馬岱の二の舞はごめん!やばい上司から身を守る方法


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書籍

 

三国志演義には何種類もの版本があり、吉川英治(よしかわえいじ)さんの小説『三国志』や横山光輝(よこやまみつてる)さんの漫画「三国志」のもとになったのは

李卓吾(りたくご)本と呼ばれる版本です。

李卓吾本では、馬岱(ばたい)諸葛亮(しょかつりょう)の指示によって同僚の魏延(ぎえん)を谷に閉じ込めたり、司令部の指示を聞かず単独行動をとる魏延に従うと見せかけながら

魏延に貼り付いて隙に乗じて魏延を殺したりと、汚れ仕事を担わされています。

 

その過程で馬岱は官位を奪われ杖刑四十を食らうというひどい目にも遭っています。

物語的に見れば、諸葛亮が国家の害になると考えていた魏延を粛清するために馬岱が身を粉にして働いた美談のように見えますが、馬岱本人の立場とし

てはどういう気持ちだったのでしょうか。

 

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関連記事:馬岱は馬超と蜀に降ったのに何故龐徳だけ漢中に残った?

関連記事:【魏延粛清作戦】捨て駒同然の扱いをされた馬岱


 

青天の霹靂

落ち込んでいる馬岱

 

三国志演義李卓吾本に書かれている顛末を馬岱目線から見てみましょう。

蜀の第五次北伐の際、馬岱は他の将軍たちと同じようにごく普通に日々の勤めをこなしていました。

そんなある日、丞相にして総司令官の諸葛亮が、敵の大将・司馬懿(しばい)を谷間に誘き寄せて焼き殺すという作戦をたてます。

司馬懿が逃げ出せないように谷の出口をふさぐ係になったのが馬岱です。

 

作戦当日、馬岱は指示通りに谷の出口を塞ぎました。

任務を終えて陣地に戻ると、陣営が騒然としています。

聞くところによると、司馬懿を誘き寄せる係だった魏延が司馬懿と一緒に谷に閉じ込められてしまい、

危うく焼け死ぬところをにわか雨が降ったことでなんとか助かったということです。

 

馬岱は自分の任務を手はず通りにこなしていますので、

どうしてそんなことになったんだ、火をかける係のやつ気をつけろ、というくらいの気持ちで騒動を見ていたことでしょう。

ところが、諸葛亮は突然馬岱を呼びつけてこうなじったのです。

「司馬懿を谷に閉じ込めろとは言ったが、文長(ぶんちょう)(魏延)まで閉じ込めるとはどういうことだ!」

エエ~、知らないよ~。おれ指示通りにやっただけだよ~。


 

これが丞相のやり方か……

馬岱

 

わけも分からず、弁明の機会もないまま、馬岱は官位を剥奪(はくだつ)され、杖刑四十に処されました。

これが丞相の法治主義か。背中ズキズキ、歯ぎしりギリギリ。

馬岱がぶうたれているところに、諸葛亮の秘蔵っ子の樊建(はんけん)が訪ねてきてこう言いました。

 

「丞相は将軍の忠義をご存知です。ゆえにこの計を将軍に委ねられました。

かくかくしかじか。これが成功すれば一番の功績になります。

魏延には、楊儀の指示によって魏延を閉じ込めるはめになったのだと言って

恨みの矛先をそらして下さい」

 

“かくかくしかじか”の部分は、原文では「如此如此」と書いてあります。

ここで全容を書いてしまうとネタバレになるからです。

ネタバレ覚悟で書きますと、“かくかくしかじか”の内容は下記のようなものです。

 

丞相は魏延が傲慢(ごうまん)な性格であることから、ゆくゆくは誰の指示にも従わなくなるであろうと憂慮している。

そのため、今回の作戦で事故に見せかけて魏延を始末するつもりであったが、大雨のために失敗してしまった

魏延の怒りを鎮めるために馬岱将軍に罪をかぶってもらったが、どうか耐えてもらいたい。

 

この状況を利用して、次は魏延と楊儀(ようぎ)を仲違いさせる作戦を考えている。

将軍は魏延を谷に閉じ込めることは楊儀の指示であったと魏延に弁明し、楊儀に対する恨みを魏延に植え付けてほしい。

そして楊儀に対する恨みを持つ者同士として魏延に接近してもらいたい。

 

丞相亡き後には楊儀が総司令官に任命されるはずだが、そうなれば魏延は必ず楊儀に背くであろう。

将軍は魏延に貼り付いて、隙をみて魏延を殺して欲しい。

魏延は指令に背いた謀反人として葬られることになるため、彼を殺せば将軍の大手柄になる

 

北伐の真実に迫る

北伐  

真面目に勤めていたことがあだとなった

馬岱に斬られる魏延

 

これまたやっかいな任務を押しつけられたものですね。いつも真面目いちずだった馬岱。

どんな任務も寡黙にこなす武将として信頼されたことがあだとなりました。

やばい上司に見込まれるとろくな目には遭いませんな。

丞相は魏延のことが気に入らなければ堂々と処分する権限があるはずなのに、どうしてこんな小細工を弄するのやら……。

 

