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【はじめての孫子】第3回:兵とは国の大事なり

2015年8月28日


 

兵士

 

中国の代表的な兵法書『孫子』を解説する「はじめての孫子」第3回目。

いよいよ、『孫子』本文に入っていきます。

今回は最初の章、「計篇」です。

 

前回記事:【はじめての孫子】第2回:どうして『孫子』はビジネスマン必携の書と言われるの?

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監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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「計篇」の要点

現実主義曹操

 

・戦争は国家の一大事であるから、その開戦については慎重になるべきである。

・戦争を始める前に考慮すべき5つの基本事項がある。

・敵と味方の優劣を判断するには7つのポイントをチェックすべし。

・戦場では騙し合いを制する臨機応変さが重要になってくる。

 

 

 

戦争は国家の命運を左右する重大事であるということ

抜き出た曹操

“孫子いわく

兵とは国の大事なり

死生の地、存亡の道

察せざるべからざるなり”

 

『孫子』本文はこのように始まっています。

これを現代文に訳すとこのようになります。

 

“孫子はこう言われた。

戦争は国家の命運を左右する重大事である。

だから、生と死を分ける戦場や、存亡を分ける進路を選択するにあたっては

慎重に良く考えなければならない”

 

戦争というのは国家の存亡に関わる重大な危機なのだから、

戦うにあたってはくれぐれも良く考え、いかにして勝つか、その方策を練らなければいけない。

 

この冒頭の一文こそが、『孫子』という兵法書を貫くテーマとなっています。

 

戦争するにあたって考えるべき5つの基本事項とは?

三国時代の兵器(魏軍合体ロボ) 曹操

 

続いて、孫子は戦争をするにあたり、

敵と味方の優劣を見定めるのに必要な5つの基本事項を上げて説明しています。

 

第一の事項は「道」です。

「道」とは民衆の支持を得るための内政の正しさのことです。

内政が正しく行われ、民衆が日頃から君主を支持していれば、

いざ戦争が起こったときも民衆は君主の命令に従うだろう……孫子はそう説明しています。

 

第二の事項は「天」です。

「天」とは季節や気温など、天候や天文の動きや働きのことを意味します。

いかに「天」に則って戦う時期を決めるかが重要になってくるわけです。

 

第三の事項は「地」です。

「天」と対をなす「地」とは国や戦場の広さや距離の遠近、

地形の高低差や険しさなどを意味します。

地勢を見極め、死地に軍を置かないことが重要ということですね。

 

第四の事項は「将」です。

呼んで字のごとく、これは軍を指揮するリーダー=将軍の資質のことです。

戦況を正しく判断できる頭脳、部下を思いやる心と律する厳格さ、

どんな状況に直面してもくじけることのない勇気や精神力の強さなど、

兵の信頼と忠誠を得るに必要な資質を将軍が持っているかどうかを考えなければならない、

ということです。

 

第五の事項は「法」です。

軍を動かすためには、それを指揮する将軍以外にも必要不可欠なものがあります。

それが「法」です。将軍の指揮権や部隊の配置、

軍を監督する官史の職権を明確に定めた軍法がなければ、

軍を命令通りに動かすことはできません。

 

以上、5つの基本事項は、

およそ軍を指揮するものなら誰でもある程度理解している事柄ではあるけど極めて重要であり、

熟知しているものは勝利し、

なんとなく知っているだけのものは負ける……孫子はそう説いています。

 

具体的に敵と味方の優劣を比較検討するための七計

みんなで魏志倭人伝(夏侯惇、典偉、夏侯淵、許長、張遼、曹操)

戦争を起こすにあたって、まず考慮すべき5つの基本事項を上げた孫子は、

次に敵と味方の優劣を判断するための7つのチェックポイント=七計画を挙げます。

 

