三国志平話・民間伝承・三国志演義の描写『桃園の誓い』を比較してみた

2022年2月28日


 

はじめての三国志コメント機能バナー115-11_bnr1枠なし

桃園の誓いをする劉備、張飛、関羽

 

三国志演義」の始まりを告げるエピソードとして有名なのが、「桃園(とうえん)の誓い」です。

 

二刀流の劉備

 

桃園の誓い」によって義兄弟の誓いを結んだ劉備(りゅうび)関羽(かんう)張飛(ちょうひ)がこの後、「三国志演義」の主人公として縦横無尽の活躍をしていくわけですから、「桃園の誓い」は「三国志演義」には欠かせないストーリー上の要素なのは明らかです。

 

今回はそんな「桃園の誓い」について、お馴染みの「三国志演義」以外の文献に登場するエピソードをご紹介してみたいと思います。

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


【誤植・誤字脱字の報告】 バナー 誤字脱字 報告 330 x 100



【レポート・論文で引用する場合の留意事項】 はじめての三国志レポート引用について



「三国志演義」での桃園の誓い

関羽、劉備、張飛の桃園三兄弟

 

この記事をご覧の方で、「桃園の誓い」をご存じない方はおそらくいらっしゃらないとは思いますが、一応、最もポピュラーな「三国志演義」の桃園の誓いのストーリーをおさらいしてみたいと思います。

 

土いじりをする劉備

 

黄巾(こうきん)の乱が勃発し、世が大いに乱れた後漢の末、(むしろ)売りをしていた若者であった劉備は街角に黄巾賊討伐の義勇軍を召集する高札を見かけます。これを見た劉備は、漢王朝の末裔であるはずの自分が王朝の危機を前に何もできないことに無力感を感じ、思わずため息をついてしまいます。

 

張飛の虎髭

 

この時、張飛という大男が「大の男が世のために働かず、ため息をつくだけとは情けない」と劉備に話しかけ、二人は出会います。劉備と張飛は語り合い、乱れた世を立て直すべく立ち上がろうと意気込みます。

 

張飛と劉備

 

そして、酒を酌み交わしていた二人は酒場でもう一人の豪傑・関羽と出会い、三人はすぐに意気投合し、張飛の家の裏にあった桃園で改めて盃を交わし、「同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん。」と義兄弟の誓いを交わすのです。これこそが、「三国志演義」の始まりを告げる「桃園の誓い」です。

 

関連記事:4072名に聞きました!桃園三兄弟にもう一人加えるなら?大調査!

関連記事:桃園の誓いは実話だった!関羽伝に記述されている桃園結義と桃が起用された理由

 

関羽

 

 

 

「三国志平話」での桃園の誓い

三国志平話

 

一方、明代に書かれた「三国志演義」よりも古い元の時代に書かれたとされる物語、「三国志平話」にも桃園の誓いが登場しますが、そのストーリーは若干「三国志演義」と異なります。

 

関羽

 

「三国志平話」での桃園の誓いは以下の通りです。ある時、関羽という男がおり、彼は教養が深く仁義に厚い男で、暴政で民を苦しめる県令を殺してしまい、逃亡生活を送ります。逃亡生活の最中、関羽は大金持ちの張飛と出会います。語り合ううちに、関羽をただものではないと見抜いた張飛は関羽を飲み屋に誘い、二百銭もの大金を出して酒を振る舞います。

 

酔っ払う関羽

 

その後、仁義を重んじる関羽は返礼として張飛に酒をふるまおうとしますが、いかんせん逃亡生活の最中でお金をあまり持っていません。そんな関羽が困っていると、すかさず張飛は「いいんだ、主人に酒を持ってこさせろ」と関羽に助け舟を出し、二人は意気投合します。

 

生徒に勉強を教える盧植

 

そんな中、飲み屋を劉備という男が訪れます。劉備は漢の景帝の末裔であり、若いときは大学者である盧植(ろしょく)の門下で遊学したこともありましたが、当時は筵を市場で売っては酒を飲むという生活を送っていました。

 

酒癖の悪い張飛(桃園三兄弟)

 

飲み屋で偶然関羽と張飛に出会った劉備は、二人と酒を酌み交わすうちに意気投合し、三人はそのまま張飛の家の裏にある桃園で飲み明かし、義兄弟の誓いをしたのでした。

 

関連記事:え!張飛が主人公?三国志平話はどうやって日本に伝わってきたの?

