魏、呉、蜀、三国志の国々にはそれぞれ名将たちがひしめき合っています。
それも後の方になってくると戦死や病死などで姿を消していくのが悲しい限りで、特に夷陵の戦いの前後は世代交代と言わんばかりに多くの武将、特に蜀の武将は姿を消していきます。
その武将たちが姿を消した後も蜀を支えた武将、魏延。彼が夷陵の戦いの時に何をしていたのか、そして夷陵の戦いがどう魏延に影響を与えたのかを今回は話してみましょう。
夷陵の戦いの前後、魏延はどんな位置にいた?
魏延は劉備の漢中王を名乗りだした219年頃に、漢中の地を守るべく督漢中、鎮遠将軍、漢中太守として抜擢されました。
この責務は簡単に言えば超抜擢、殆どの人間がこの責任ある立場には劉備の義兄弟である張飛が任命されるだろうと思っていたので、重臣たちは驚いたそうです。
これは別の言い方をすれば魏延が劉備からとても信頼されていたという証明であり、魏延自身もまた劉備に深い忠誠を誓ってこの任務を全うするように全力を注ぎます。そして漢中を任せられた魏延は夷陵の戦いには参加していません。その夷陵の戦いは魏延の立場を大きく変えることとなりました。
夷陵の戦いから更に役職が変わる
222年、夷陵の戦いが起こり、劉備は大敗北。
この時に当時、鎮北将軍に付いていた黄権は魏に下る結果となりました。この立場に次に付けられたのが魏延です。これは立場だけを見ると、更に魏延は昇進したと言えます。
そしてこの時、多くの武将たちが亡くなっていました。夷陵の戦いで戦死した武将たちもそうですが、そもそもその夷陵の戦いに至るまでに関羽や張飛、馬超や黄忠と言った数々の名将たちはこの世を去っています。その中で実戦経験も多く、武勇に優れていた魏延は数少ない蜀を支えていく武将であったと思います。
間違いなく蜀の中核だった魏延
劉備の死後、蜀の全権は諸葛亮に移行しましたが、それでも魏延は重用されました。
その後も魏延は魏を相手に戦い、そして戦果を挙げて昇進されています。三国志演技ではやたらと諸葛亮との不和が演出されていますが、正史ではそこまで対立している訳ではないのです。
ただ二人が対立していた件があることは、正史でも読み取ることができます。魏との戦いの中で魏延は自分が別動隊を指揮して戦うことを提案しますが、諸葛亮はこれを許しませんでした。
これは魏延にとってかなり不満であったようで「丞相の下では自分の力が振えない」と零しています。しかし対立して兵を引いたりすることもなく、その後は諸葛亮の指示に従っています。
ここの判断は人によって解釈が違うと思います。言ってしまえば魏延は奇策、諸葛亮は正面からの真っ向勝負で魏と戦おうという判断です。もちろん魏から見れば蜀は小勢、弱い者が戦うには真っ向作戦では勝てません、奇策というのは力で劣っているからこそ行うのです。
ですから魏延がイチかバチか奇策をやろう、というのはそこまで考え無しの戦いではないのですよね。しかし諸葛亮は奇策が苦手というか、同じく軍師であった法正や龐統まで奇策の面では優れていません。
間違いなく優秀な戦術家ではありましたが、その方面には特化してはいなかったのです。だからこそ諸葛亮は奇策を取り入れなかったのですが、ここには夷陵の戦いが背景にあると筆者は思います。
夷陵の戦いが二人の間にヒビを入れたのか?
夷陵の戦いには、魏延は出陣してはいません。
多大なる被害を出してしまった負け戦、とは分かっていても、それを実際に体験した者とそうでない者には意識の差が出ます。対して諸葛亮もまた、夷陵の戦いには出陣してはいません。
しかし諸葛亮は劉備から留守の蜀を預かっていたので、どのような被害がどれくらい出て、戦がどう動いて、消費したものがこれほどで…と、政治家の観点から被害の大きさを窺い知ることができました。
あの大きさの敗北をもう一度でもしてしまえば、蜀はもう二度と立ち直れることはないでしょう。それが諸葛亮に安全策を取らせてしまい、そうして魏延から見ればそれは臆病な建策に見えてしまったのではないでしょうか。そしてその考えと認識違いは徐々に深いヒビとなって、後々まで尾を引いてしまうこととなるのです。
三国志ライター センの独り言
夷陵の戦いに、魏延の名はありません。それでも、夷陵の戦いは大きく蜀の運命を、そして魏延の運命をも変えた戦いであったのではないでしょうか。
魏延までもが夷陵の戦いで失われなかったことは、蜀にとって幸運だったことでしょう。しかし魏延から見れば、果たしてどうであったのか…それは憶測するしかない、過去に生きていた人たちにしか分からない答えだと思いました。魏延と、そして夷陵の戦いにどんな関係があったか。バタフライエフェクトを想像するのも、歴史の楽しみ方の一つではないかと思います。
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