三国志演義は、劉備(りゅうび)、関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)の
桃園結義から始まります。
劉備と張飛は、黄巾賊を討伐して漢王朝を助けるという意見で意気投合して、
近くの居酒屋で酒を飲み、後から来た関羽とも意気投合し義兄弟の契りを結びます。
でも、実際、大昔の後漢の時代に居酒屋なんかあったのでしょうか?
この記事の目次
貨幣経済の開始と同時に営業を始めた居酒屋
結論から言いますと、後漢の時代に、すでに居酒屋はありました。
というより、それ以前から居酒屋は存在していたようです。
紀元前6世紀に、戦国七雄の斉(せい)で金属貨幣が製造され始めると
貨幣と引き換えに酒を出すサービス、居酒屋の原型が出来たと考えられています。
司馬遷(しばせん)の史記には様々な場面で居酒屋の描写が存在しています。
史記の成立が前漢時代としても、その頃には居酒屋が存在していなければ、
司馬遷が居酒屋の記述を残す訳はありません。
つまり、史記の編纂の中で司馬遷が過去の時代の酒が絡む逸話を前漢時代の
居酒屋に置き換えて執筆したとしても、少なくとも2000年の昔には、
私達がイメージするような居酒屋は存在したという事になります。
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秦の時代の末に見る、居酒屋の風景
漢の高祖劉邦(りゅうほう)は無類の酒好き女好きで知られました。
司馬遷は、この劉邦の事も史記に書いていますが、そこには当時の居酒屋の
情景というのが活き活きと映されています。
「劉邦は酒と色を好み、いつも王媼(おうおん)、武負(ぶふ)の店で
ツケで酒を飲んでいた。
彼が酔い寝をしていると武負も王媼も劉邦の上に龍が廻っているのを見て不審に思った。
劉邦が来て飲んでいると酒の売上は数倍になった。龍の不思議を見て以後、年末になると、武負の店でも王媼の店でもツケ印の券をへし折り、貸し金を帳消しにした。」
これを見ると、秦末の地方都市の沛(はい)では、少なくとも、王媼(王婆さん)と
武負(武婆さん)が経営する二軒の居酒屋があり、その店ではツケが利いたという事。
酒代のツケは年末にまとめて支払った事が分かります。
また、当時は紙が無いので、ツケは券という名前の木簡に記録して
ツケを支払うとそれを折って捨てていたという事も分かります。
前漢時代に入ると、一時、禁酒令が敷かれる
劉邦は酒好きでしたが、漢王朝は天下を統一すると禁群飲(きんぐんいん)
という法律を出し3名以上で集まり酒を飲むと罰金に処すと言い出しました。
その理由は、居酒屋で反政府的な議論が起きて酒の勢いで群衆がエキサイトし
暴動に発展しかねないという恐れがあったからのようです。
まだ、天下統一から間もない時代、血の気の多い人は大勢いたようです。
或る程度、天下が安定すると漢王朝は酒造りを国の専売制にして、
大儲けしようと企みますが、これは多くの学者の反対で17年で廃止されます。
それからは、漢王朝は民間の居酒屋を認めますが、同時に酒の消費に合わせて
酒税を取り立てる事を忘れませんでした。
このようにして、禁群飲は税金収入の為に有名無実化していき、
漢が繁栄するようになると民も豊かになり酒の消費量も増加していきました。
後漢時代の劉寛(りゅうかん)の酒の逸話
時代が後漢時代に入っても居酒屋は、繁盛していたようです。
後漢の時代、桓帝(かんてい)、霊帝(れいてい)に仕え
尚書令、太中大夫の要職を歴任した劉寛の話には以下のような逸話があります。
「宴会があるので、劉寛が奴隷を居酒屋に派遣して酒を買わせた所、
その奴隷は酒を持ち帰らないで自分がベロベロに酔って帰ってきた。
劉寛は怒り「この畜生めが!」と奴隷を怒鳴りつけた」
酒を持ち帰らず、自分が飲むとは不真面目な奴隷もいたものです。
ともかく、ここで分かるのは当時の居酒屋が酒を小売しつつ、
そこで飲む事も出来たという事でしょう。
そして、劉寛のような大官の屋敷でも酒は自分で造らず
買って済ませている事から、当時、酒は買うものという意識があった
という事も分かってくるのです。
三国時代の居酒屋って、どんな雰囲気だったの?
三国志のテレビドラマや映画では、椅子にテーブルというお馴染みの
スタイルの居酒屋が出てきますが、これは演義の記述を基にしたフィクションです。
中国で椅子とテーブルの生活が一般化したのは唐代以後の事で、
三国志の頃には、床に座るという昔の日本のようなスタイルが一般的でした。
では、居酒屋でも同じかというと、当時の居酒屋の内部を描いた資料がないので
正確な事は分かりませんが、椅子とテーブルが無い事は間違いないでしょう。
代わりに三国時代には木で造られた長椅子のようなものがあり、
そこに腰を掛けて休んだりしていました。
恐らく居酒屋には、この長椅子があり酒は長椅子の傍らに置いて、
飲んでいたのではないか?と思えるのです。
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