【出師の表】本当は全く泣けない実用文だった!

2018年5月15日


 

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出師の表と諸葛亮

 

西暦227年、(しょく)が第一次北伐の準備を始める前に、蜀の丞相(じょうしょう)諸葛亮(しょかつりょう)

皇帝劉禅(りゅうぜん)に奉ったという上奏文「出師の表(すいしのひょう)」。

宋の時代から「諸葛亮の出師の表を読みて(なみだ)(おと)さざれば、その人必ず不忠」と言われており、

泣かせる名文として有名ですが、はたして本当に泣ける内容なのでしょうか。

心の美しくない私から見ると、泣かせどころが不明な単なる実用文に見えるのですが……

 

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監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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「出師の表」が書かれた背景

諸葛亮と劉禅

 

出師の表とは、臣下が出陣するときに主君に提出する書面で、主君の面前で読み上げて

うやうやしく奏上(そうじょう)するものです。「出師の表」は、蜀の初代皇帝・劉備(りゅうび)が亡くなった後に、

蜀が魏に対して初めて本格的な侵攻を始めようとしていた時、丞相(総理大臣のようなもの)の

諸葛亮が二代目皇帝・劉禅に奏上したものです。

 

当時、劉禅は帝位について間もない二十歳そこそこの若者で、諸葛亮が政務をになっていました。

その諸葛亮が総司令官となって前線におもむくため、都をお留守にすることになるから

心配だなー、という状況で、「出師の表」は書かれました。

 

さっそく「出師の表」を読んでみる

出師の表と諸葛亮

 

書き出しはなかなかいい感じでして、私の好きな部分です。

 

先帝、業を(はじ)めて未だ半ばならずして中道にして崩殂(ほうそ)し、

今、天下三分し、益州疲弊(ひへい)す。()れ誠に危急存亡(ききゅうそんぼう)(とき)なり。

 

先帝が志半ばで亡くなり、天下は()()、蜀の三つに分かれてしまっており、

我が国は疲弊しており、国家存亡の危機であります。と、目下(もっか)の大変な状況を語っております。

今がふんばりどころだぞ! って言ってるんですね。

ちなみに、「秋」は「あき」じゃなくて「とき」と読むそうです。

 

秋は農作物の収穫に重要な季節であることから転じて、物事の肝要な時機のこと。

中国語ではどちらも「qiu」です。訓読(くんどく)でいちいち読み方を変えるなんて、

日本人のオリジナルじゃないでしょうかね。で、うっかり「あき」って読むと

めっちゃ馬鹿にされるんですよ。ブツブツ。

 

よかミカンのブラック三国志入門

 

若い皇帝にプレッシャーをかける

劉禅

 

冒頭の“今がふんばりどころだぞ!”の次には、臣下たちが一生懸命働いてることを

アピールする文章が続きます。

 

然るに侍衛の臣、内に(おこた)らず、忠志の士、身を外に(わす)るるは、

(けだ)し先帝の殊遇を追いて、之を陛下に報ぜんと欲すればなり。

誠に宜しく聖聴を開張し、以て先帝の遺徳を(かがや)かし、

志士の気を恢弘(かいこう)すべし 。宜しく(みだ)りに(みづか)ら菲薄し、

(たと)えを引き義を失いて、以て忠諫(ちゅうかん)の路を(ふさ)ぐべからず。

 

なんか、説教始まりました。臣下たちは先帝のご恩に報じるために一生懸命働いているから、

耳の穴をかっぽじってしっかり臣下の言うこと聞きやがれ、って言ってるんですね。

このあとには、賞罰の査定のスタンスについての説教が続きます。

 

宜しく偏私して、内外をして法を異にせしむべからず。

 

担当部署に手順通りに裁かせるようにして、皇帝の私情をはさまないようにしろと言っております。

 

自分の子分たちを皇帝に押しつける

費褘

 

続いては、郭攸之(かくゆうし)費褘(ひい)董允(とういん)向寵(しょうちょう)といった人名を挙げて、

彼らはナイスガイであって先帝にも評価されたのだと強調し、

彼らの言うこと聞いとけよこの若造、と言っております(「若造」とまでは言っていませんが)。

先帝の威光によって二代目にプレッシャーをかけるという手口ですな。

若造のお前より先帝に評価された臣下のほうが偉いんじゃ、勝手に政治をいじくりまわすなよ、

って言いたいんじゃないでしょうかね。そうとは名言していませんが。

孔明

 

この四名は全員荊州の出身です。つまり、諸葛亮は自分の荊州時代からの人脈で

つながっている子分たちを皇帝に押しつけているわけです。

自分が都を留守にしても、皇帝が自分の子分たちの操り人形でいてくれれば

諸葛亮は安心できますからね。

子分たちを推薦した後、諸葛亮はこんなことを書いております。

 

賢臣に親しみ小人を遠ざくるは、此れ先漢の興隆(こうりゅう)せし所以なり。

小人に親しみ賢士を遠ざくるは、此れ後漢の傾頽(けいたい)せし所以なり。

 

