正史・演義を問わず「三国志」の登場人物の中で、「最強の武将は誰か?」と問われたら必ずその名が挙がるのが呂布でしょう。
「三国志」の長いストーリーの中で、呂布は序盤にしか登場しませんが、それでもその圧倒的な武力と個性的なキャラクターで独特の存在感を発揮しています。
この記事では、北方謙三先生の名著である『三国志』シリーズ(以下、「北方三国志」とします。)において、呂布がどのようなキャラクターとして描かれているのかご紹介したいと思います。
この記事の目次
「北方三国志」の呂布の特徴とは?
「北方三国志」でも呂布はもちろん、序盤の主要人物の一人として登場します。しかし、演義ではなく正史に準拠している「北方三国志」では、演義準拠の他の作品(吉川英治『三国志』や横山光輝『三国志』)と比べ、呂布の描かれ方が大きく異なっています。
演義での呂布は言ってしまえば、養父を殺し、恩人の劉備を裏切って徐州を乗っ取るなど、儒教道徳に真っ向から逆らう悪逆の権化でしょう。演義準拠の作品での呂布は、概ねこういったキャラクター設定がなされることがほとんどです。
しかし、正史準拠の「北方三国志」では、呂布が非道な極悪人ではなく、「漢」としての魅力に溢れた人物として描かれているのです。
「北方三国志」での呂布は、北方遊牧民の血をひき、馬術や戦闘技術に長け、文字通り圧倒的な武力を振るう猛将として登場します。
騎馬隊での戦闘シーンが頻繁に描かれる「北方三国志」において、呂布の率いる騎馬隊はまさしく作中最強の武力を誇る存在でしょう。しかし、北方謙三先生は呂布を単なる戦闘マシーンとして描いたわけではありません。「北方三国志」では演義準拠の作品ではあまり描かれることのない、一個の人間としての呂布の内面が細やかに表現されているのです。
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「北方三国志」の呂布の性格:呂布はマザコンだった?
「北方三国志」の呂布は、強大な力を持ちながら、どこか少年のような未熟な部分を持ち合わせたアンビバレントな存在として描かれています。
「北方三国志」での呂布は、作中で最強の武力を持ちながら、ずっと亡くなった母親の面影を追いかけているのです。
そんな呂布はある時、恋をします。恋の相手は道ですれ違っただけの女性でした。呂布は彼女に対してどのように自分の愛を表現したらいいかわからず、彼女を力ずくでさらって妻にしてしまいます。
このように、戦場では圧倒的な強さを誇る呂布が、恋愛においては子供じみた行動をとっている点が、「北方三国志」の呂布の持つアンビバレントな性格を示しています。一方で、呂布は妻に対しては一途な性格です。
作中で呂布の妻として登場する「瑶」は呂布より年上で、容姿も美しくないにもかかわらず、呂布は妻のために一生懸命尽くします。なぜなら、呂布は、年上の妻である瑶に亡き母の姿を重ね合わせていたからです。
呂布という人物は、2度にわたって養父を殺害したことで悪名高いですが、「北方三国志」ではその動機を妻に結び付けています。
最初の養父である丁原を殺害した理由は、彼が呂布と瑶を引き離そうとしたからであり、2番目の養父である董卓を殺害した理由は、董卓が瑶を醜い女と貶し、より若くて美しい女を呂布の妻に迎えようとしたからでした。
このように、「北方三国志」の呂布にとって、亡き母とその面影を感じさせる妻の瑶こそが心のよりどころだったのです。しかし、呂布の妻の瑶は病にかかり、呂布の必死の看病の甲斐なく亡くなってしまいます。心のよりどころだった妻を失った呂布はこの後、どのように生きていくのでしょうか。
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「北方三国志」の呂布の相棒:赤兎馬
「北方三国志」において、妻の瑶と並んで呂布の心のよりどころだったのが、赤兎馬です。赤兎馬は赤い毛並みをした名馬で、呂布の愛馬として知られています。
「北方三国志」での赤兎馬は単なる馬ではなく、文字通り呂布の相棒として、呂布にとって特別な存在として描かれています。作中での呂布と赤兎馬との関係は、特に妻の瑶が亡くなった後から明らかにされていきます。
妻を失って失意の中に沈む呂布はしばしば、相棒の赤兎馬に語り掛けます。そして、赤兎馬との対話の中で次第に呂布は生気を取り戻し、「天下獲り」という新たな生き甲斐を胸に戦場を転戦します。しかし、ご存じの通り、最終的に呂布は劉備から奪った徐州を拠点として戦うものの、曹操の率いる大軍と策謀の前に、呂布は次第に追い詰められていきます。
そして、戦場を長く共にした相棒の赤兎馬もついには老い、傷ついてしまいます。その時、呂布は赤兎馬の命を救うために、ついには自ら赤兎馬を敵に委ねる決断をするのです。そして、妻を失い、相棒をも失った呂布は最後の戦いへと身を投じていくのです。
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まとめ:「北方三国志」の呂布像とは?
以上、「北方三国志」の呂布像についてご紹介してきました。「北方三国志」の呂布は、演義準拠の他の作品にあらわれるような、悪逆の権化のような人物でもなければ、目的のためには手段を選ばない戦闘マシーンでもありません。
北方謙三先生は、呂布という人物を圧倒的な強さと亡き母の面影から離れられないという弱さを併せ持つ、一個の人間として描いているのです。
三国志ライター Alst49の独り言
このような、強さと弱さを併せ持ちながら、戦いの中で自らの生き甲斐や矜持を見出し、戦場に散っていった「北方三国志」の呂布は作中でも屈指の魅力と存在感を放つ登場人物と言えるのではないでしょうか。
一般的な作品での呂布の最期は、手酷く扱った部下に裏切られて捕らえられ、曹操によって処刑されるというものですが、「北方三国志」では全く違った形での最期を迎えています。特に、赤兎馬との別れから呂布の最期が描かれている「北方三国志」第3巻は、涙なしには読めない一冊となっています。
もちろん、今回の記事だけでは「北方三国志」と呂布という人物の魅力をすべてご紹介することはできません。この記事を読んだ皆さんも、ぜひ「北方三国志」を手に取り、北方謙三先生の表現する呂布という人物の魅力を感じてみてはいかがでしょうか。
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