今回紹介したい人物ですが……皆様、「甄姫」という人物についてご存知でしょうか?人物というよりも、キャラクター、と言った方がよろしいかもしれませんね。
甄姫、というのはどんな人物かというと、三國無双という三国志演義をモチーフとしたゲームに出てくるキャラクターであり、その元ネタとなったのは、三国志における「甄夫人」と呼ばれる人物です。今回はこの甄姫と甄夫人について知って頂くだけでなく、歴史において三国志がどのような見方をされてきたかも皆様に知って頂ければと思います。
この記事の目次
甄姫の読み方、名前の由来や性格やキャラクター
さて甄姫とは「しんき」と読みます。これは元ネタとなった人物が甄夫人と呼ばれていることから、そして暴論のようですが、ゲームキャラクターとして登場した彼女には、「夫人」ではなく「姫」、つまり一個人の女性としての役割を持たせたかったからではないかと推測しています。何せ、元のゲームでは甄姫が登場した時に夫の曹丕はキャラクター化していませんでしたからね。
さてこの甄姫、甄夫人は歴史書、「三国志」において「文昭皇后甄氏」と呼ばれる人物です。彼女の名前は伝わっておらず、甄家の娘であったことが知られているのみであり、兄弟姉妹の名前は残っていますが、彼女の名前は伝わっていません。
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因みに甄夫人は幼い頃から聡明で真面目で、更に慎み深い女性として伝わっている一方で、キャラクターとしての甄姫は登場当初は高飛車でやや高慢な女性という一面が強調されていました。これもまた甄姫自体のキャラクターの方向性が決まってなかったのか、後々、甄姫は高位の女性としての気位の高さはあるものの、寧ろその本心は夫を深く愛する慎み深い女性としての一面も深掘りされてきています。
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甄姫の作品における描かれ方と主な特徴 ファン文化とコスプレ人気?
さて、前述したように、甄姫という甄夫人をベースとしたキャラクターは、三国無双というシリーズを通して非常に変化してきています。途中で曹丕がプレイアブル化したことも大きな理由の一つでもあるのでしょうね。他のキャラクターでも言えることですが、特に最新版であるoriginではまだ一人の娘であった頃の甄姫の姿も描かれていて、筆者もファンの一人として大変面白く思いました。
また元の甄夫人が三国志演義でも「玉肌花貌」、その肌は玉の如く、美貌は花の如し……と称えられる美人であることからかなりの美しい女性として、シリーズ毎に麗しい姿にファンをドキドキとさせてくれました。ヘアスタイルがシリーズを通して毎回変化しているのは、伝承にある「蛇を観察して毎日奇抜な髪形にしていた」という一件からでしょうか?
そう思うよファッションスタイルを作り出した女性とも見れますね。その豪奢で優美な目を引く美しさからか、大変美麗なコスプレを披露して下さっているファンも多く見かけます。余談ですが、筆者はボイスがときめくほど好きです、ええ、ホントにすばらしいです。どぼんです。
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三国志と甄姫の関わり、甄夫人という人物
ここで少し、甄姫の元ネタとされたと思われる甄夫人についてお話ししましょう。甄夫人は元々良い家柄の娘で、前述したように聡明な娘でもありました。彼女は袁紹の次男、袁煕の妻となりましたが、その後、曹操が袁紹を打ち破った際に屋敷に乗り込んだ曹丕がその美貌を見初めて自らの妻としたのです。
彼女は曹丕の寵愛の元、後の明帝である曹叡を産むのですが……曹丕の寵愛は薄れ、後の皇后とされたのは妾であった郭皇后の方でした。甄夫人はこれに不満を述べたために、曹丕の不興をかって死を賜った……とされています。これを読んでいくと甄姫としての人物像しか知らない人は大分ショックなのではないでしょうか。逸話や魏略などではこちらの郭皇后は強かで欲深い女性で、曹丕の寵愛を良いことにそそのかし、甄夫人を死に追いやった悪女のように描かれがちですが、
歴書に書かれる郭皇后は寧ろ控えめで頭が良く、曹丕の勘気から他の愛妾たちを庇っていたために慕われていたなど、かなり慎ましやかな女性の姿を伺いさせます。この郭皇后については後程、また触れたいと思います。
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甄夫人の最期とそこからの影響は?