関連記事:三国志平話が面白いのにすたれた理由

 

三国志平話

 

 

民間伝承における桃園の誓い

張飛、劉備、関羽の桃園三兄弟

 

一方、「三国志演義」や「三国志平話」以外の伝承ではどのように桃園の誓いが描かれているのでしょうか。「柴堆三国」と総称される、三国時代以降に語られるようになった民話や民間伝承の中では、桃園の誓いはいささか荒唐無稽な話として語られていたりします。

 

張飛

 

例えば、ある話によれば、肉屋をしていた張飛は千斤の石の下に品物を保管しており、自らの怪力を誇示するために、「この千斤の石を動かせる者がいたら、この下の肉をくれてやる」と宣言します。

 

喧嘩ばかりする張飛と関羽

 

そこを通りかかった関羽は、あっさりと千斤の石を動かしてしまい、張飛の肉を周囲の人たちに分けてしまいます。これに激怒した張飛は関羽に殴りかかり、両者喧嘩となりますが、筵売りの青年であった劉備が止めに入ります。

 

北方謙三 ハードボイルドな劉備

 

関羽と張飛は非力そうに見える劉備を振り払おうとしますが、不思議な力が働いているのか、振り払うことができません。こうして、我に返った二人は、自分たち喧嘩を止めた劉備がただものではないことに気づき、劉備と義兄弟の誓いを結び、劉備の舎弟となったのでした。

 

張飛と劉備

 

また、別の話では、劉備・関羽・張飛の三人が「誰が兄貴分になるか」ということで揉め、決着をつけるために木登りで決めるという話もあります。三人は桃の木(桑の木という説もあり)を囲み、最も早く木を登り切った者が兄貴になることを取り決めます。こうして木登り勝負を始めたところ、運動神経抜群の張飛が一番に木を登り切り、関羽は未だ木の半分ものぼり切れていませんでした。

 

しかし、どういうわけか劉備は木を登ろうともせずに地面に突っ立ったままです。張飛が訳を聞くと劉備は、「木は枝より先に根が張って初めて育つ。だから大木であっても根こそが重要である」と答え、この答えに感服した関羽と張飛は劉備を兄貴分としたのです。

 

北方謙三 三国志を読む桃園三兄弟 劉備、関羽、張飛

 

この話はいささか詭弁じみていますが、それだけ「桃園の誓い」や劉備・関羽・張飛という三人の義兄弟という話が古代中国の人々に深く受け入れられていたということなのでしょう。

 

関連記事:桃園の誓いとは?三国志にはない?それともあった?ロマン溢れる桃園結義

関連記事:【あわれ趙雲】桃園義兄弟に入れないやむを得ない事情とは?

 

はじめての三国志Youtubeチャンネル

 

 

三国志ライター Alst49の独り言

Alst49さん 三国志ライター

 

いかがだったでしょうか。三国志を読んだことがあれば知らぬものはいない「桃園の誓い」というエピソードですが、そのストーリーは「三国志演義」が成立するより前から中国の人々に広く受け入れられていて、時にはジョークのような説話のネタになるほど、ポピュラーなものだったのですね。

 

桃園3兄弟(劉備・張飛・関羽)

 

特に筆者は、三人が誰か兄貴分になるか木登りで争うというのは絵面としても非常にほほえましいもので、力で何とかしようとする張飛を頓知でやり込める劉備というのも、彼らのキャラクターがとても立っていて面白いと思いました。皆さんはいかがだったでしょうか?

 

関連記事:【衝撃の事実】実は三国志には桃園の誓いなんてものは無かった

関連記事:桃園の誓いがなかったら劉備はどうなっていたの?

 

一騎打ち

 

 

 

 

 

  • この記事を書いた人
  • 最新記事
Alst49

Alst49

大学院で西洋古代史を研究しています。中学1年生で横山光輝『三国志』と塩野七生『ローマ人の物語』に出会ったことが歴史研究の道に進むきっかけとなりました。専門とする地域は洋の東西で異なりますが、古代史のロマンに取りつかれた一人です。 好きな歴史人物: アウグストゥス、張遼 何か一言: ライターとしてまだ駆け出しですが、どうぞ宜しくお願い致します。

-三国志の雑学