先例を挙げながら、自分が推薦した立派な臣下たちの言うことを聞かなきゃお前はアホじゃ、

と釘をさしているんですね。アホじゃとは言っていませんが。

後漢みたいに傾いちゃうぞ、って脅かしております。

 

(こんな表文を受け取って、もしも皇帝がその四名を全然使いたくないと思っていたら、

どうやって拒めばいいんでしょうかね。「バッキャロー、却下じゃ。書き直せ!」って

言えばいいんでしょうか)

 

自分が先帝に高く買われていたことをアピール

孔明と劉備

 

“俺の子分の言うことを聞いとけ”と言った後には、唐突に諸葛亮の思い出話が始まります。

臣本布衣(しんもとほい)、うんぬんかんぬん。要約すると、こんな感じです。

 

ペーペーだった自分が住んでいたボロ屋敷に先帝は三回も足を運んで

自分をスカウトした。(それほど先帝は自分を評価していた)

先帝のすごいピンチの時にも自分は補佐してきて、もう二十一年も経つ。

先帝は亡くなる時には自分に国家の大事を託した。(自分はただの臣下とは別格だ)

自分は先帝の期待にこたえるために夜も眠れないほど心をくだいている。

だからこのあいだは南方の不毛の地に遠征して行って兵隊要員を

とっ捕まえてきた(偉いだろう)。兵隊をゲットしたから今度は北の魏をやつけに行く。

これは先帝の恩に報い、二代目に忠をつくすためにやることである(感謝しろ)。

 

自分が先帝に高く買われていたことと、自分の功績をアピールしつつ、

先帝の恩に報い二代目に忠をつくすためにいま軍を起こすのだ、と、

自分の出征に誰も文句をつけられないようにくどくどと言っております。

 

お互いガンバローと熱くまとめる。そして涙。

朝まで三国志

 

最後のほうは北伐にあたっての覚悟を熱く語っております。

 

損益を斟酌(しんしゃく)し、進みて忠言を尽くすに至りては、則ち攸之(ゆうし)()(いん)の任なり。

願はくは陛下、臣に託するに討賊興復(とうぞくこうふく)の効を以ってせよ。

効あらずんば則ち臣の罪を治め、以て先帝の霊に告げよ。

()し徳を興すの言無くんば、則ち攸之・褘・允等の慢を責め、

以て其の(とが)(あら)わせ。

 

意味:内政を補佐するのは郭攸之、費褘、董允たちの仕事ですから、私には外征をお任せ下さい。

失敗したら煮るなり焼くなり好きにしやがれ(絶対勝つから待ってろ若造)。

内政をしっかり助けてもらえない時は郭攸之、費褘、董允らを責めろ(彼らは絶対ちゃんとやる)。

 

陛下も亦た宜しく自ら謀りて以て善道を咨諏(ししゅ)し、雅言を察納(さつのう)し、

深く先帝の遺詔(いしょう)を追うべし。

 

意味:先帝の遺詔にそむかないようにお前もしっかりがんばれ若造。

 

臣、恩を受くるの感激に勝えず。今遠く離るるに当たり、表に臨みて涕零(ていれい)し、言う所を知らず。

孔明

 

意味:若造、いつもありがとう!!

遠く離れると思うと泣けてきて何言えばいいかもう分かんない。おわり。

 

三国志ライター よかミカンの独り言

三国志ライター よかミカンの独り言

 

「出師の表」の全体的な趣旨としては、自分が戦いに集中できるように自分の子分を

皇帝に貼り付けておくための実用文であって、とりたてて泣かせるようなものではありません。

しかし、最後のほうはなかなか熱くていい感じですね。

「こちとら首をかけてやってるんだい。止めたって無駄だかんな」っていう意味ですよね。

根性入ってます。出師の表を読んで泣けるというのは、この部分を読んで熱い涙を

たぎらせるということでしょうか。

 

この表文を上奏されて、皇帝劉禅はどう思ったでしょうね。

私の想像では、こんなところかと……↓

(暑苦しいうざいおじさんだけど、まあ一生懸命やってくれてるからいいかなぁ。

どうせ彼の勢力を排斥するほどの力は自分にはないし……)

 

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北伐の真実に迫る

北伐  

 

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三国志好きが高じて会社を辞めて中国に留学したことのある夢見がちな成人です。 個人のサイトで三国志のおバカ小説を書いております。 三国志小説『ショッケンひにほゆ』 【劉備も関羽も張飛も出てこない! 三国志 蜀の北伐最前線おバカ日記】 何か一言: 皆様にたくさん三国志を読んで頂きたいという思いから わざとうさんくさい記事ばかりを書いています。 妄想は妄想、偏見は偏見、とはっきり分かるように書くことが私の良心です。 読んで下さった方が こんなわけないだろうと思ってつい三国志を読み返してしまうような記事を書きたいです!

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