三国志の群雄の一人、袁術。一時はかなりの勢力圏を築くものの、唐突に自ら「皇帝」を名乗って、「仲」という王朝を勝手に立ち上げるという珍妙な行動をとり、
それを諌めた家臣を冷遇したために続々と配下に離反され、その勢力は瓦解し、落ち延びる中でゆきだおれのような最期を遂げたとされています。
ですが今回はこの袁術のことをよく考えてみましょう。彼の「皇帝僭称」は、本当に無謀だったのでしょうか?
彼が皇帝として群雄達にも認められる道はなかったのでしょうか?
この記事の目次
『正史』と『演義』でやや異なる袁術「皇帝への道」の背景
まずは、袁術が皇帝を名乗った背景を整理してみましょう。
『正史三国志』によると、袁術はいちおう、時代の趨勢を見て「今なら皇帝を名乗れる」と判断したことがほのめかされています。それは、董卓の死とその後の混乱の中、献帝がほうほうの体で都を脱出した時でした。袁術なりに「後漢王朝はこれで滅亡したも同然」と考えたようです。
実際にはこの後、献帝は曹操に保護されて生き永らえるわけですが、都から献帝が落ちた以上、もはや帝位は空席、と袁術なりに考えたのでしょう。そうであったとしても、なぜ袁術自身が皇帝を名乗ってよいのかの意味はわかりませんが。
ただし『三国志演義』では、もうひとつ、袁術を後押しした動機が付け加えられています。
袁術が、孫策から「玉璽」を譲り受けたから、と説明されているのです。皇帝の象徴である重要アイテムが、戦乱の中で孫堅の手に落ち、そこから孫策を経由して袁術の手に。
「これがあればわしが皇帝を名乗れる」と袁術は考えたようです。もちろんこの場合も、「皇帝だけが持つことを赦されているアイテムを偶然手に入れた」というだけのことであり、常識から考えると袁術の行動にはやはり飛躍を感じますが。
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袁術は袁術なりに合理的に計算をしていた?
ただし、今回はあくまで袁術に寄り添いたいと思います。
背景としてはわかりやすさの為に『演義』の解釈を採用し、偶然とはいえ「玉璽」というアイテムが手に入っている状態だとしましょう。もしかすると袁術は、こう考えたのかもしれません。
「後漢王朝は事実上滅んだ!これからは各地の群雄達が、続々と勝手に皇帝を僭称する時代がやってくる!どうせ僭称者が無数に現れるとわかっているなら、わしが玉璽の威光をもって皇帝をさっさと名乗り一番手になっておこう」と。
「皇帝僭称を考える奴はわし一人ではあるまい」、これはいちおう、合理的な考え方です。もしこう考えたのだとすると、袁術にとっての最大の誤算は、献帝が曹操の下で生き延びてしまったことでしょう!曹操が余計なことをしてくれたせいで、次の時代への先手を打ったつもりが、ただのフライングに!
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ここから袁術が生き延びられるたったひとつの道とは!
しかし!諦めてはいけません!展開が史実通りだったとしても、袁術がたったひとつ、大逆転で「皇帝」を公式に名乗ることができる秘策があり得るのです。袁術の状況は以下の通りでした。
・都から献帝が落ちていったというニュースを受けて、フライングで皇帝を名乗ってしまった
・ところが献帝は生きているとわかった
・しかも曹操がその献帝を利用しようと企んでいる
それがわかった時点で、唯一、袁術が生き延びる道は・・・そうです!あえて火中に飛び込み、曹操に「献帝よりもわしのほうが皇帝として担ぐに向いている」と猛烈にアピールするのです!
特に、賈詡あたりの大局観のエグい策士と手を組めば、賈詡から曹操に、「後漢王朝を引きずっている献帝よりも、袁術というあの単細胞のほうが操りやすいですよ」と進言してもらえるかもしれません!
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曹操に保護してもらうという秘策で皇帝になった袁術の運命は?
玉璽をもって曹操の元に逃げ込み、曹操の保護下で正式に皇帝として扱われることになった袁術。これは群雄達も考え込んでしまうのでは?
まして曹操が袁術を抱き込んだまま、数年後に官渡の戦いに勝利すれば、「この後は曹操の時代になる。ならば、曹操が皇帝として迎えている袁術を我らも皇帝として認めるか」と賛同者も出てくるでしょう。献帝になりかわり曹操に「かつがれる」皇帝になった袁術!
彼が本当にやりたかった、酒池肉林の贅沢生活も、やりたい放題です。袁術は数年間、曹操の傀儡として、人生の春を楽しむでしょう。
ただし・・・このシナリオには、恐るべき運命が待っています。
ある日、賈詡がやってきて、こういうでしょう。「袁術陛下。実は曹操殿が、あなたに頼みがあると。前王朝の生き残りである献帝とその家族が、まだ中国大陸のどこかに落ち延びて生きているようです。献帝とその一家を暗殺してくれませんか?」
「うむ。確かにわしも、前の帝が生きていることは気がかりじゃ。よし、紀霊あたりに命じ暗殺しよう。いやあ賈詡殿、いつもながら的確なアドバイス、ありがたいぞ」
そして袁術の手のものが献帝を暗殺した途端、曹操が天下に向かってこう言うことでしょう。「私が正式な皇帝として迎え入れた袁術は、前王朝の皇族を暗殺するという卑劣なことをした!おまけに私のところにいても毎日、酒池肉林の贅沢三昧!このような者を皇帝としてこれ以上は崇めることはできぬ!」
「いや!献帝を殺せというのはあなたのさしがね・・・!」と袁術がいまさらマッサオになっても手遅れです。
さんざん利用された袁術は、曹操と賈詡にコロリと態度を変えられ、処刑されて玉璽を奪われ、結果としては史実よりも曹一族の「皇位簒奪」を速めるだけの結果に終わるでしょう。
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三国志ライターYASHIROの独り言
袁術が皇帝として認められたものの、実際には曹操にさんざん使われた上で、よい頃合いに殺される運命。
しかし、このシナリオならば袁術は史実よりも数年長生きできるだけでなく、皇帝としての贅沢生活を、数年は、楽しむことができるのです!いっそのこと、このほうが袁術本人としては史実よりも幸せなのかもしれない、などと考えましたが、さあ袁術ファンの皆様、このシナリオはいかがでしょう?
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