひいているんだ。というパターン。貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)ってやつです。今はカエルだけどお姫様にキスされたら美しい王子様に変身しそうです。まあ、これは実際にそうだと伝えられているからそうだと記録しただけなんでしょうから、これだけで劉備がひいきされていると言うことはできません。

 

 

劉備と比べて血筋が劣る曹操

 

三国志演義で劉備の敵役になっている曹操が正史三国志でどのように描かれているか、正史三国志の曹操の伝(武帝紀(ぶていき))を見てみましょう。

 

太祖武皇帝(たいそぶこうてい)は、沛国譙県(はいこくしょうけん)の人である。

姓は曹、(いみな)は操、(あざな)孟徳(もうとく)という。

前漢の時代宰相をつとめた曹参(そうさん)(?-前一九〇)の子孫である。

桓帝(かんてい)の時代(一四六-一六七)、曹騰(そうとう)

中常侍(ちゅうじょうじ)大長秋(だいちょうしゅう)となり、

費亭侯(ひていこう)に封ぜられた。

養子の曹嵩(そうすう)が爵位をつぎ、大尉の官にまで出世したが、

彼の出自については明確にできない。曹嵩は太祖を生んだ。

 

曹操

 

ううむ、劉備は漢の王室の末裔、曹操は漢に仕えた宰相の家の末裔。曹操のほうが格下だと言いたげです。しかも、漢の臣下筋の家柄であるのに後に漢の帝をないがしろにする曹氏一族め悪いやつら、と言いたげです。

 

周瑜、孔明、劉備、曹操 それぞれの列伝・正史三国志(本)書類

 

しかしまあ、これも、実際にそうだと伝えられているからそうだと記録しただけなんでしょうから、これだけで劉備がひいきされているとか曹操が不当に貶められていると言うことはできません。気になるのは、曹操の父親の曹嵩の出自についてです。

 

 

 

曹操の父親の出自は、わざとぼかされた?

 

曹操の祖父の曹騰という人は宦官(かんがん)(去勢を施された官吏)であり、子ができませんから、家を存続させるために養子を迎え入れました。それが曹操の父親の曹嵩ですが、正史三国志には「出自については明確にできない」とあります。

 

曹操 ポイント

 

劉備サマは貴いお血筋だが曹操なんてどこの馬の骨だか分らないんだ、と言いたげです。まあ、これも、実際に出自が不明だったからそう書いただけでしょ、と思いがちですが、本当に不明だったから書けなかったってわけじゃないんじゃないの、と私は疑っております。正史三国志の注釈にこんな一文があるからです。

 

 

()の人の著作である『曹瞞伝(そうまんでん)』と

郭頒(かくはん)の『世語(せご)』ではともにいう。曹嵩は夏侯(かこう)氏の子で、

夏侯惇(かこうとん)の叔父である。太祖は夏侯惇に対して従父兄弟(いとこ)に当る。

 

正史三国志を執筆する陳寿

 

『世語(魏晋(ぎしん)世語)』の著者郭頒は正史三国志の著者陳寿(ちんじゅ)と同じ西晋(せいしん)の人ですから、陳寿もやる気を出せば同じ情報を仕入れることができたんじゃないでしょうか。呉の人の著作にも郭頒の著作にも同じ事が書かれているということは、けっこう知られていた情報なんじゃないでしょうか。

 

晋の陳寿

 

もしかして陳寿は知っててわざと書かなかったんじゃないでしょうか。曹操をどこの馬の骨とも分らない人として劉備との格の違いを歴然とさせるために。なんの根拠もありませんけれども。

 

 

ただ者ではなさそうな書きかたをされる劉備

 

曹操の伝(武帝紀)では、出自の話のあとにはさっそく「太祖は若年より機知があり」と性格の説明があって、その後の働きの様子が記されていますが、劉備の伝では出自のあとにヘンテコエピソードが挿入されています。

 

劉備の家のかたすみある桑の木が貴人の乗る車の車蓋(しゃがい)に似ていて「(この家からは)きっと貴人がでるであろう」と予言されたとか、劉備は手を下げると膝にまで届き、ふり返ると自分の耳を見ることができたとか。

 

占い師みたいな人から「この人は将来偉くなります」って言われてから偉くなったという伝説は、たいていは実際に偉くなってしまった人について後付けで付与されるエピソードです。皇帝になった劉備が調子に乗って「じつは俺、子供の頃さぁ」と作り話でもしていたのが人々に語り伝えられたのを、陳寿が「作り話っぺえな」と思いながらしれっと正史に記述したんじゃないでしょうか。

 

劉備の腕や耳が長すぎる(?)という人間離れした容姿の描写も、ただ者じゃないことを示す作り話なんじゃないでしょうか(実際に若干長め(?)だったのかもしれませんが)。中国古代神話の登場人物って、とにかくすっごい神だった、っていうイメージが膨らむにつれてどんどん妖怪じみた容姿の設定が後付けされていますが、正史三国志が劉備のことを異形(いぎょう)(そう)の持ち主であったように記すのも、神話と同様のパターンでしょう。

 

とにかくただ者じゃないすごい人だったんだ、って言いたいために、陳寿は書けることは全部書いたのではないでしょうか。陳寿は(しょく)の遺臣ですから、蜀の初代皇帝の劉備を持ち上げたくなるのは自然なことです。

 

 

三国志ライター よかミカンの独り言

 

陳寿は世に伝えられている情報を一生懸命集めて三国志を記したのだろうと思います。玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の情報のなかから、どれを採用してどれを却下するかを選ぶ時に、劉備のことをよく書きたいという気持ちが働いたのではないでしょうか。

 

後世、三国志演義で劉備がいい人で曹操が悪い人というように書かれるようになった種は、正史の三国志の時点ですでにあったと思います。

 

和訳引用元:ちくま学芸文庫 正史三国志

 

 

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よかミカン

よかミカン

三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。 個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。 三国志小説『ショッケンひにほゆ』 【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】 何か一言: 皆様にたくさん三国志を読んで頂きたいという思いから わざとうさんくさい記事ばかりを書いています。 妄想は妄想、偏見は偏見、とはっきり分かるように書くことが私の良心です。 読んで下さった方が こんなわけないだろうと思ってつい三国志を読み返してしまうような記事を書きたいです!

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