魏延の勤務態度に全く落ち度がなく、法によって処断できるような隙がなかったんでしょうかね。

法治主義をとっている手前、気に入らないから消えてくれというわけにもいかず、なんとかボロを出させてその罪を問うしかなかったのか……。

それが丞相の法治主義のなれの果てなのか……。

 

もし私が馬岱だったら、李卓吾本に描かれているようなブラック諸葛亮には心底がっかりです。

李卓吾本のこの筋立てはいけませんね。

李卓吾本の不適切なところを書き直しながら作られた毛宗崗本という版本ではこの魏延焼殺未遂事件はカットされていますが、いい編集だと思います。

(諸葛亮を嫌いになりたい人には李卓吾本のほうをおすすめします)

 

馬岱の胸中

 

李卓吾本には、この計略を聞いた馬岱がはなはだ喜んだと書かれています。

しかし馬岱の胸中はそう単純ではなかったのではないでしょうか。

本音からすれば、コンプライアンスに反するような仕事には手を染めたくなかっただろうと思います。

しかし、丞相の秘密を知ってしまった以上、足抜けして無事で済むはずはありません。

 

また、官位を剥奪されてしまったため、丞相の計略を完遂する以外に名誉回復の手立てはありません。

今後も組織の中で生き残りたいと思えば、丞相の陰謀に地獄の底まで付き合うしかないのです。

しかも、もし計略が不首尾に終われば地獄に落ちるのは馬岱だけ。

誰も彼も口をぬぐって知らんぷりをするでしょう。

 

この窮状から自分を助け出すためには、なんとしても計略を成功させるしかありません。

クッソー、やったるわい! この時の馬岱のヤケクソな表情が、李卓吾本に書かれていた「はなはだ喜んだ」の正体ではないでしょうか。


 

守るものある身のつらさ

馬超

 

馬岱がどうしてもこんな汚れ仕事をやりたくないと思えば、仕事をやめて隠遁(いんとん)するという手があります。

これだと、谷の出口を塞ぐ手順を間違って官位を剥奪された残念な人として老後を過ごすことになりますが、業務の手順を間違うくらいは

誰にでもありうることなので、さほど不名誉だとか悪人呼ばわりされるということもなく穏やかな老後を過ごせることでしょう。

 

しかし、馬岱には自分だけの都合で隠遁してしまうことのできない事情がありました。

馬岱の親戚は戦乱でほとんどが死に絶えてしまい、馬岱と従兄弟の馬超の家族しか残っていませんでした。

馬超(ばちょう)はすでに亡くなっており、馬岱は惣領として一族を守っていかなければならない立場でした。

 

隠遁などもってのほか。

 

どんなことをしてでも名誉回復をはたし、馬氏の名を輝かせなければなりません。

諸葛亮は馬岱のこういう立場も分かったうえで、陰謀の片棒をかつがせる相手として馬岱に白羽の矢を立てたのかもしれませんね。

だとすれば、人の足元を見て思うとおりに動かすという悪魔的な采配です。


  

 

やばい上司から身を守る方法

諸葛亮孔明

 

こんな恐ろしい上司がいたら、目をつけられないように細心の注意を払わなければなりませんね。

常に千里の彼方にある暗雲を察知して、巻き込まれないように軌道修正していかなければなりません。

 

三国志演義の諸葛亮の場合は、赤壁の戦いの後に敗走してくる曹操(そうそう)関羽(かんう)が見逃してしまった時点ですでにあやしい兆候が見られます。

その時、諸葛亮は最初から “関羽が曹操を見逃してしまうことは分かっている。

関羽がかつて曹操から受けていた恩義を返す機会を与えるだけだ”と言っていました。

こうしておけば、曹操を仕留める任務に失敗した負い目で関羽は諸葛亮に終生頭が上がりません

 

こういうエピソードを見落とさず、なるほどあの上司はそういう人の動かし方をするやつなんだなと理解したうえで、その魔手から自由な位置を

キープしなければなりません。

決して弱みを握られないように、そして、利用価値があると目をつけられないように、かつ無能の烙印を押されないよう

そこそこの仕事はこなしながら、のらりくらりとしてどうでもいいその他大勢に徹しなければなりません。

それが三国志演義の諸葛亮のような上司の下で定年まで無事に勤める方法です。

 

三国志ライター よかミカンの独り言

三国志ライター よかミカンの独り言

 

李卓吾本に描かれている諸葛亮はあまりにも冷徹です。

蜀の内部を安定させるためには手段を選ばず、国を保つための鬼となった壮絶な人物像です。

これはちょっと、ファンになるというよりは、祟り神として祀ってしまいたいような気配すら漂いますね……。

 

なお、本稿で書いたのは全て歴史物語小説の三国志演義の内容についてであり、正史三国志の諸葛亮像は全然こんなんではありません。

私は正史の諸葛亮も演義の諸葛亮もどちらも好きです……。

 

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