1:君主はどちらが民衆の支持を得ているか

2:将軍の能力はどちらが優れているか

3:天と地の利はどちらにあるか

4:軍法はどちらが徹底しているか

5:兵力(数)はどちらが勝っているか

6:どちらの方が兵士の訓練が行き届いているか

7:兵士への賞罰はどちらがしっかりと行われているか

 

この七つのポイントをチェックすることで、

実際に戦う前に勝敗の行方を予測することができると、孫子は説いています。

 

ただし、いくら事前の検討で勝利できると判断できても、

実際の勝敗にはもうひとつ、重要な要素が絡んできます。

 

それは将軍が君主の指揮に従う人間であるかどうか、ということです。

将軍が指揮に従う人物であれば彼を留任させ、

従わないような者であれば辞めさせるべきであると、孫子は説いています。

 

孫子の教えを守れなかった孔明は泣いて馬謖を斬る

諸葛孔明

ここで思い出されるのが、諸葛孔明による第一次北伐における『街亭の戦い』です。

 

孔明は部下である馬謖に軍の拠点である街亭を守備するように命じますが、

その際、水路を守る必要があるから、背後の山の上には布陣しないよう指示します。

 

しかし、馬謖は孔明の指示より自分の判断を優先させ、

水路を守ることより高低差的に有利である(と彼本人は思い込んだ)山の上に布陣してしまいます。

 

蜀軍が山の上に布陣していることを知った魏の将軍の張郃は好機とばかり、水路を押さえてしまいます。

水源を断たれた馬謖の軍は喉の乾きに苦しみ士気が低下、

その隙を突かれて攻撃を受け、結局敗走してしまいます。

拠点を失った孔明も、本軍を撤退させざるを得なくなってしまいました。

 

劉備から生前「馬謖は口先だけの男だから信頼してはいけない」と忠告されていた孔明でしたが、

彼は馬謖の才能を評価し、馬謖が自分の指示を守らない人物であることを見落としてしまいました。

 

もし孔明がもう少し孫子の教えに忠実に従い、

馬謖という人物をちゃんと見定めていれば、

あるいは街亭の戦いの敗北はなかったかもしれません。

 

関連記事:三国時代の故事成語『白眉』と『泣いて馬謖を斬る』

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兵とは詭道なり

孔明 軍師

 

「計篇」の最後に、孫子はこう言っています。

 

“兵とは詭道なり”

 

戦争とは、敵をだますことである、と。

だから孫子は自軍が有利であることを敵に隠し、

敵にさも自軍の方が優位にあるように思い込ませることが重要だと説いています。

 

敵に対しては自軍の情報を隠し、

相手が思っていることを手球に取って混乱させることの重要性(敵が物資を欲しがっていたら、

物資を餌にして敵の戦力を奪う、敵が怒り狂っていたら、

更に挑発して敵を混乱させる等)を説き、

それを敵の情勢に応じて臨機応変に繰り出す柔軟性が必要であるとしています。

 

さぁて、次回の孫子さんは?

尹夫人 曹操 2

 

さて、次回は孫子第2章「作戦篇」です。

なぜ、用兵にはスピードが重要なのか?

そしてなぜ兵站(物資輸送)を重視しなければならないのか?

 

次回もぜひ、お付き合いください。

 

次回記事:【はじめての孫子】第4回:兵は勝つことを貴ぶ。久しきを貴ばず

 

はじめての孫子の兵法

 

 

 

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石川克世

石川克世

三国志にハマったのは、高校時代に吉川英治の小説を読んだことがきっかけでした。最初のうちは蜀(特に関羽雲長)のファンでしたが、次第に曹操孟徳に入れ込むように。 三国志ばかりではなく、春秋戦国時代に興味を持って海音寺潮五郎の小説『孫子』を読んだり、 兵法書(『孫子』や『六韜』)や諸子百家(老荘の思想)などにも無節操に手を出しました。 好きな歴史人物: 曹操孟徳 織田信長 何か一言: 温故知新。 過去を知ることは、個人や国家の別なく、 現在を知り、そして未来を知ることであると思います。

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