徐璆 孟玉(じょきゅう もうぎょく)は、後漢末の時代を生きた人物です。彼の生き方は、清廉潔白にして他者の手本となるような模範的な生き方をしていたことが言い伝えられています。後漢末では、意地汚い宦官達による汚職政治が横行していました。
官職についた徐璆(じょきゅう)にも賄賂を黙認するように命令が入ります。しかし、彼はこれを拒み、次々罪を告発していきました。悪魔の囁きにもNOと言える人物でした。そんな彼も、乱世の真っただ中、皇帝を自称する袁術(えんじゅつ)に見込まれ、ヘッドハンティングされます。
漢の皇帝である献帝(けんてい)を裏切り、新時代の(自称)皇帝・袁術(えんじゅつ)に仕えるように迫られます。今回は、徐璆(じょきゅう)と彼を自身の配下としようとする袁術(えんじゅつ)の掛け合いについてご紹介致します。
後漢末における乱世
霊帝(れいてい)の死後、董卓(とうたく)は献帝(けんてい)を丸め込み権力を得ますが、その後配下である呂布(りょふ)の裏切りにあって滅び、乱世が加速します。
この時、献帝(けんてい)を保護した曹操(そうそう)と、次代の皇帝を自称する袁術(えんじゅつ)の二大勢力が並び立ちます。袁紹(えんしょう)とか孫策(そんさく)とか劉備(りゅうび)とかもいますが、ともかく二つの勢力が並び立ちました。この間、都が長安から許昌に変わるというイベントも起こります。
袁術に捕まる徐璆
徐璆(じょきゅう)は、許昌に向かっている時のことでした。突然、袁術軍が現われ、徐璆(じょきゅう)は捕えられてしまいます。彼を捕えた袁術(えんじゅつ)が言います。袁術(えんじゅつ)「今の世は乱れに乱れ、漢は終わりを迎えようとしている。漢の皇帝はもはや廃位したも同然だ。余は帝位に就くつもりだ。お前が余に仕えるならば、献帝(けんてい)の下で働くよりも高い地位につけてやるぞ。給料アップでウハウハだぞ。」袁術(えんじゅつ)は徐璆(じょきゅう)を召抱えようとしていたのでした。
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袁術の演説
袁術(えんじゅつ)「余が次の王朝を『仲』を築き帝位に就く、これは天命である。」ここから、袁術(えんじゅつ)のトンデモ理論が発せられます。袁術(えんじゅつ)「まず、我が袁家は陳の舜帝(しゅんてい)の末裔だ。乱世の世に号令する義務がある。次に、舜帝(しゅんてい)は土徳を以って天下を治めたが、五行の巡り会わせで考えれば、木火土金水のうち現在の『漢』は『火』にあたり、その次は『土』の徳を持つ余が引き継がねばならぬ。
最後に予言の書によれば”漢に代わるものは、当塗高である”とあり、これは『塗(みち)にあたりて、高く聳えるもの』の意味を持つ。余の名である"術"と字の"公路"(こうろ)はいずれも"みち”を意味している。これは、漢に代わる王朝を余が築くべきとの天命じゃ。」なにやら、随所にもっともらしい事を述べていますがようするにただの逆賊ですね。
これに対して、徐璆(じょきゅう)「龔勝(きょうしょう)と鮑宣(ほうせん)はどのような人物であったでしょう。死んでもあなたには従いません。」と返します。この一言で袁術(えんじゅつ)は、沈黙してしまいます。
徐璆の返答の意図とは・・・
徐璆(じょきゅう)の返答は、如何なる意味だったのでしょうか。龔勝(きょうしょう)と鮑宣(ほうせん)は、前漢時代を生きた人物です。その時代、王莽(おうもう)の帝位簒奪によって、前漢王朝は滅んでしまいました。
王莽(おうもう)は、各地にいる豪族や朝廷内の臣の中で自分に服従しない者は皆殺すと脅すことで、衰退した前漢を乗っ取りました。ところがこの龔勝(きょうしょう)は屈せず、主の鞍替えを良しとしないで断食して死んでしまいました。
鮑宣(ほうせん)も同時期に、従わなかった達とともに獄に入れられました。鮑宣(ほうせん)は獄中で自殺してしまいました。龔勝(きょうしょう)と鮑宣(ほうせん)は、いずれも王朝の終わりにあって、主を変えることを良しとせず、死を選びました。徐璆(じょきゅう)の返答は、『例え袁術(えんじゅつ)が正しく、漢が滅ぶとしても漢とともに死を選ぶ』ことを意味していました。徐璆(じょきゅう)の返答に袁術(えんじゅつ)は勧誘を断念しました。
三国志ライターFMの独り言
おそらく、袁術(えんじゅつ)は勧誘を断られて、ようやく『自身が無理なことを押し通そうとしている』ことに気が付いたのでしょう。私が思うに、袁術(えんじゅつ)は徐璆(じょきゅう)のその清廉潔白な人柄とその統治能力を知り、彼を自身の配下に欲しいと思ったのでしょう。
乱世にあって裏切りや不徳を嫌うそのような優れた人物ならば、自身の配下にいても寝首を掻かれることは無く、また忠臣として主君の為に尽力するでしょう。しかし、そのような人物が、現在の主君を裏切り、自身の配下になることなどありえません。もしも待遇やら高碌やらで簡単に裏切ってしまうようであれば、そのような人物は袁術(えんじゅつ)が求める人物でもないはずです。
参考
後漢書 第六冊 列伝三十八徐璆伝
漢書 王莽伝
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