先史時代より、馬は人類にとってなくてはならない家畜でした。馬は農耕や軍事、そして移動手段として古今東西を問わず用いられ、人類の歴史は馬と共に歩んできた歴史と言っても過言ではありません。
そんな人類にとってかけがえのない動物である馬ですが、中国では馬はとても縁起の良い動物であると言われています。今回は、そんな馬に関する中国の伝承をご紹介していきたいと思います。
馬は龍の代替だった?
古代中国において、馬はしばしば龍とともに登場することがあります。伝説上の動物である龍と実在の身近な動物である馬の組み合わせは考えてみればいささか奇妙ですが、古代中国の人々はこの二つを結び付けて捉え、いわば実在の馬は実在しない龍の「代替品」として考えられていたのです。
大空を翔ける龍と、人類よりも遥かに速く、まるで飛ぶかのように大地を駆ける馬を結びつける考え方は、史料にも表れています。戦国時代の『呂氏春秋』には、「馬の美しきは、青龍の匹なり」という記述があります。ここでは、馬の美しさを、天を舞う聖獣である青龍の姿でたとえているのです。
また、儒教の経典である『礼記』『春秋』などには、「龍馬」と呼ばれる伝説上の生き物が登場します。これは頭が龍で、身体が馬という聖獣であり、君主の威厳や権力、強さや健康の象徴とされています。以上のように、古代中国の人々にとっての馬は、伝説上の生き物である龍にも並ぶほどの威厳に満ちた特別な動物だったといえるのです。
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芸術の源泉としての馬
古代中国において、馬は文学や彫刻など様々な芸術のテーマとなってきました。この点では、牛や豚などの他の家畜の追随を許さないでしょう。
例えば、文学においては、馬を見抜く達人として有名な春秋時代の伯楽という人物が著したとされる『相馬経』が名馬を見抜く指南書として読まれていました。この『相馬経』が記された帛書(絹に書かれた写本)は、前漢時代の墓である馬王堆漢墓からも出土しており、数百年の時を経て読み継がれていたことが知られています。
また、漢詩においても、漢の武帝は西域の大宛から汗血馬を得たことを祝して『天馬歌』を作ったとされており、「三国志」の時代においても「老驥は櫪に伏すも、志千里に在り(老いた馬は厩に伏しても、志は千里のかなたにある)」のフレーズで有名な曹操の『歩出夏門行』や、
曹操の息子・曹植の手による、「白馬金羈を飾り、連翩として西北に馳す(白馬が黄金の手綱で飾られ、飛ぶが如く西北を馳せる)」の一節で始まる名詩『白馬篇』などが知られています。
そして、彫刻や陶芸においても、秦の始皇帝が造らせた兵馬俑をはじめとして、春秋戦国時代から唐代にかけて、死者に贈る副葬品として馬をかたどった陶芸品や彫刻が数多くつくられています。
これらは、死者と共に土に埋められた馬が死者を冥界へと運び、冥界での死者たちの乗り物となるという意味が込められているといわれています。このように、古代中国の人々にとって馬は身近な生き物でありながら、人類を超える体力と脚の速さを持ち、人々の畏敬の対象となってきました。ゆえに、馬は古代中国の芸術の着想の源泉となってきたのです。
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馬に関することわざ
現代の中国においても、馬は縁起の良い動物として扱われています。例えば、「馬到成功」というフレーズは、まるで馬に乗って「成功」へと一直線に駆けるかのような励ましの言葉として、人々に使われています。
また、先程登場した伝説上の動物である「龍馬」は現代でも強さや健康の象徴であると考えられており、「龍馬精神」というのは、「龍馬」のように強い心身を持っているという誉め言葉としてしばしば用いられています。このように、古代の人々のみならず、もはや馬と隣り合わせの生活を送ってはいない現代の中国人たちにとっても、馬は縁起の良い素晴らしい動物ということになります。
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三国志ライター Alst49の独り言
いかがだったでしょうか。時代を問わず、馬は中国の人々にとって身近なパートナーでありながら、畏敬の対象でもありました。だからこそ、中国において馬はかつては芸術の題材となり、現代においては縁起の良い動物と思われていたのですね。
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