さて……甄夫人の方は、曹丕に見初めながらもその寵愛は薄れ、果てに詩を賜るという最期を迎えます。しかもその皇后には別の女性……歴史を顧みて珍しくはないとも言えますが、一人の女性として考えれば悲痛の最期、と言えるでしょう。
尚、曹丕の勘気をかったのは「甄夫人の子の曹叡が曹丕の子ではなく、全夫である袁煕の子であったからでは」という一説もありますが、これは正直どこまで信じて、どこまで疑ってかかれば良いのか未知数。一般的にはこれは間違いとう認識であり、三国志の注釈者である裴松之も「明帝の没年は34が正しい」としており、この場合は曹丕の子で間違いはありません。
なのでこの一件は皇帝にありがちなスキャンダルの一種……というか、曹叡の血筋処ではなく、その二代後にはもっと血筋問題が深刻化するのが曹家ですので……今回は、この話はここまでといたしましょう。ただこの美しく聡明でありながら悲痛な最期を遂げた甄夫人のイメージは、後の彼女のイメージに影響を与えています。
映画やドラマにおける「甄姫」の役割と歴史的背景
ここでもう一つ紹介したいのが、曹丕の弟である曹植の代表作「洛神賦」について。このモデルが甄夫人である、という話が「感甄記」という物語から引用されているのですが……内容をかいつまんでみますと、曹植は甄夫人を思っていたものの、甄夫人は曹丕と結ばれた。
弟の自分の妻への想いを知っていた曹丕は、甄夫人の死後にせめてと甄夫人の枕を曹植への慰めに贈ります。この枕で眠った曹植の夢に甄夫人が現れ、自身もまた曹植のことを想っていたと返して目が覚め、曹植は思いの通じた喜びと哀しみから「感甄賦」という詩を作ったが、曹叡がこれを後に「洛神賦」と変えた……という話です。
かなり眉唾物ではありますが、これを取り入れるなら曹丕と曹植という兄弟両名から甄夫人は想いを寄せられていながら、悲劇の最期を迎えたことになりますね。これをより悲惨な方向に……というと失礼ですが、この恋模様を第三者に利用された形に描かれているドラマがありまして……よろしければ、軍師連盟、見てみて下さい。
しかしこのドラマのみならず、恋愛のゴタゴタ、その中心の非業の最期を遂げる美姫というのは、貂蝉然り、古今東西である種の欠かせない物語のエピソードの一つ、ともなっていますので、そういったワンシーンを描くのに、甄夫人、は欠かせない存在であり、また別の言い方をすれば、そんなシーンが必要なければさほど重要ではない人物……ともいえる女性となっていると愚考するのですが、皆さんはどうでしょうか。
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甄姫が後世に与えた影響 一人物としての描かれ方
さて、ここらで甄姫、という人物に少しフォーカスしてみますと、彼女は当初こそイメージが固まってなかったものの、曹丕が遅まきながらプレイアブル化してからは、寧ろ相思相愛、戦場でもいちゃつく様な、それこそ史実から見たら驚く様な関係を夫と築いています。
まあゲームで想定外のドロドロを見せられても爽快アクションから程遠くなっていると思いますし、個人的には甄姫の要素に、郭皇后の要素をプラスして「甄姫」というキャラクターを生成しているとも思えるので、子の描き方は上手だと思いますね。
あくまで元ネタとゲームでの話は分けて考えるべきですし(大っぴらに「正しい歴史」ということでなければ)、寧ろ史実での二人を知っているからこそ、幸せになって良かった……!というのは歴史もののファンの願望ではないでしょうか。近年ではこういった上手な改変も多く見られてくるようになっているので、甄姫は甄姫として、甄夫人は甄夫人として見ていこうと思う一甄姫ファンの筆者でした。
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甄姫の最期についての史実 「洛神賦」は本当にあり得るのか!?
では最後に、もう一度、甄夫人の最期についてフォーカスしてみたいと思います。ここで並べて考えたいのが、曹植の「洛神賦」について。個人的な意見だけを述べますと、「洛神賦」のイメージが甄夫人……というのは、後世の創作では……?という意見です。そこに「○○のような文献がありまして~」や「曹植の筆運びと文法から判別しますと~」とは言えない無知蒙昧な筆者は、ある一つの根拠からこれを否定意見で述べさせて頂きますと。
『弟の想いを知っていた曹丕は、せめてと甄夫人の枕を曹植に与えた』
……あの曹丕がそんな優しいことを!!?在り得ないのでは!!?ええ、筆者の根拠と言えばここなのですが。曹丕の性格を考えれば、何かここで優しくするのいきなり不自然じゃないです?が大きいですね。寧ろこれは後世から見て、曹丕に捨てられた甄夫人と、曹丕に後継者争いで敗北した曹植を結ばれた形で報われさせたい……という一ファンの願望ではないかと想像しますが、こちらも皆様良ければ、ご一考してくださいね。
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三国志ライター センのひとりごと
さて最後の最期で、ただの一ファンのひとりごととなりますが、筆者は甄姫使いの一武将です。なので笛使いであった彼女に非常に思い入れがあり、多節鞭もこれはこれで良いのだけど~……という、厄介な思いを抱えている一人でもありました。もちろん、分かる人には分かるであろう「おどきなさいキック」が帰ってきて非常に喜んだうちの一人です。
さてはて、ゲームキャラクターの甄姫は非常に幸せそうだな、と思っています。それこそ、甄夫人としての彼女の悲痛な最期は訪れないのではないか、とも考えます。それはただゲームキャラクターだから、というだけでなく、史実では悲痛な最期を迎えたからこその想いでもあることは、これ以上言うと蛇足となってしまいますね。
今回はゲームの話に傾きすぎてしまいましたが、どうぞこの機会に知っている皆さんも、知らない皆さんも。三国志の世界にどぼーん、どうですか?
参考:魏書文帝紀 明帝紀
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