とにかく悪くてセコくて気持ち悪くて、読者の憎悪をとことんかき立て、そして期待通り(!)に凄惨な死に方をしてくれるのが、『三国志演義』序盤の悪役、董卓。
しかしこの董卓、よく読むと、かなりの実力を伴ったやり手の独裁者であることに気づくはず。
そもそもこの人がしぶとくがんばってくれたおかげで、劉備も曹操も袁紹も孫堅も反董卓連合軍としていい感じで邂逅し、群雄割拠の時代の幕が開くことになったのです。
そういう意味では、董卓こそが三国志の物語を面白くしてくれたひそかな貢献者なのかもしれません。ところでこの董卓、実は武勇に関してはかなりのものだったらしいのです!
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この記事の目次
実は武勇に優れていたというエピソードに溢れる若き日の董卓
董卓はかなりの戦士タイプだったのではないかとうかがわせるのが、正史における以下のような記述です。
・若い頃は腕力の強さと武芸のうまさで定評があった、たとえば馬に乗りながら左右どちらの腕でも弓を扱えた(あれ?かっこいい!(笑))
・涼州の出身ということで、西域の異民族討伐にしばしば派遣され、大勝を重ねて出世した
・異民族討伐のプロとして漢朝廷から頼りにされ、出撃回数は百回を超えた。
などなど、武人として本人も優れている上に、現場指揮官としても連戦連勝を重ねるかなり有能な軍人であったことがうかがえます。
何よりこれだけ大勢の人間に恨まれ命を狙われながら生き延び続けたタフネスぶりは才能である!
特に『三国志演義』がふりまいた「まるまる太った下品なオッサン」のイメージのせいで、「本人は戦えない」と誤解されているむきもありますが、こういう記述を見ると実像はどうも違うようですね。なかなか本人も格闘戦もいける、侮れないレスラータイプだったのかもしれません。
たとえ見た目には太めのオッサンであったとしても、古代の中国では暗殺の手段といえば刃物や弓矢での直接攻撃がメインだったでしょうから、「体格が大きくて頑丈」というのはそれだけでアドバンテージであったかもしれませんし。
実際、漢王朝で実権を握った後にはたくさんの人に恨まれ、そうとうに暗殺の危険もあったはずですが、呂布ほどの武人に委託しなければ殺せなかったほどしつこかったというのは事実です。
何度か刃物で刺客に襲撃される目にはあったかもしれませんが、そのつど、格闘で相手を取り押さえて難を逃れていたのかもしれません。だとすれば、まさにレスラータイプだ!
独裁者としてみるならば統治能力も決して悪くない董卓
この董卓、黄巾族の乱によって漢王朝が衰退したあかつきには、討伐軍を解散せずに(これは明白な命令無視)駐屯を続けて権力奪取のチャンスをしつこく待ち続けるなど、なかなかの政治的なしたたかさも持ち合わせています。
洛陽に入った後も、無意味な虐殺や残酷な処刑で評判を落としましたが、「あえて恐怖政治を敷くことで中国を支配しようとした独裁者」としてみれば、手段の是非はともかく、政治手腕はかなりハイレベルだったのではないでしょうか。
主人を失って右往左往していた何進の軍勢を吸収したり、丁原の軍勢を飲み込んだりと、権力掌握の直前までは「敵のだきこみ」に成功しているところにも、非凡な才覚を感じさせます。
だいいち彼が入る前の洛陽は、十常侍にせよ何進にせよ、入れかわり立ちかわり現れたリーダーたちもまったく統治ができておらず、政治的にはひどい状態でした。そこにあらわれた董卓が打ち立てた統治機構は、けっきょくは短命な政権であったとはいえ、一時期は中国大陸を掌握してしまったのはたいしたものともいえます。
彼が死んだあとの李傕あたりになればまったく中央を取り仕切れず、王朝も長安も壊滅的なカオス状態に陥ったわけですから、なおさらです。
まとめ:後世の作家がよほど「悪」のイメージを強調しているだけの可能性もある
今回は董卓が武人・軍人としてはなかなか有能であったらしい、という考察を行いました。たしかに彼が実権を握ってからの数々の残虐エピソードは目に余ります。
ただし気をつけなければいけないのは、三国志の物語の展開上、董卓は何かと「悪役」として描かれているほうが、曹操・劉備・孫権らの世代から見ると都合がよい、という点です。
三国志ライターYASHIROの独り言
つまり董卓の非常識なまでの悪逆さは、ある程度は後世の作家たちによる脚色である可能性も高いのです。
どの程度までが脚色で、どの程度までが実像なのかは、もはや検証することは不可能ですが、「たとえ暴君であったとしても、あの時代に一時とはいえトップにのぼりつめたのはたいしたヤツ」という点は、認めなければいけないのではないでしょうか。
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